第150話 判明する事実
俺の古巣が根源......まさか。
いやでも目の前のミリヲタプリーストは確かにそう言ったのだ。
「墓地でも病院でもなく、ホントに魔法学院なのか!?」
「はい、退院した直後から調べてハッキリしました。本来霊とは関係ないはずのそこから漏れていたんです」
ルシアはちょっとおかしな子だがプリーストとしての腕は一流だ、この期に及んで間違えるなんてないだろう。
変なところでプロ意識持ってるくらいだし。
まさかの古巣が怪しいという結果に愕然としていた俺の横で、ラインメタル少佐が立ち上がる。
「やっぱり予想通りだったねセリカくん、連中ようやく尻尾を見せてくれたというわけだ」
はい?
今この少佐なんて......。
「おや、既にご存知でしたか?」
パチクリと目を開くルシア。
やはり彼女としても驚きだったらしい。
「いやちょっと待ってください、なんであたかも知ってたかのような――――」
「あの学院が何かを隠してるのはもちろん知ってたさ、ただいかんせん決定打が足りなくてね。今日ようやくピースが揃ったというわけだ」
少佐は部屋を出ると、どこからかケースを持ってすぐに戻ってきた。
「これは?」
「あぁ、このケースはある友人に頼んで手に入れてもらったアカの秘密の箱さ。ルシアくんにわかるよう言うならば――――マルドー支部長の所有物だったものだ」
「マルドー支部長の!?」
驚く俺とルシアを尻目にケースを開ける少佐。
入っていた書類は全て"連邦語"。
"アカの秘密の箱"とは、つまりそういうことなのだろう。
「これには彼が調べた我々の極秘情報が満載なんだが、真打ちはこれだ」
1番下から真っ赤なファイルが取り出される。
連邦語が読めなくてもわかる、明らかに最重要の類だ。
「なんて書いてあるんッスか?」
「これかい?『王都地下におけるホムンクルス製造工場稼動について』だとさ」
「ッ!!??」
場が凍りつく。
「ホムンクルス......!? なぜそんなものを!」
「連中の考えは預かり知らないが、考えたものだよ。確かに我々は連邦との国境付近は警戒していたがまさか王都の地下にこんな工場を造られてるとは思わなかった」
「そのファイルに場所は書かれてないのですか?」
「残念ながら場所までは書かれていない、コミー共は実に周到だ。しかしもうそんなことはどうでもいいんだよ」
ファイルを机に置く少佐。
「ルシアくんが霊を探知した【王立魔法学院】、ホムンクルス製造工場はその地下で間違いないだろう」
合理性の上で考えてみれば至極当然だった。
魔法学院なら魔力反応なんて日常茶飯事なので、仮に変な実験をしていてもバレにくい。
工場用の資材搬入だって学院のものだと思えば誰も疑わない。
なら、少佐はどうして魔法学院が怪しいとわかって......。
「エルドくん、そもそもなぜセリカ・スチュアート1士があの学院にいたと思う?」
「えっ?」
「考えてもみたまえ、魔導士でもない彼女が短期であの学院にいたなんて普通ありえないだろう」
そういえばそうだ。
セリカは近接職の元冒険者、普通の学業目的とは到底思えない。
思い出す、彼女と出会ったあの日の屋上――――軍の通信機で彼女は......。
『ああ少佐? お疲れ様ッス、"偵察"の方は今日にも終わりますよ。そっちはどうですか?』
こう言っていたことを。
「我々も以前からあの学院には疑いを持っていてね、セリカくんを転入生として侵入させ色々探っていたんだ」
「で、その最終日......。誰も来ないと思ってた屋上で少佐と通信してたらエルドさん――――あなたが来たんですよ」
肩の力が抜ける。
マジかよ、そういう流れでセリカは俺と出会ったのかよ。
疑問にすら思っていなかった出会いの事実に、俺の脳は追いつけていなかった。
「まぁ当時は我々もあまり学院の情報を掴めなくてね、結局手ぶらじゃなんだし中退予定の面白い魔力無限魔導士がいるからと君を王国軍へ誘ったわけだ」
「はっ、ははっ......。そういうことでしたか」
なんでしょう、今日はもうお腹いっぱいです。
まさかそんな経緯だったとは......。
「まっ、今思えばわたしは最高の選択をしましたよ。エルドさんはやっぱり王国軍でこそ輝きますから」
「お前さぁ......、出合い頭に俺へ3発撃ったの忘れてるよな?」
「......さぁ〜存じないッスねー」
口笛を下手くそに吹くセリカ。
「とにかくだ、これで確信を得れた! 魔法学院の地下には連邦と魔王軍のホムンクルス製造工場があると見ていい。本格可動する前に叩き潰す」
言って少佐は中身をしまったケースを持つと、部屋の扉を開けた。
「どこへ行かれるんです?」
「なーに野暮用さ、言うならばそうだな......最終確認をしてくる」
ラインメタル少佐は軍服の黒いコートを翻すと、広報本部からどこかへ出かけてしまった。
「しっかしお前、そんな理由であの学院に来てたなんてな」
「あの時レーヴァテイン大隊で未成年者はわたしだけでしたからね、年齢的に潜入できる人が他にいなかったんッスよ」
当時の話にふける俺とセリカ。
ルシアはルシアで、仕事は終わったとばかりに立て掛けていたアサルトライフルを至近距離からジーッと眺めてうっとりしていた。
魔法学院の地下にホムンクルス製造工場......。
ウォストピアだけでも忙しいってのに、たまったもんじゃないな。