第15話 異国のアイス抹茶は、随分と革新的
お昼休み、時間の空いた俺はセリカに連れられる形で彼女のいうアイス屋さんの前へ来ていた。
なるほど凄まじい行列、これが流行りの力か。
「ここですココ! 今話題のアイス屋さん! 全く新しい未知の味を発表したとかで大人気なんですって!」
「未知の味?」
「そう未知の味ッス! 私も最初雑誌で見たときは驚愕でしたよ、それこそさっきの戦車見たときみたいな感じで––––」
「はいはい、なんとなくわかったから早く行こうぜ」
なんとか行列に並んでゲットしたそれは、まず見た目から想定外だった。
ベンチに座り、そのアイスを凝視する。
「なんだこれ……すげー緑色じゃないか」
「そうなんですよ! これ"抹茶"っていうらしいッスよ! めちゃくちゃ美味しいらしいんです!」
この見た目で美味しい? いやはやわからんものだ。
しかし食ってみないと判断はできんな。
「じゃあ……頂く」
「いただきまーす!」
セリカと一緒に口へ運ぶ。
「––––おぉ、甘いな!」
「でしょでしょ? 全く新しいんでもう皆夢中なんスよー」
「確かに美味い、高い値段の価値だけはあるな」
俺はまだ配属されたばかりなので、給料はゼロに等しい。
なので、入隊試験で倒したゴブリンロードの素材を売った金が、今の俺の貴重な活動資金になっていた。
「いやー良かったッス! 舌まで固い人だったらどうしようかと」
「おい待て、俺ってそんな頑固なイメージなのか?」
「そんなイメージじゃないんッスか?」
小突いてやろうと思ったが、ニコニコ顔で頬張るセリカを見ると俺も食事に集中しようという気にさせられた。
さてアイスを食ったら仕事の時間だ、さっそく持ち場へ戻って––––
「……ねえお兄さん、助けてほしいんだけど」
「えっ?」
立ち上がった俺に声を掛けたのは、ローブに全身を包んだ女の子。
身長からしてセリカより少し年下だろうか。
「助けてって、なにをッスか?」
しゃがんで視線を合わすセリカ。
「じゃあお姉ちゃんも一緒に来て、足を痛めて動けない子がいるの」
「それはマズい……! 案内してくれ」
「うん、こっち」
駆け出す少女に着いていく。
だがドンドン路地裏へ入っていくのに、俺はすぐに違和感を覚えた。
走りながらセリカの隣へつく。
「確かに人気の無い場所で怪我したのなら納得だが、これは……」
「えぇ、一度少佐に連絡します」
セリカが通信のため一度離れる。
そのことに少女は気が付かないまま、目的地であろう場所に到着した。
「あれ、お姉ちゃんは?」
「あいつなら途中でコケたよ」
「置いてって良いの?」
「どうせすぐ追いついてくるよ」
流れるように嘘をつけるあたり、俺もだいぶ汚れてしまったようだ。
もし本当に無垢な女の子だったらそれで良しだが。
「怪我した子っていうのは?」
「うん、これ……」
少女が指したのは大きめの箱。
かぶされていた布をソッと開けた。
「ミ~」
顔を出したのは小さな仔猫。
おそらく捨て猫だろう、毛並みはボロボロで足には噛まれたような傷があった。
「なんだ仔猫か……」
人間だとばかり思っていたので、肩の荷がスッと降りる。
これで妙な懸念も杞憂となって終わりだ、セリカにも後で説明しないとな。
「じゃあこの仔猫は俺が預かるから、お嬢ちゃんはもう戻っていい……」
俺の背筋が凍りついた。
さっきまでいたはずの少女が、完全にいなくなっていたのだ。
「まさかッ」
サブマシンガンを構えた瞬間、トロイメライに最も聞きたくない音が響き渡った。
––––ウ"ウ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"ゥ"––––!!
「襲撃警報!?」
それは、魔王軍との戦争以来久しぶりに聞くサイレンだった。
《警報、さきほどトロイメライ13地区において、大量のモンスターが意図的に放たれました。付近の住民の方はただちに頑丈な建物へ避難してください》
大通りへ戻ろうと振り返った時、それは佇んでいた。
「ああ……これだからローブ姿のヤツは嫌いなんだ、クソッタレ」
馬車が通れるくらいの道にいつの間にか陣取っていたのは、廃れたローブに魔法杖、白色の骸をさらけ出したモンスター。
「キャキャキャキャキャキャッ!」
ゴブリンよりもうっとうしい、『スケルトンメイジ』の集団であった。