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第157話 罪深き矛盾

 

「ゴフッ! ぐおああ」


 足を撃ち抜かれ倒れ込んだルノアールは、鈍い叫び声を上げた。

 通常、ライフルで足を狙うなど難しすぎるのだが、俺の掛けた『誘導ホーミングエンチャント』は寸分の違いなく彼の足首上を貫いた。


「こんな時間に生徒指導とは精が出ますね、ルノアール学院長」

「かあぁっ......! 貴様何者だ! なぜ監視魔法をすり抜けられた!!」

「あなた程度の魔法なんて、俺の魔力量をもってすれば一瞬でパンクさせられますよ」


 突入前、魔法は屋敷の周囲にまんべんなく張られていた。

 偵察班と魔導士部隊が警報システムを無力化した後、俺が監視魔法へキャパオーバー分の魔力を注ぎ込んだのだ。


 結果、監視魔法はパンク。

 魔法陣は数秒で消え失せたというわけである。


 屋敷のいたるところから銃声が鳴る。

 今頃、少佐たちが警備を鏖殺おうさつ、または非殺傷弾で無力化しているのだろう。

 ウォーモンガー達は相手が魔族だろうと人間だろうと関係ないらしい。


「無限の魔力......ッ!! 貴様、まさか......」


 ようやく俺のことを思い出したらしい。

 ルノアール学院長は膝をつきながら俺を見上げた。


「エルド・フォルティス魔導士候補生か......、なぜお前が軍なんかに!」

「あなたのおかげですよ学院長、あなたが俺を退学処分した日から、俺はもう軍にスカウトされてたんです」

「バカな! お前みたいな落ちこぼれの魔導士候補生が、軍でなんか活躍できるわけない!!」


 銃口を向けられながら激昂するルノアール学院長。

 だが、その罵倒は部屋のトビラがハンマーによって無理矢理こじ開けられたことによって中断する。


「いえいえ学院長閣下、エルドくんは実によく働いてくれてますよ」


 入室してきたのは、部下を4人ほど引き連れたラインメタル少佐。

 どうやら屋敷内の制圧がほぼ終わったらしい。


「彼は僕と共にあらゆる死線、あらゆる戦場を駆け巡りました。そこにいるのはもう――――あなたが退学処分にした落ちこぼれ魔導士なんかではありません」


 少佐は机の紙を拾った。


「我がレーヴァテイン大隊の誇る精鋭です、勇者である僕に唯一随伴できる、血みどろの戦場ですら整然とした表情を見せる生粋の戦闘員なのですよ」


 倒れる女生徒が部屋から運び出される。

 少佐が俺に拾った紙を渡してきた。


 見ればそれは進路希望調査。

 そこの第1志望には国防省職員とキレイな字で書かれていた。


「なるほど」


 俺は紙を放ると、再び学院長に向けてアサルトライフルを1発撃った。


「あがぁっ!!」


 右肩を弾丸で穿たれて絶叫する学院長。


「ホントあんたは最低だよ......、俺みたいに軍志望者を退学させるだけじゃ飽き足らず、あんな少女を痛めつけるなんてな!」

「黙れ王国の犬め! 貴様ら軍がいるから平和が遠ざかるんだ! 暴力で飯を食う畜生め!!」

「この大バカ野郎がッ! 教え子に暴力を振るったお前が、偉そうに言う資格なんてねえ!!」


 ストックで思い切りルノアールの顔面を殴った。

 自分の思想に反する人間へ牙を向き、あまつさえ連邦や魔王軍絡みの施設を学院地下に造らせた売国奴へ、俺はさらに怒鳴る。


「若者の将来を潰すことが平和なのか! 無抵抗主義を振りかざして多くの人間を殺すことが平和なのか!? てめえの言うことは全部矛盾してんだよ!! お前みたいに愛だ平和だ抜かしてるヤツが――――1番暴力に手を染めてんじゃねえかよ!!」


 胸ぐらを掴み持ち上げる。

 俺への退学処分程度ならまだ許せた。

 だが進路を示した少女を痛めつけ、夢を潰そうとし、その上で平和を訴える眼前のクソジジイへ俺は怒りを抑えきれなかった。


「......俺たちは今日、あんたを殺すことも任務の内で来ている。だが――――ここで俺がお前を殺せば、お前と同じ穴のムジナだ」

「はっ! 小生意気な小僧め! 殺せ! 殺せばよいじゃろ! お前ら軍隊は殺すことが仕事じゃろうが! サッサと無抵抗の老人を殺せばよかろう!」


 いまだ戯言を抜かす老人は、しかし後ろから声を掛けられる。


「確かに軍は殺すことも仕事の内だ、でもこーんな便利な物だってあるんだよ」


 胸ぐらを離した俺へ、ラインメタル少佐が"非殺傷弾"を装填した銃を投げる。

 既にスライドが引かれていることを確認すると、俺はルノアールへその銃口を向けた。


「対人用の非殺傷弾というものでね、対象を殺さないくらいの威力で発射できる便利道具さ」

「なっ!?」


 ルノアールから焦りの汗が吹き出る。


「楽に死ねると思うなよルノアール学院長、非殺傷と言ってもウォーリアー職のパンチくらい威力はある。我々王国は法を犯した裏切り者に決して容赦はしない」

「あっ......、あぁ」


 引き金を絞る。

 俺は最後にルノアール学院長へ別れの言葉を告げた。


「さようなら学院長、平和主義に......栄光を――――」

「こっ、この落ちこぼれ魔導士があぁ――――――――――――!!!!!」


 断末魔のような叫びと共に、ルノアール学院長はその胸に非殺傷弾をくらって吹っ飛んだ。

 背中から倒れた彼をレーヴァテイン大隊が取り囲む。


「ほーれ縛っちゃれー、サッサと連行するぞ。本部に作戦成功を伝えろ」


 ラインメタル少佐が仕切る。

 俺はその場で腰を落とすと、大きくため息をついた。


 ――――王立魔法学院 学院長ルノアール捕縛。

 レーヴァテイン大隊の損害はゼロで突入作戦は成功を収めた。


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