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第162話 満身は禁物ですよスイスラストさん

 

《こちら近衛第2小隊、食堂確保! 送れ!》

《第4小隊よりレーヴァテインリーダー、現在メイン通路にて敵魔導士と交戦中! 増援求む!》

《CPより各班へ! 火力支援は誤射防止のため中断中である! 必要あれば要請されたし!》


 暗い廊下を進む俺たちは、混線する通信を聞きながらクリアリングを進めていた。

 細い隙間を流れる水のように素早く、丁寧に各教室を見ていく。


「まさかこんな形で母校に戻ることになるとはな......」


 俺は思わず呟く。


「あれ、久しぶりの光景に心を打ち震わされちゃいました?」

「んなわけあるか、ここには良い思い出なんてねーよ」

「ドライっすねーエルドさんは、もっとこう......『母校を思い出して涙が!』とか言わないんです?」

「言うかアホ、それよりもうすぐだぞ」


 俺たちは隅を曲がり、かなり大きめの廊下へ出る。

 後ろには少佐とセリカ、オオミナトにルシア、そしてスイスラスト共和国騎士団が続く。

 まず第1ポイントとして俺たちが目指し、到着したのは1つの教室だった。


「ここがエルドさんのよくいた教室ですか〜、......敵影なし。お邪魔しまーす」


 セリカが先行して入った部屋は、多くの机が並べられた空間。

 俺があの日退学処分を言い渡された時にいた部屋だ。


 ここでセルンという学院ランク上位の同期に「戦争好きめ」とか言われたっけ。

 まぁ間違ってはいない、俺は平和を愛する戦争好きなのだから。


「エルドさんはどこの席に座ってらしたんですか?」


 オオミナトの問いに、指を指しながら答える。


「あの窓際だよ」


 言った途端、オオミナトは「あー疲れた」といきなり腰掛けた。


「......なぜわざわざ俺の席だった場所に座る?」

「いえなんとなく、無断で知らない人の席に座ったら失礼ですし」

「きっと今は俺じゃない誰かが座ってるだろ......」

「あー! そういえばそうか!」


 やっちゃったと慌てて立ち上げるオオミナト。

 相変わらずの天然である。


 とそこへ、教室を見渡していた少佐が声を掛けてくる。


「ちょっとみんな来てくれ」


 招き猫につられた客のようにホイホイと皆が少佐の傍へ。

 見れば、そこにはパンの欠片が落ちていた。


「このパンくずがどうしたんですか?」


 不思議そうな顔をするルシアへ、少佐は何かを警戒しているような顔で返す。


「おかしくないかい? 学院封鎖前に食べた物ならもっと風化しているはずだ。なのにこれは......」


 銃口を向けた先にあるパンの欠片は、まるでついさっきまで食べていたかのような状態を保っていたのだ。


「封鎖後に関わらず誰かここにいたと?」


 スイスラスト兵士が口に出す。


「だろうね、どこの誰かは存じないが警戒しておいた方がいいだろう」


 王国軍の封鎖は完璧だ、今この学院は首都防衛師団が鉄条網や機銃で完全にブロックしている。

 内外問わずアクセスは不可能なはずだ。


「フンッ、バカバカしい! どうせさっき入口で魔法を放ってきた魔導士が食ってたんだろうよ」

「あの魔導士は土属性魔法のダミーだ、発動主だとすれば状況からして可能性はあるが気をつけるに越したことはない」

「ハッ、元勇者の割には案外チキンなんですね。ルシア様、やはり貴方の護衛は我々スイスラストの騎士団にこそ相応しい」


 失礼過ぎる態度を見せたスイスラストの兵士は、もうここには用無しだとばかりに入口へ向かう。


「あースイスラスト共和国騎士団の諸君、今は出ないほうがいいぞ」


 少佐の瞳はいつの間にか金色に輝いている。

 勇者モード、つまり戦闘状態になったということだ。


「腰抜け勇者の言うことなんて聞く義務はない、我々は我々で指揮系統も独立しているのだ。さぁルシア様こっちへ――――――」


 俺たちは見てしまう。

 廊下へ出た彼らが次の瞬間――――


 ――――ダダダダダダダダダダダダンッ――――!!!!


 奥から飛んできたマシンガンによって蜂の巣にされてしまったのを。


「おい待て! 撃つな! 俺たちはスイスラストの――――ぎゃあ!!?」


 教室を出たスイスラスト共和国騎士団は、反撃すらできず一方的に射殺された。

 明らかに魔法ではない、銃による攻撃。

 しかしあの方面への部隊展開はまだ完了していないはずなのだ。


 それでも銃弾は誤射という可能性を消し去るように、次々と飛んでくる。


「クソッ! どこの部隊だ!? まさか王国軍じゃないだろうな!?」

「ハッハッハッ! まさか、我々はあんな音の銃を持ってないよ」


 凄まじい高速連射音、少佐は銃声の中で口開く。


「念のため確認だ。セリカくん、音から銃種を判別しろ」

「はい、音的に......わかりました! 連邦製の《PPSH7.62ミリサブマシンガン》! およびそれに交じるように《フェドロフM1916》!!」

「やはりいたか共産主義者コミーめ、いいだろう」


 少佐はアサルトライフルを持つと、金色の魔力を纏った。


「雑魚ばかりで最近体が鈍ってたところだ、全員待機。獲物は全て――――――独り占めさせてもらう」


 少佐は頬を吊り上げ、悪魔のような顔を見せた。

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