149話 自称平和主義者からミリ沼へ
現れたのは、こないだまで大怪我で入院していた少女。
「ルシア......なのか?」
「はい、以前は大変お世話になりました。また会えることができて嬉しいです」
ちょっと待て.....、彼女は純然たる自称平和主義者だ。
また「仕事なんで仕方なく来たんですよ」とか言われかねん......!
「あっ......!」
「ゲッ!?」
なんと最悪なことに、後で整備しようと壁に立て掛けていたアサルトライフルがルシアの視界に入ってしまった。
「これって......」
ヤバい......くる!
彼女は前回訪れた時、王国軍や銃について野蛮だの散々言ってくれた。
思わず身構えるが、それは杞憂というやつだったことに気づく。
「これ! 7.92ミリアサルトライフルじゃないですか! 凄い最新鋭! 初めて生で見たー!!」
「......えっ?」
俺とセリカは思わずキョトンとする。
こないだまで「銃なんて野蛮です!」と言ってた子がこのライフルをちゃんと知っているだと?
「ルシアさん......」
言ってセリカが前に立つ。
まさかこいつ、"あれ"をやるつもりか?
よせ! 断定するには危険過ぎる!
パーカーのポケットから数枚の写真を取り出したセリカは、それをルシアに見えるよう突きつけた。
「王国軍の採用するこの対ゴブリン用小火器は?」
「9ミリサブマシンガン、折りたたみストックが特徴ですよね!」
「ッ! なら最近量産されたこの戦車は――――」
「7型戦車! 88ミリ砲を積んでるんですよね!」
「ぐッ......!」
歯を食いしばったセリカは、のけぞりながらもズボンのポケットからさらに写真を取り出した。
「このスコップを王国軍では――――」
「"エンピ"って呼ぶんですよね!」
「なっ!?」
写真をバラバラと床に落として座り込むセリカ。
確信する、こいつの威力偵察によってルシアが前回と――――「銃はダメだけど魔法はいいんです」と言うようなお花畑ではないことを。
「ルシアお前......、俺たちと同じ人種になったのか!?」
「ミリヲタかどうかはわかりませんが、入院中にそこのラインメタル少佐がお見舞いにミリタリー雑誌をいっぱいくれたんですよ〜」
「はあっ!?」
振り返ると、私は知りませんよとばかりに水を煽る少佐の姿。
「しっ、しかし君は俺たちや銃が嫌いだったはずだ、どういう心境の変化が?」
「どういうって......、亜人に殴り殺されそうになったわたしを助けてくれたのは王国軍だったじゃないですか」
数歩部屋に踏みこむと、ルシアは俺たちの方をキッと見つめた。
「死にかけてわかったんです......、神は助けてなんてくれない。祈るだけじゃ平和は手に入らないんだって。王国軍が前線で対価を支払ってくれてるからこそ生活できてるんだなと気づいたんです」
どうやら、彼女はもう偽善に満ちた自称平和主義者を卒業したらしい。
これならもう俺たちと軋轢を生まないだろう。
「じゃあ、アルナ教会の仕事はやめたんッスか?」
確かに。
俺たちがお見舞いに行ったとき、ルシアはアルナ教の教えが書かれた本を破り捨てていた。
普通に考えたら辞めたのかなと思ってしまう。
「いえ、他に食い口もないので普通にアルナ教会でプリースト続けてますよ。さっきも言ったとおり、マルドー支部長が失踪したのでわたしが支部長になったんです」
出世してんのかよ。
「で、その支部長さんが俺たちに今日は何の用で?」
「あっ、忘れてました。ソファーに掛けても?」
「どうぞどうぞ〜、客人をいつまでも立たせるなんてとんでもないッスからね」
ルシアを対面に、少々狭いが俺とラインメタル少佐、セリカでソファーに座る。
「前に相談にきたあの件、覚えてますか?」
「あの件?」
「幽霊騒動です、わたしに安定化を依頼してきたじゃないですか」
「そういえばそんなのあったな」
幽霊騒動。
俺たちの住む広報本部に突如幽霊が出没し、俺たちは対処で3徹するハメになったあれである。
オオミナト風に言うと、セリカのSAN値がゼロになりかけてヤバかった事件だ。
「その幽霊の出処――――発生源がわかりました」
「ホントか!」
「はい、それも意図的によるものです」
なるほど、それで今回わざわざ来たというわけか。
いったいどこから出て来やがった?
墓地か? 病院か? 納骨堂か? いずれにせよとんだ迷惑を被ったのだ。
漏らしたヤツには謝罪と賠償を要求してもいいくらい――――
「場所は【王立魔法学院】、その地下です」
「へ......?」
頭が真っ白になる。
聞き覚えがあるとかそういうのじゃない、ホントだとしたらそこは――――――
「なんだ、君の古巣じゃないか......エルドくん」
【王立魔法学院】。
そこはレーヴァテイン大隊に入る前に俺が通っていた場所であり、現在は中退した思い出深き因縁の地である。
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まさかこんなにもご声援を頂けるとは思ってませんでしたし、同志読者様にはもう感謝しかありません。