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第166話 天使の御前

 

「はぁっ、はぁっ! 全員揃ってるか!?」


 ホムンクルス製造工場の奥地。

 学院内での勇者との戦闘に敗北したウダロイ小隊は、学院長室の入口からなんとかここまで逃げてきた。


 生き残りは10名ちょっと。

 彼らは迫りくる王国軍から命からがら逃げおおせ、満身創痍であった。


「王国の勇者があそこまで化物じみているとは......、だが同志職員の脱出までの時間は稼げたはずだ......」

「そうですね同志ラドガ大尉、彼らの死は決して無駄じゃありません」


 ウダロイ小隊は地上へ脱出するべく、工場の最深部へと向かった。

 空間魔法によって強引に拡張されたそこは、よく想像するダンジョンのような石造りとは違い『空を走る回廊』のようなものだった。


 周囲には天空と雲海が広がり、足を踏み外せばどうなるだろうかと恐怖に駆られる。

 それでもウダロイ小隊は先へ進み、回廊の先にある黄金の扉へ辿り着いた。


 ここが最深部【母なる宮殿】への入口である。


「そういえばここに来る途中にある霊集積装置部屋、そこにいた冒険者の青年は何者だったんでしょう?」

「わからん、もしかしたら魔王軍の者かもしれんが......問題なく通してくれたし、今は考えんでいいだろう」


 ラドガ大尉たちが黄金の扉を開ける。


「なっ......!?」


 彼らは瞬時に武器を構えた。

 なぜなら扉の先――――回廊とは打って変わって神殿のようなそこに、"巨大な肉塊"が蠢いていたからだ。


 形容するならば、いくつもの人間を工作のようにくっつけさらに肉付けしたようなイメージ。

 あまりに気味が悪いそれこそが、この工場で造られていた"ホムンクルス"であった。


「あぁ不幸な連邦兵よ! 天使の御前に立てたことを光栄に思いなさい」


 声が響く。

 見れば、肉塊の傍に魔王軍最高幹部ヒューモラスが立っていた。


「天使だと!? 貴様魔王軍か! 同志職員はどうした! ここで彼らと落ち合う手筈なのだ」

「同志職員? あぁ彼らですね......もう"目の前にいる"じゃないですか」

「なんだと!?」


 目をこらせば視界に入るのは肉塊。

 そして――――――


「あっ......!」


 肉塊には白衣が絡まっていた。

 もはやそれだけで、連邦職員がどうなったかを知るには十分だった。


「貴様! 同志職員に何をした! 我々は友好関係にあったはずだぞ! 返答次第ではこの場で射殺する!!」


 銃口がヒューモラスへ向けられる。


「彼らは偉大なる天使の一部になったのです、大変光栄なことです、素晴らしく幸運なことです......世界を統べる存在になれたのですから」

「ええい! さっきからなに訳わからんことを! その肉塊が天使だと!? ふざけるのも大概にしろ!! ただの不気味な肉の集合体じゃねえか!」


 天使と呼ばれた肉塊が動き出す。

 それは徐々に人型へと変形していった。


「ふむ......、あなたたち人間には天使の偉大さがわかりませんか。まぁ仕方ありませんね、次元の低い者が高次元存在たる天使の姿を見ればこんな反応でしょう」

「へっ、なら本当にそれが高次元かどうか確かめてやる、撃ち方始め!!」


 ――――ダダダダダダダダダダッ――――!!!!


 連邦製《PPSHサブマシンガン》、及び《フェドロフM1916》が火を吹いた。

 凄まじい連射によって銃弾が【天使】へ撃ち込まれる。


「やったか!?」


 思わず声をあげるラドガ大尉。

 しかし、【天使】はついていた膝をあっさり立ち上げた。


「なに!?」


 銃弾は確かに命中した。

 物理的に致死量のダメージを与えたはずなのに......。


「撃てっ!撃てぇ!!」


 弾倉を交換してすぐに発砲。

 血を全身から吹き出した【天使】は、銃弾の雨を気にもせず立ち尽くす。


 肉体は徐々に白い肌に覆われ、やがて青年の顔のようなものが胸に浮き出た。


「さぁ【天使】よ! 愚かなる人間に鉄槌を浴びせよ!!!」


【天使】の背から巨大な翼がひるがえった。


 ゴ――――ン、ゴ――――ン!


 口から発せられたのは鐘の音。

 ウダロイ小隊にとって、その存在はまるで黙示録のようだった。


「うっ、うわあああああああッ......!!!」


 母なる宮殿に、血だらけの銃が十数挺転がった......。

 黄金の扉の中からはヒューモラスの笑い声と、何かをむさぼり食う音だけが響く。


【天使】と呼ばれる人型。

 それは、決してこの世に生まれてはならない異形。

 世界の理に反する存在であった......。


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