第142話 ウォストロード市街地戦
皆様こんにちは。本日の天気は晴れ時々支援砲撃、および航空支援と大変賑やかです。
「正面から『攻撃型形態』の亜人7体接近っ! 絶対に近寄らせるな!!」
隣で火を吹く戦車の機銃に習って、アサルトライフルのトリガーを引く。
大通りを埋め尽くした弾幕をくらい、突っ込んできた亜人は全員倒れ伏した。
「全く地獄ですかここは! 要塞戦の次は市街戦なんて扱いがブラックにも程がある!!」
戦車の後ろに隠れる。
アサルトライフルの弾倉を交換すると、空になった方が荒んだ石畳へ落下した。
「なにを今さら、国営ブラックだなんてトロイメライの時からずっとそうだろう? "蒼玉の魔導士"さん」
「いちいちその名で呼ばんでください少佐、勲章はまだ貰ってないんですから!」
「貰えるのが確定してるんだから良いじゃないか、【蒼玉銀剣章】を勇者パーティー以外で受勲したのは君が初めてなんだしもっと誇りたまえよ」
市街へ侵攻した王国軍主力の支援のため、俺たちレーヴァテイン大隊は戦車大隊の随伴として投入されていた。
度重なる空爆と砲撃で、町は見る影すらない。
死臭の立ちこめる最悪の職場だ。
「とは言ってもですね――――」
市街戦とは、得てして近接戦になりやすい。
建物を1個1個クリアリングしないといけないのだが、辺りは瓦礫の山。
ちょっと気を抜けば即死に繋がる。
今のように......。
「11時方向! なにか跳び上がったぞ!!」
戦車の乗員が叫ぶ。
見ればずっと隠れていたのであろう亜人が、凄まじい跳躍力で俺たちを真上から襲おうとしていたのだ。
咄嗟で照準が追いつかない。
戦車の機銃も仰角が足りていなかった。
これはヤバい......、接近戦に持ち込まれて死者が出る......!
だが、それは杞憂に終わった。
「はああぁッ!!!」
後ろに控えていたセリカが、戦車を踏み台にして思い切り跳躍。
彼女が持っているのは最強の近接武器であるエンピ――――またの名をスコップだった。
「ゴブオァッ!?」
空中でぶん殴られた亜人は、そのまま瓦礫の中へ墜落する。
「こんなところでもエンピかよ! 銃使え銃!」
「わたしは近接職の剣士ですよ? むしろこっちこそ本命ッス!」
戦車の上に着地したセリカと問答。
なんかこいつ、どんどん残念なスコップオタクになってきてんな......。
そうこうしている内に、まだ無事だった建物へレーヴァテインの先輩方が突入。
何回か銃声が響いた後、魔導通信で『クリア』と簡潔に送られてくる言葉はさすが精鋭と言いたくなる。
「よーしよくやった、全員聞け! これより大通りを抜けて冒険者ギルドを制圧する! そこを抑えれば今日の任務は完了だ!」
ラインメタル少佐が叫ぶと同時、戦車が重い音を立てて動き出す。
その後も木端微塵になった噴水広場を抜けた俺たちは、亜人の攻撃に苦しみながらも前進。
冒険者ギルド前へ到達する。
「あれだな......、総員まだ攻撃するな。味方がいないかを確認する」
冒険者ギルドは王国のものとよく似ていて、石造りの明るい色をした建物だ。
川を挟んだ広場にあり、砲撃によって所々が崩れている。
「このまま制圧して終わりッスかね、まさか冒険者ギルドを制圧する日が来るとは......なんか複雑ですよ」
スコップを抱えながら、彼女は元冒険者として逡巡していた。
まぁ......クエスト受けてたら、いつの間にか軍に入ってギルドを吹っ飛ばす側になってたんだし当然か。
「でもお前だってギルドに追放された口だろ? 抵抗なんて無いと思ってたんだが」
「それはそうですが、一冒険者としての青春がですね――――」
勝ち戦だと気を抜いてしまったのが間違いだったんだろう、俺とセリカの間をツッコミというにはキツすぎるものが駆け抜けた。
――――ッチューンッ!!――――
それは訓練、果ては実践で幾度となく俺たちが標的へ与えていたもの。
「......えっ?」
見れば、着弾した地面には穴が空いている。
軍事や武器の知識はあるからこそ、この攻撃が魔法なんかではないことにすぐ気がつく。
「撃たれたぞぉ――――ッ!! 全員隠れろぉ!!」
次々と飛翔してくるのは、間違いなくライフル弾のそれ。
俺とセリカ、他の部隊員たちは戦車の後ろや建物の影へ身を隠す。
「レーヴァテインリーダーよりCP! ギルドを制圧している阿呆共が我々に銃撃してきている。ただちに中止させよ! 繰り返す! ただちにバカをやめさせろ!」
魔導通信機に少佐が怒鳴りつける。
集中的に弾丸が飛翔し、俺たちの隠れる建物を削った。
いや全く誤射などたまったものではないが......、まぁ少佐が対応してくれてるしすぐ収まるだろう。
しかし、銃撃は決して収まらず。
通信機から漏れたCPの声が場を戦慄させた。
《CPよりレーヴァテインリーダー。その付近に"味方はいない"、繰り返す、冒険者ギルドに他の部隊はまだ到達していない》
過ぎったのは最悪の可能性。
一方的だった戦闘がここに来て拮抗したのだ。
「亜人共......、まさか銃を......っ!?」
アサルトライフルを握りしめる手に、汗が浮かんだ。