表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

147/380

第147話 サーニャは現実を知る

 

 ――――ウォストピア首都 ウォストセントラル。


 賑やかな大通りを、1人の猫獣人キャットピープルの少女が歩いていた。


「お昼の材料はいつもどおりあそこで......、そっか、もうわたし1人分だけで良かったんだった」


 彼女の名はサーニャ・ジルコニア。

 今日はお昼ごはんの材料を買いに来ていたのだ。

 平時であれば多種多様な生鮮食品等が並ぶ市場なのだが、数日前から様子がおかしかった。


「すみません、パンを買いたいんですが......」


 行きつけのパン屋を尋ねる。

 ここのパンはとてもフワフワで、味を最大限引き出すことからサーニャのお気に入りであった。

 しかし、その常連相手に店主は何か言いづらそうにしている。


「どうしたんです?」

「いや実はね......、本当に申し訳ない話――――普通のパンがもう無いんだよ」

「えっ、でも棚にこれだけ......」

「そこにあるのはジャガイモ粉を20%も混ぜた代用品だ、戦争の影響でウチも配給品をやり繰りするしかなくなってしまってね......」


 代用品......。

 それはおおよそ美味いとは言えない代物であり、食品としては最悪の部類である。


「そうなんですか......、では代用品で構いませんので1つ頂きます」

「ゴメンねサーニャちゃん、いつも贔屓してもらってる分、麦をちゃんと使ったパンが作れたら今度教えるよ」

「はい、ありがとうございます」


 店主に笑顔で返し、お金を払って店を出る。


「戦争の影響がここまで酷いなんて......、王国軍は本土のどこまで侵攻してきてるんだろう」


 ウォストブレイド陥落以後、政府はだんまりを決め込んでいる。

 サーニャからすれば、王国軍を押し留めていると願うしかないのだ。


「号外ー! 号外ー!」


 そんなところへやってきたのは、民間の新聞を作っている会社の亜人。種族は今どき珍しいエルフだ。

 ばら撒かれた新聞紙を拾うと、そこには目を疑う文字が書かれていた。


「ッ......!!」


 新聞紙には、今までの政府発表とは全く真逆。

 隠されていた悲惨な現実が綴られていた。


『魔導工業都市ウォストリード、王国軍の侵攻により2日前に陥落』


『経済都市ウォストアーク、先日行われた王国軍による大規模空襲と市街戦の末に壊滅――――現在は占拠状態。死者は10万人以上か......』


『穀倉地帯ウォストロード、大規模空襲と砲撃――――市街戦により壊滅――――現在は占拠状態。死傷者は30万人以上』


『商業都市ウォストルール、市街への毒ガス攻撃により民間人の死傷者膨大――――陥落寸前か』


 思わず新聞を落とす。

 サーニャは指先から足――――ネコミミまで震えていた。

 ここまで都市や穀倉地帯を制圧されていたなんて......、市場から健全な食品が消えるわけだ。


 ヤツらはもうすぐ首都ここまで来る、否応なしに感じざるを得なかった。

 ふと周りを見れば、他の亜人たちもその場で立ち尽くしていた。


 サーニャ同様の反応である。


 だが、その中から1つの声が上がった。


「落ち込むことはない諸君! 本土決戦ならば必ず王国軍に勝てる! 我ら亜人の統合の証を見せつけ、民族一丸となって人間共を粉砕しようではないか!」


 意気軒昂に叫んだのはドワーフの男。

 その手にはウォストピア国旗が握られており、風でなびいていた。


「ヤツらは民間人を攻撃するという非道を行っている! あのような鬼畜を許してはおけん! そうだろうみんな!」

「そっ、そうだ! 市街を砲撃なんて許せねえ!!」

「悪魔のような連中だ! 俺たちも国のために戦わないと!」


 どうやら、ウォストピア側から先に虐殺行為を働いたことはご存知ないようで、民衆は猛々しく拳を上げた。


「ウォストピア万歳! 亜人王万歳!!」

「人間なんていう下等生物に負けてたまるか! ウォストピア精神で吹っ飛ばせ!!」

「勝利を! 女神アルナのご加護あれ!!」


 舞い上がる民衆。

 彼らはまだ総力戦の恐ろしさを知らない、どこかで講和できるだろうなんて甘い考えは通じないことを。


 そんな民衆を尻目に、サーニャは代用品をバッグに入れて帰路についた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ