第160話 実戦経験が違うのだよ
「射撃開始!!」
《了解、各隊射撃開始!》
探照灯が一声に学院を照らし、窓から魔法を放つ魔導士を捉えた。
「警務隊の退避を掩護しろ!!」
装甲車やハーフトラックに付いた機銃が、次々と魔法学院へ放たれる。
曳光弾(弾道が光って見える弾)なので、闇を切り裂く派手な花火のようだった。
「やっぱり始まったようだね! まあ連中がおとなしく捜査させてくれるなんて端から思っちゃいなかったが!」
「嬉しそうにしとる場合ですか! 魔法バリバリ飛んできてますよ!」
「そう慌てるなエルドくん、ちゃんと用意はしてるさ」
ファイアボールと機銃が交差する中、少佐は並べてあった木箱を蹴り開けた。
中には7.92ミリ汎用機関銃が入っていた。
「セリカくん! こっちだ!」
エンピのみのセリカを、こちらの装甲車の影へ移動させる。
王国軍の装甲車は総じて対魔法用防護がなされているので、炸裂魔法が当たっただけではアッサリと爆発なんてしないのだ。
「どうしました少佐!」
「エンピを置いて肩を貸せ」
「へっ?」
戸惑うセリカは、返答する暇すらなく機関銃を肩に据え付けられた。
「よしエルドくん! かわいい土台の完成だ! 思う存分撃ちまくれ!」
「わたしが据え付け台ッスか!? 聴力落ちるッスよー!」
「耳栓を付けてやるから安心したまえ、エルドくん、初弾を送り込め!」
言われるがままセリカの担ぐ機関銃を構え、コッキングレバーを引く。
少佐がセリカに耳栓をしたのを確認し――――
「理不尽な退学の恨みを晴らすべし! 撃ちまくれエルドくん!!」
「『炸裂魔法付与』!!」
――――ダラララララララララララララララララッ――――!!!
猛烈な速度で連射されたエンチャント付き機銃弾は、学院の壁をえぐるように突き刺さった。
魔法を放っていた魔導士が吹き飛び、ガラスが次々と砕け散る。
そして、実際に敵を倒してみてわかったことがあった。
「総員! あの魔導士は人間じゃない! 土属性魔法で作られたダミーだ!」
誰かが叫ぶ。
倒して初めてわかった、撃たれた魔導士がドンドン土に戻っていくのだ。
これなら遠慮なくぶっ放せる。
「ん? 彼らはなにをやってるのかな?」
ベルトリンク分を撃ちきった時、少佐が呟く。
見れば、そこには物陰に隠れっぱなしのスイスラスト兵がいたのだ。
「あれ、なんで彼らは撃ってないんスか?」
機銃の土台になっていたセリカが一言。
「おそらくこんな実戦は初めてだったんだろう、どう見ても混乱してるようにしか見えない」
スイスラスト兵はバイポッド付きサブマシンガンで懸命に撃ち返している者もいるが、大半が隠れて動けないでいた。
彼らの護衛対象であるルシアは、たまたまこちらにいるので問題はないが......大丈夫かよ。
実戦続きの王国軍とは、動きが雲泥の差だった。
見かねた少佐が、退屈そうにしていたオオミナトの方を向く。
「しょうがない、オオミナトくん。新兵たちを助けてやってくれ」
「やっとわたしの出番ですね! 了解です!」
意気揚々と立ち上がった彼女は、魔力を噴き上がらせた。
「見せてやりますよ! 進化したわたしの力――――『風神の衣』!!」
オオミナトの日本人らしい黒眼が、銀色へと変わった。
途端、周囲を弾道が逸れんばかりの風が吹き荒れる。
彼女もしばらく見ないうちに、相当強くなっているようだった。
「風属性最上位魔法――――『アルティメット・ウインドランス』!!」
装甲車の影から出たオオミナトは、その右手を思い切り突き出した。
現れたのはバカみたいな威力の風の槍、それは学院の左上部分をダミー魔導士ごとゴッソリと消し飛ばしたのだ。
「あちゃ~、まだコントロールが十分じゃないみたい......やりすぎちゃったかな......」
「スイスラストの兵士に比べれば十分だよオオミナトくん! この機を逃すな! 盾部隊前進!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!」」」
少佐の合図で後ろにいたゴツい男たちが、体1個分はあろう盾を持って突撃を開始した。
あの盾は以前、オオミナトにストーカーしていた冒険者クロムが持っていた『魔法反射の盾』だ。
ダンジョン攻略でしか手に入らないレアアイテムを、国家の力で大量生産したらしい。
「機関銃はもういらん! 盾部隊に続くぞ!」
「了解!」
弾切れの機関銃を捨て置いて、俺はトレンチガンを手に盾部隊へ続いて校舎の入口へと一気に肉薄した。
「バリケードがあって通れません!」
「想定内だ! 全員離れてろ!!」
通信を聞いていた後ろの近衛兵が、対戦車無反動砲をぶっ放す。
バリケードは粉々になり、進路は開かれた。
「総員突入せよ!!」
王国軍、及びスイスラスト共和国騎士団はメインエントランスへの侵入に成功した。