第163話 ウダロイ小隊VS勇者ジーク・ラインメタル
「6人を射殺! 続けて撃て!」
第1防衛ラインに陣取るウダロイ小隊10名の内2名は、無防備に教室から出てきたスイスラスト騎士団に猛烈な射撃を加えた。
敵からすれば王国の誤射を疑うだろう、それも含めて連邦兵は自らの優位を確信していたのだ。
「釘付けだ! 弾幕を展開しろ! 同志職員の脱出までなんとかもたせるんだ!!」
「ウラー!!」
サブマシンガンのドラムマガジンを素早く交換し、教室にまだ残っているであろう王国軍へ制圧射撃を加える。
装飾の施された廊下はたちまち削れ、奥にあった彫像を壁ごと破壊した。
さあ王国軍よ、教室から出てみろ。それが貴様らの最後だと言わんばかりに撃ちまくる。
それだけに、まだ弾幕が残る中で1人の王国兵が出てきたのは彼らにとっても意外だった。
「なんだあの金髪野郎は」
「構うもんか、撃ち殺せ」
王国軍特有の黒い軍服に同じく真っ黒いコート、そいつは連邦兵と目が合うやいなや――――
「ッ......!」
ニッコリと笑ったのだ。
月明かりと曳光弾に照らされた笑顔は不気味そのものであり、連邦兵は本能的に恐怖を感じた。
そして、知見ある兵士が叫んだ。
「いやっ、あいつは王国の勇者だッ!!」
「撃てっ! 撃てぇ!!」
――――ダダダダダダダダダダッ――――!!!!
虫も通さぬような弾幕を、ラインメタル少佐は壁や天井を跳ね回るようにしてかいくぐった。
空恐ろしい光景に悲鳴を上げそうになった連邦兵は、しかし永遠に黙らされる。
「ようこそユートピアへ!! 歓迎するぞ共産主義者!!」
一撃。
突き当たりまで詰められた連邦兵士は、ストックで顔を殴られると同時に喉元をアサルトライフルで撃ち抜かれた。
「同志二等兵! クソッ!!!」
勇者との距離は10メートルもない。
同志の即死を確認した伍長は、《M1916》をフルオートで撃ちまくった。
「こちら第1防衛ライン! 勇者出現! 同志二等兵がやられた! 増援を――――がぁッ!!」
射撃しながら通信を試みていた伍長へ、勇者は容赦なく喉へコンバットナイフを突き刺した。
血が溢れる。
「腰だめで撃つのは良い判断だったが、通信する余裕まであると思われるとは遺憾だなぁ」
「あっ......が!!」
「おっとゴメンよ、今楽にしてやる」
セミオートで脳天を撃ち抜く。
《どうした同志伍長! なにがあった! 応答せよ!!》
銃声を聞いて来たのだろう、他の8名が迫ってくる。
「ハロー連邦兵諸君、今宵はこの幸運な鉢合わせを天に感謝しようじゃないか」
《貴様王国軍か!? 同志伍長はどうした!》
「私は王国中央軍 レーヴァテイン大隊長ジーク・ラインメタル少佐であります。貴官の信じる同志伍長はヴァルハラへ馳せ参じたようですよ」
流暢な連邦語でラインメタル少佐は返した。
そして、気配を感じた方へアサルトライフルをフルオートで発射する。
「ぐがぁっ!?」
壁際から顔だけを出した連邦兵のこめかみが銃弾に穿たれる。
《そうか、貴様が勇者か。クソッタレの悪の権化め.....、腐りきった王国の犬になったか!》
「それは自虐と受け取っていいのかい? 無線の向こうのコミーさん」
マガジンを凄まじい速度で交換し、連邦兵の反撃をかわす。
勇者モードになった少佐の動きは化物のそれであり、ウダロイ小隊は次々と喰らうようにやられていった。
「不可侵条約を結んでおいてこれとはヒドい仕打ちじゃないか、覚悟は当然出来てるんだろうな?」
《......どういう意味だ?》
少佐は残っていた最後の1人を9ミリ拳銃でとどめを刺す。
廊下には10体の連邦兵の死体が転がっていた。
「バレた工作活動の代償は大きい、連邦には経験というものを与えてやる。高い授業料と引き換えにな」
窓の外――――中庭を挟んで反対側の屋根上にいた連邦狙撃兵を見据える。
援護を任されていた彼――――スモレンスク少尉は、愛銃の《モシンナガン》を手にジッと狙いを定めていた。
同志が鏖殺される光景を耐え、やっとチャンスが来たと思った矢先だった。
「えっ」
勇者と視線が合う。
位置など最初からわかっていたと言わんばかりに。
《逃げろ同志少尉! 狙われてるぞ!》
仲間の警告は遅かった。
「最上位火炎魔法――――――」
少佐の左手に真っ赤な炎が宿った。
「『イグニス・フルパワーランス』!!!」
壁をぶち破った炎の槍は真っ直ぐに飛翔し――――
「なっ......!?」
屋根ごとスモレンスク少尉を消し去り、奥の尖塔を木っ端微塵に粉砕した。
残された狙撃銃の《モシンナガン》が、中庭へと落下してその部品をばらまく。
「っということだ親愛なるコミー、頭を垂れて女神アルナにでも祈ってるといい」
《......我々は神になど決して祈らん!》
「共産主義者と珍しく意見が一致したな、僕も同じだ。ではまた後ほど」
魔導通信機がアサルトライフルによって破壊された。
いまさらですが、ミハイル連邦の装備モデルは実際のソ連軍装備の名称を使っています




