第155話 野郎オンリー
「さて大隊諸君! 今宵は月夜の美しい素晴らしき夜ふかし日和ということで朗報をお届けしよう」
王国軍コローナ駐屯地。
兵員輸送車が前に並べられた倉庫内で、我らが大隊長ジーク・ラインメタル少佐が訓示を行っていた。
並んでいるのは俺を含めた60人のレーヴァテイン隊員。
いずれもトロイメライ騒乱からウォストピア侵攻までを経験した、熟練の猛者たちである。
そんな俺たちは9ミリサブマシンガン、7.62ミリアサルトライフル等のフルオート可能な武器で完全武装していた。
その理由は今回訪れる場所にあった。
「そう朗報だ、今朝がた王立魔法学院 学院長ルノアール氏の所在が明らかになった。偵察班いわく、女生徒を連れてご自宅の屋敷でおくつろぎ中だという」
ラインメタル少佐は続けた。
「我々の任務は、その外患誘致罪を犯した学院長ルノアール氏を捕縛または"殺害"することである」
物騒なワードである。
つい先日あった最高幹部エルミナによる王都奇襲のせいか、みんな少しだけピリピリしていた。
「まぁ......人間の殺害は諸君らの得意とするものではないことは心得ている、そのため一応これも用意しておいた」
少佐の合図で積んであった木箱からショットガンが取り出された。
ヘッケラー大尉が掲げて見せる。
「対人用の非殺傷弾を装填した銃だ、余裕があればこいつで対象を無力化しよう。ただ――――」
スライドが引かれ、ガシャっという音が倉庫に響いた。
「もし護衛などの障害があった場合は躊躇なく撃ち殺すように、なーに諸君ら戦争狂のことだ。亜人退治に比べれば魔導士くらい造作もあるまい」
ラインメタル少佐はふと俺の方を向く。
「時にエルドくん、君にとっては古巣のトップなわけだが......抵抗などはあるかい?」
それは少佐からの最終確認、気を遣ってくださっての発言だろう。
思い入れがあれば殺しにくいかもしれないという類いの――――
「少佐、自分はあの学院を理不尽に追放された人間ですよ? いまさら抵抗などあると思いますか?」
「ハッハッハッ! まったくもってその通りだったなエルドくん。よかろう、君の才能を見抜けなかったアホにその鉄槌を叩き下ろしてやるといい」
勇者は無邪気に大笑いすると、大きく両手を広げた。
「さて大隊諸君、連邦と魔王軍に繋がっているコミーな老害を成敗しに向かうぞ。なお、今回は先の最高幹部奇襲によってセリカ・スチュアート1士が負傷して休養中だ」
外で兵員輸送車のエンジンが掛かった。
「つまりは久しぶりの男オンリーである、激しくやろう大隊諸君! 静かに迅速に何よりも汚い作業を万歳三唱しながらこなそうじゃないか!! 全員乗車!! 王立魔法学院長宅を制圧せよッ!!!」
倉庫に響いた少佐の訓示に、全員が声を張り上げた。
「「「「「はッ!!」」」」」