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第156話 ルノアール学院長の正体

 

 王立魔法学院の学院長は文武両道、魔導士界の星と謳われるエリート中のエリートだった。

 そんな彼は学院長という地位も相まって誰からも慕われ、憧れ、尊敬される素晴らしいお方でありました。


「えぇー......、リーナ魔導士候補生。ちょっといいかな?」


 そんな方に突然校内で出くわし、話しかけられるなど生徒にとってはイレギュラー中のイレギュラー。

 姿勢を正し、リーナ魔導士候補生は学院長ルノアールへ正対した。


「るっ、ルノアール学院長!? いったいどうなさったんですか!?」


 海色のショートヘアを下げた低身長の彼女は、思わず見上げる。


「いやなに、君の進路先を担任から聞いてね――――ちょっと確認したかったのだよ」

「わたしの進路先......ですか?」

「あぁ、たしか王国国防省の職員になりたいんだっけ?」

「あ、はい! わたし両親が2人共に王国軍関係者なので!」


 リーナは凛々しく元気に返答した。


「そうだったのか、もちろんそれは君が行きたいと思ったからこそ進路希望に書いたのだね?」

「はい、今王国は魔王軍との戦争――――そしてミハイル連邦との軍事競争の真っ最中です。魔導士はもはやパーティーの支援職という枠に収まるジョブではありません」


 ルノアールの眉がピクリと動く。


「立派な志だ、君は成績優秀だし必ず国の役に立つだろう」

「あ、ありがとうございます!!」


 この学院長に褒められるということは、学院において絶対の名誉。

 リーナは思う、今日はなんてツイてる日なのだろうと......。


「ところでリーナ魔導士候補生、今夜予定はあるかね?」

「いえ......ありません、どうしてですか?」

「いやなに、私の友人に"軍の関係者"がいてね。会えばきっと将来の参考になると思ったんだよ」


 優しく微笑むルノアール。

 まさしく僥倖ぎょうこうだった、この学院長はたかが一生徒であるわたしにここまで気を遣ってくださる。

 さすがは魔導士界の星、なんと素晴らしく高貴でお優しい方なのだろう。


 リーナはその誘いをすぐさま受けると、夜――――教えられたルノアール学院長の屋敷を訪れた。


「ここで......いいんだよね?」


 学院長のご自宅は石造りの屋敷だ。

 正門を通ると、やがて正面玄関に人影が見えた。


「こんばんはリーナ魔導士候補生、こんな夜分遅くに申し訳ないね」

「こんばんはルノアール学院長、とんでもありません、わたしなんかのために進路相談までしていただきありがとうございます」


 ルノアールは、優しくリーナを屋敷へ引き入れる。

 その様子を、少し離れた家屋の屋上から監視する影がいた......。


「スカウト1よりCPコマンドポスト、対象は女生徒を屋敷に連れ込んだ模様。数1、王立魔法学院の制服を着用しています。送れ」

「CP了解、以後、女生徒を『パッケージ』と呼称する。引き続き監視を続行せよ。送れ」

「スカウト了解、終わり」


 ◆


 ルノアール学院長の屋敷はとても広く、リーナを驚かせた。

 見渡せば長廊下には彼女が一生かけても買えそうにない装飾品だらけだ。


「さぁ、この部屋だよ」


 友人の軍関係者がいるという部屋に到着すると、ルノアールは彼女を背中から押すように入室させた。


「はい、お邪魔しま......あれ?」


 リーナは目を丸くした。

 部屋にはソファーと机、それから暖炉があるだけで人影などどこにもなかったのだ。

 直後、真後ろからガチャリと鍵の閉まる音が響く。


「えっ......?」


 振り向いたリーナの目には、さきほどと正反対――――鬼のような形相をする学院長ルノアールの姿があった。

 そして――――――


「国家の犬畜生に成り下がろうとするバカが......、まだ私の学院内に残っていたとはな!」

「きゃっ!?」


 ルノアールはリーナの髪を強引に掴むと、そのまま奥のソファーに投げ倒した。


「る......、ルノアール学院長......!?」

「このメスガキめ、よりによって王国軍に入りたいだと? その減らず口叩き直してくれるわ!」


 部屋に立て掛けてあった杖を持つと、ルノアールはリーナへそれを向けた。


「『スパーク』!」


 ソファーから立ち上がろうとしたリーナへ、電撃魔法が発射される。


「あがっ......! あぁッ!?」

「安心したまえリーナ魔導士候補生、外傷はつけん程度に痛めつけてやろう」


 魔法の主力をさらに上げる。


「ああああああ!! グアアッ! あぁっ!?」

「大丈夫だ、君がその手で進路希望の『国防省職員』という文字を消したなら家に返してあげよう」


 机の上には、学院でリーナが書いた進路希望調査の紙が置いてあった。


「くはっ......、あう」


 汗だらけでソファーへ崩れるリーナ。

 その意識はほとんど残っていなかった。


「フンッ、もうくたばったか腰抜けめ」


 痙攣するリーナを尻目に、ルノアールは進路表を手に取る。


「たしか前にも君のように軍に入りたいと言う愚かな男がいたよ、魔力量だけが取り柄の魔法が使えない底辺魔導士がね。即刻退学処分にしてやったよ」


 再び杖をリーナに向ける。


「君がこの表を書き直したなら、今夜の記憶は消して無事お家に返してあげよう」


 魔力が高まる。

 この屋敷には侵入者が入ればすぐさま監視魔法が発動する、邪魔者は絶対に来ないとルノアールは確信していた。


「さっ、書き直したまえ。犬畜生のメスガキよ」


 故に警戒心を喪失していたのだ。

 たかが個人の監視魔法の無力化など、大国の軍事機構にとっては赤子の手をひねるようなものなのだと......。


 バリンバリンバリンバリーン!!


 長廊下に面する窓ガラスが一斉に割られ、黒い軍服を着た男たちが次々に侵入した。

 施錠していた正面玄関が、爆薬により盛大に吹っ飛ばされた。

 天井のガラスが砕け、ロープを使った軍人が速やかに流れ込んだ。


「なっ、なんだ今のは!!」


 声を荒らげるルノアール。

 だが、その声もこの部屋の窓ガラスが割られたことにより途絶える。


「誰だ!!!」

「これはこれはお久しぶりです、学院長殿。まさか覚えてらっしゃらないと?」

「ッ......!!」


 立っていたのはかつて王立魔法学院の制服を着ていた......、自分が退学処分にした魔導士。

 男は今――――王国軍の軍服を纏い、アサルトライフルを手に持っていた。


「寂しいじゃないですか、学院長殿」


 割れた窓ガラスと月明かりを背にしたエルドは、アサルトライフルの銃口をルノアールに向け――――――


 ダァンッ!!


 再開を喜ぶ笑顔と共に撃ち放った。


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