第166話 プロフェッショナル
連邦軍のコマンド部隊を退けた俺たちは、学院長室の前まで進軍していた。
彼らは少佐の攻撃に驚いてどこかへ逃げたようで、先の会敵以降はまるで平和そのものだった。
「突入用意、合図で開けろ」
「了解ッス」
3、2、1のカウント後、セリカがドアを開け放つ。
俺と少佐が銃を持って入室、部屋の角やデスクなどを入念にクリアリングした。
「クリア!」
「クリア!」
「クリアです!」
どうやら人はいないようだった。
だが、遅れて入ってきたオオミナトが呟く。
「なんかちょっと荒れ気味ですね、さっきまでここに誰かいたんでしょうか?」
彼女の言うとおり、学院長室は清潔さこそ保っているもののどこか散らかっていた。
「大方コミーの連中だろうさ、それよりだ諸君。とりあえず学院内の制圧は完了したが肝心の『ホムンクルス製造工場』の入口が見つかっていない、一応この部屋も調べてみるぞ」
「了解」
少佐の指示に全員が声を揃える。
スイスラスト騎士団がミハイル連邦の部隊にやられてしまったので、ルシアの護衛は俺たちに任されている。
そんな彼女はさっきから訝しげな表情をしていた。
「ここが例の平和愛好家様の部屋ッスかー」
「なんか手がかりありそうか?」
「本棚いじってみたら『全ての戦争は対話で解決』とか『この世の争いは酒を酌み交わすことで解決される』っていうような本ばっか出てきたッス」
「......しまっておけ」
相変わらずスゲエ本揃えてんな......。
対話はまだしも"酒を酌み交わす"とか、相手が宗教的に飲酒が禁じられている人間だった場合どうするんだろうか。
まぁ、1番平和平和と叫んで人を退学処分にまでした学院長閣下が、実は日常的に暴力に手を染めていたというのはなかなかに皮肉である。
しかし今はそんなことを思考する暇はない。
サッサと入口の手がかりを見つけないとな。
俺、セリカ、オオミナト、ラインメタル少佐、ルシアの5人で物色するが結局バカみたいな内容の本や学院の書類、その他関係ないものばかりだった。
「あーもう! 全然見つからないじゃないッスか、絶対ここじゃないですよ」
苛立ったセリカが軽く壁を蹴った。
途端、立っていたルシアがビクリと震えたのだ。
「おいセリカ、ルシアが驚いてんぞ」
俺が注意しようとしたが、ルシアは真剣な表情で俺の言葉を止めた。
「セリカさん......その壁、今度は本気で殴ってもらえませんか?」
「へっ? 本気で殴ったら壊れちゃいますよ?」
「構いません、お願いします」
そこまで言うならと、セリカは置いていたエンピを構えた。
「じゃあ遠慮なく、上位剣士スキル――――『ソード・パニッシャー』!!」
ソードとか言っておきながらエンピによって放たれた一撃は、壁をいとも簡単に破壊した。
案の定、空いた穴は隣の部屋へ通じた。
「一応破壊したッスけど......これでいいんですか?」
「ありがとうございます――――大当たりです」
「えっ?」
ルシアが空いた穴をくぐろうとすると――――――
「な!?」
彼女の姿が消えたのだ。
しばらくして、部屋の境にあたる空間からルシアが顔だけを出す。
宙に顔だけ浮いてる状態なので大変不気味、全員が一歩後ずさりした。
「空間魔法で隠蔽されてた入口です、中は通路が広がってますよ」
「なるほど......、先程から見かけなくなっていた連邦兵共はここを通って奥に逃げたというわけか。お手柄だルシアくん」
遂に見つけた『ホムンクルス製造工場』への入口。
確かに空間の奥には、普通ありえないだろう通路が伸びていた。
「じゃあ後は本隊に連絡してもらって――――ヒッ!?」
途端、ルシアが震え上がった。
「どうしたルシア?」
「いえ......、なぜかはわかりませんが急に『霊』がこの学院周辺で急激に増えだしたんです。それが全部この空間の穴にドンドン入っていってるんです!」
霊というと、以前に広報本部で出くわしたあれか。
確かに嫌な寒気と時々子供の笑い声みたいなのが聞こえてくる。
明らかに異常だ。
「これは一刻も早く処置しないと手遅れになります! ラインメタル少佐!」
「あぁわかった、本隊に連絡した後に我々のみで突入するぞ。僕もなにか嫌な予感がする」
幽霊退治のプロフェッショナルと元勇者がこう言うのだから間違いないのだろう。
俺たち5人は、先遣隊としてホムンクルス製造工場へ侵入した。