第144話 憂鬱の参謀本部
遅ればせながら令和初更新です。
新元号になり、今後もガンガン書いていくのでよろしくお願いします!!
――――王国軍参謀本部。
ウォストロード陥落の報せを受けて一時こそ安堵していた参謀将校たちは、つい今しがた飛び込んできた凶報に表情を歪めていた。
「まさか亜人共まで銃を使いだすとはな......」
葉巻を吸っていた北方方面軍司令が、紫煙を吐き出す。
彼の率いる北方方面軍は、ミハイル連邦による火事場ドロボウを警戒するため王国北方に張り付けている。
今回のウォストピア侵攻においても、北方方面軍は参加していない。
そんな彼がここにいるということは、明らかに赤い国絡みというのが確実であるからだ。
「ラインメタル少佐からはなんと?」
「我が軍が使っているライフルの模倣品の他に、連邦製サブマシンガンが確認されたとのことだ」
「《PPSHサブマシンガン》か? 連邦のコミュニスト共め......! 戦闘に参加しないどころかウォストピアに加担するだと!? これだからアカ共は信用できんのだ」
北方軍司令は、吸っていた葉巻を灰皿に思い切り押し付けた。
「参謀次長、他の地域でも銃撃は受けたのか?」
「いや、銃を持っていたのはウォストロード防衛隊の一部だけだ。他に侵攻中だった5つの都市では確認されていない」
「レンドリースにしては小規模だな......、ひとまずこの件は外務省から連邦に確認するほかあるまい」
亜人共が銃を持つ。
これは、今まで圧倒的優勢を確保していた王国軍にとって最悪に近い状態だ。
もしもっと大規模に銃が敵の手に渡れば、それだけで被害は膨れ上がってしまう。
なんとしてもこの段階で止めなくてはならないのだ。
「連邦に問いただしたところで、しらを切られるのはほぼ確実。なんとか決定打が欲しいもんだな」
「......北方軍司令」
「なんでしょう」
重苦しい参謀次長の言葉に、北方軍司令は顔を上げる。
「仮定の話だが......、もし連邦と開戦した場合に北方方面軍はどれほど持ちこたえられる?」
突然切り出されたのは爆弾に等しい話題。
しかしこの状況なら道理であった。
今王国はウォストピアや魔王軍と交戦している。
最悪、ミハイル連邦が不可侵条約を破る可能性すら考える必要があったのだ。
「最低でも1週間は持ちこたえられますが、それ以上となると今ウォストピアに侵攻中の50個師団から増援を頂かねば厳しいかと......」
「なるほど......」
参謀次長は熟考する。
なんとか連邦を対魔王軍戦に引きずりこめないかと、そうすれば前線の負担を一気に軽減でき、北方での脅威もひとまずは落ち着く。
っと、ここで参謀次長はふとある人物と書類を思い出した。
「あぁ......そういえば」
ウォストピア戦ですっかり忘れていたが、ラインメタル少佐の友人が以前、連邦のスパイをとっ捕まえていたのだ。
確かそいつはアルナ教会王都支部の神父を偽り、あらゆる機密を集めていたマルドーという男。
そして、彼の持っていた書類の中の赤いファイル。
対外戦争で優先度が低かったので放置していたが、その赤いファイルの中身が最高に刺激的だったことを。
「王都の下......、もしそこを発見できれば......」
参謀次長が呟いたと同時、部屋の扉がノックされる。
「会議中失礼します! 参謀次長閣下はおられますでしょうか」
入ってきた伝令兵に、参謀次長は落ち着いた声で返した。
「ここにいる、要件を言いたまえ」
「ハッ! スイスラスト共和国大使館より、緊急の報せがあるとプリーストが派遣されてきました! こちらへお通ししても?」
「アルナ教会のプリーストが? 何故わざわざ参謀本部に」
「しょ、小官にはわかりかねます......。ただ、参謀本部とレーヴァテイン大隊に取り急ぎ伝えたいことがあると」