第161話 赤い国の兵士達
――――魔法学院内 学院長室。
本来は学院長ルノアールの部屋だったが、今ここには軍服を纏った者たちが立っていた。
「正面突破されました、王国軍が侵入します」
「チッ、やはり即席の土魔法ダミーでは歯が立たないか.....。諜報部の連中め、なにが突入作戦は数日後だろうだ......完全に鉢合わせじゃねえか」
彼らはミハイル連邦軍所属のコマンド部隊、ウダロイ小隊。
王国内で唯一動くことのできる精鋭の兵たちだった。
そんな彼らも、王国軍の最精鋭たるレーヴァテインに近衛師団、スイスラスト共和国騎士団とかち合ってしまったのだから不満もこぼれる。
「落ち着け同志、これも想定内だ」
動揺する部下たちへそう言ったのは、学院長席に座った男だ。
傍には連邦製の《PPSH7.62ミリサブマシンガン》が、ドラムマガジン付きで立て掛けられている。
「同志ラドガ大尉、バリケードの敷設と第1防御ラインへの展開完了しました」
部下であろう男へ、ラドガ大尉と呼ばれた椅子に座る兵士は視線を向ける。
魔導通信を封鎖しているので、こうして徒歩で伝令に来たらしい。
「了解した同志上等兵、さて諸君、ではそろそろ始めようじゃないか」
ラドガ大尉は立ち上がる。
彼が対王国軍用にバリケードへ派遣した10名を除いて、22人の兵士が学院長室にひしめいていた。
「我々ウダロイ小隊の任務は、同志連邦職員をホムンクルス製造工場から秘密通路を使って近くの山脈へエスコートすることだった。だがご覧の通りお客さん方の動きの方が早かったようだ」
サブマシンガンを手に持つラドガ大尉は、王国側の機敏さを素直に褒める。
「いいか同志諸君、これよりエスコート任務を変更、近距離伏撃戦を展開する。同志スモレンスク少尉が屋上から支援、他の分隊はこの学院長室に繋がる全ての通路および階段を死守せよ!」
声を荒らげ轟かせる。
聞こえてくる連合軍の銃声はドンドン近づいてきていた。
「我らは連邦きっての鋭利な懐刀だ! 同志職員が脱出するまで撤退は認めない、戦火の火蓋を切って落とすぞ! 同志レーニンの名の下に、連中の腐りきったアギトを撃ち砕いてやれ!!」
部屋の兵士達が銃を掲げる。
「Ураааааааааааааааааа!!!」
彼らは赤い国の兵士たち......。
彼らは知らない、この後自分たちが二度と祖国の大地を踏めないことを......