第153話 憧れの女子友達
「あは〜! コッキングした時の音がたまりません〜。犯罪的! 犯罪的な音色ですよ〜!」
もう日も暮れるっていうのに、広報本部のリビングでは相変わらずミリヲタプリーストがハイテンションでいた。
信じられようか......、ちょっと前まで「銃とか野蛮なんで」とか言ってたヤツがアサルトライフルのコッキングレバーをもう100回くらい引いては戻している。
「ですよねですよね〜! この音たまんないッスよねー! わたしこれだけで食パン3枚いけますよ」
対するセリカもさきほどからエンジン全開である。
普段はこんな話題俺にしかできない分、同性の友が見つかって嬉しいのだろう。
多分夕食のことすら忘れてるぞコイツら。
「おいルシア、もう夜だけどお前飯とかどうするんだ?」
「えっ、夜? ――――ってうわ! ホントです! もうこんなに外が暗く!?」
やはり気がついていなかったらしい。
「時間ってこうしてるとすぐに溶けちゃうんですね〜、あっという間でした」
「えっ......ルシアさんもう帰っちゃうんですか? 簡単な食事なら出せるッスけど」
露骨に寂しげな表情になるセリカ。
捨てられた子犬みたいな顔だぞ。
「いえいえ、そんなお手間を掛けるわけにはいかないんで、今日はこのあたりでお暇させていただきます。また来てもいいですか?」
「もちろんじゃないですか! むしろ毎日来てください! 次はもっとデカい銃を用意しときますから!!」
「まっ、毎日!? 大きい銃!? それは確かに魅力的......!」
おい揺れ動くな、毎日ってお前ら2人共仕事あるだろう。
「教会の仕事があるので毎日は難しいですけど、休日にはできるだけ来ますので」
「ホント!? ホントだよ!? 絶対来てよね」
とうとうセリカの敬語が消えた。
「ホントですよ、ちゃんと来ますから」
「やったー! ルシアさんまた来てくれるってー!」
なんだこいつ......、性格というか口調こんなだっけ?
同性の趣味友達が見つかるとこうも変わるものなのか?
「そうだルシアさん! これお土産にあげる!!」
言うと、セリカは奥からなにやら箱を持ってきた。
「これって......?」
「いわゆる戦闘糧食ってやつです! パンとか粉末スープとかコーヒーとかほか色々、味は微妙だけどどう?」
「わあぁ〜! 凄い......ありがとうセリカ! むしろ食べずにとっときたいくらい!」
「また来たときあげるから大丈夫! ルシアに喜んでもらえて嬉しいッスよ〜」
この短時間で距離縮まりすぎだろ!
お前ら敬語が特徴だったでしょうが!
女子ってのはホントわからんな......。
ふと外を見れば、日はほぼ完全に沈んで真っ暗になっている。
「なぁルシア、外もうだいぶ暗いけど1人で大丈夫か?」
「えっ? まぁこれくらい大丈夫ですよ〜」
思いっきり強がるルシア。
しかし体中から変な汗が出まくっている、レーションを持つ手なんて震えていた。
"あんなこと"があって死にかけたのだ、夜道を平気で歩けるわけないか......。
「セリカ」
「あっ、はい! なんでしょう」
「もう外も暗いしルシア1人じゃ危ない、家まで送ってやれ」
トラウマはそう簡単に消えるものじゃない。
なれば少しでもカバーするのが友達というものだろう。
「いやでも......、セリカたちの晩ごはん遅れちゃうし......」
「気にしない気にしない! ルシアに何かあったら友達の名折れ! さあレッツゴー!」
「えっ、いやちょっと! あっ、エルドさんお邪魔しましたー!」
「おう、また来いよー」
拳銃を1丁だけ持って、セリカはルシアを引っ張って外へ行ってしまう。
まぁ家つくまであの調子だろうし、夜道の不安さなんてミリタリートークで消え去るだろう。
俺はソファーに寝転がって、セリカと少佐の帰りを待つことにした。
そして、数十分後に聞こえてきた爆発音と警報に飛び起きるのであった。




