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【完結済み】外れスキルの不遇魔導士、ゴミ紋章が王国軍ではまさかのチート能力扱いだった〜国営パーティーの魔王攻略記〜  作者: たにどおり@漫画原作
【ホムンクルス工場編】

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第152話 1+1は2、しかしそれは多すぎたのである

 

 地下室を去ったラインメタル少佐は、人気の少ない道を歩いていた。

 さっきまでいた場所が場所である、死臭が染み付いた状態ではとても大通りなど歩けたものじゃない。


 もちろんこの行動は誰にも知られていないわけだが、裏路地の噴水広場に差し掛かった時――――"少佐は突然襲われた"。


 屋根上からいきなり降ってきた男が、着地と同時にラインメタル少佐へナイフで斬り掛かったのだ。


「おっと」


 不意打ちにも関わらず首元へ振られたナイフをかわし、蹴りを放つ。

 しかしそれは当たらない。

 相手の男は神がかった反射神経で少佐の攻撃を避けると、すぐさま喉元へ一閃を放つ。


 その身のこなしは訓練された軍人の動きだった。


「ハッ!!」


 ラインメタル少佐の喉へナイフの先端が突き付けられるのと、少佐の抜いた9ミリ拳銃が男の頭へ突き付けられたのはほぼ同時。

 静かになった裏路地に、噴水の音だけが響いた。


「お久しぶりですラインメタル少佐。その臭いだとあまり高尚ではないことをしてきたみたいですね」

「これはこれは"アイス屋のおじさん"、この挨拶方法は久しぶりじゃないか。商売はどうだい?」


 少佐は男に向けていた拳銃をホルスターへ戻す。

 アイス屋のおじさんと呼ばれた男もナイフをしまった。


「売上げは上々です、あと、普通に名前で結構ですよ少佐殿」

「相変わらず日本人は固いね......ふむ、では"ミクラ1等陸曹"。今日はなんの用かな?」

「雑談がしたかっただけですよ、あとは少佐の保護している日本人の少女――――大湊 美咲さんについても近況を聞かせてもらえればと」


 コートのポケットに手を入れる少佐。

 今の一連の戦闘は、どうやら2人にとって挨拶のようなものだったらしい。


「あぁ彼女か、ぶっちゃけオオミナトくんには好き勝手やってもらってるから保護なんて全然だよ。まぁ近々やる作戦には協力してもらう予定だが......」

「作戦......、お教えいただいても?」

「君にならいくらでも教えよう、なにせ君のおかげで厄介なアカの巣を見つけられたのだからね」


 以前王都で亜人による襲撃が起きた際、下水道を通って逃げようとしたマルドーを引っ捕らえたのがこのミクラ1等陸曹なのだ。

 そのマルドーが持っていたケースの書類も、彼から少佐へ渡されたものである。


「ホムンクルス製造工場というものが王立魔法学院の地下にある、その制圧作戦だ」

「ホムンクルス? またけったいなものを造られましたね......」

「全くもって面倒くさいよ、まぁ近況といえばオオミナトくんが最近交戦した『魔導士殺し』もこのホムンクルスと思われる」


 ミクラ1等陸曹は噴水広場のベンチに座る。

 その腰にはマルドーを撃った《シグ・ザウエルP220自動拳銃》の姿もあった。


「魔導士殺し?」

「あぁ、バカみたいに魔法耐性の高いモンスターと聞いている。オオミナトくん達は列車砲に匹敵する合体魔法でどうにか倒したらしいが、果たしてそんな化け物に小銃なんて聞くか怪しいところだね」

「っとなると工場制圧時に出くわすかもしれませんね、対戦車無反動砲か、対戦車ライフルを持っていかれては?」

「それも検討している、いずれにせよ本格稼動する前に叩き潰さねば」


 上空の月を見上げる。


「ウォストピアでは敵がとうとう銃を使ってきた、大方供給先は見えるがね」

「ミハイル連邦ですか?」

「そうだ、ヤツらは既に魔王軍なき後のことを考えて動いている」

「っというと?」


 ミクラの問いに、ラインメタル少佐は人差し指を2本立てた。


「魔王軍が大陸から消えれば、事実上の大国は我がアルト・ストラトス王国、そしてミハイル社会主義共和国連邦のみとなる」

「それを見越して、王国の弱体化を不可侵条約越しに行っていると?」

「つまるところそうだ。ミクラ1等陸曹――――1+1はいくつになると思う?」

「引っ掛けじゃなければ......普通に"2"では?」


 少佐の人差し指は相変わらず2本立っていた。


「じゃあこの"2"という数字......、高いか低いか、大きいか小さいか、多いか少ないか......どう思う陸曹?」

「大陸内にある大国の数を指すのだとしたら、少ないのではないですか......? 少なくとも地球のユーラシア大陸ではデカい国がもっと多かった」


 ラインメタル少佐はミクラの答えを聞くや、手をいきなりパンっと叩いた。


「逆だ陸曹、多すぎるんだよ......"2"という数字じゃ」


 ミクラの背筋に冷たいものが走った。


「この"2"という数字は大国ではない、大陸内における"覇権国家"の数だ」


 少佐は続ける。


「覇権国家は2つもいらない、少なくとも連邦にとってこの"2"という数字は多すぎるんだ。君の元いた世界でもそうじゃなかったかい?」


 ミクラは首を縦に振った。

 そして、この少佐の言っていることが完全に一致していると認めざるをえない......。


 ミクラは地球にあった国家を思い出す。

 かつて冷戦と呼ばれた世界滅亡の危機でもあった戦いを制し、世界最強の覇権国家として君臨した超大国。


 軍事、経済、技術等のあらゆる面で世界一位を誇ったみんなの友達合衆国を――――


「いただろう? 覇権国家は1つで十分と言う国が」


 認めるしかないのだ。

 "2"という数字は多すぎるのだと、地球でアメリカ合衆国とソヴィエト連邦がそうであったように、この世界でもまた覇権を巡って争いが起きるのだと......。


「だからこそ、これはチャンスでもあるんだよミクラ1等陸曹」


 月と建物の明かりを背にした少佐は、全身が真っ黒に染まっているように見えた。


「我々もまた、連邦を魔王軍との戦争に引きずり出すチャンスを逃してはならないのだ」


 覇権を巡る戦いは......既に始まっているのだと。


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