第141話 総力戦に飲み込まれる町
「次弾装填!」
「装填よし! 発射準備よし!」
「――――撃て」
――――ドオォンッ――――!!!
轟音と共に、榴弾砲から毒ガス弾が矢継ぎ早に発射される。
ウォストロード防衛隊へまず攻撃したのは、王国軍第101砲兵軍団であった。
この部隊は開戦初期から魔王軍に対してずっと砲撃を行ってきた部隊であり、先日のウォストブレイド攻略戦においても活躍した部隊だ。
敵は今回、塹壕という王国軍にとっては確かに有効とみなされる防御策を取ってきた。
されどそれは所詮付け焼き刃。
近代戦を研究し尽くした王国軍が想定してないはずがなかったのだ。
撃たれ続けるマスタードガス弾により、地平線は毒ガスで溢れている。
本日の風向きはやや西側に弱め、王国軍側には絶対に流れてこない向きだ。
ネーデル陸戦条約では『人間への非人道的な化学兵器の使用を認めない』と記述されている。
だが、亜人に対する記述はどこを探しても見つからない。
王国軍はしっかりと条約を守っていた。
約2時間後――――砲撃は通常砲弾に切り替えられたが、前進していた戦車大隊は1発も砲撃を受けることなく塹壕陣地をアッサリ突破。
陣地に残されていたのは、400体の瀕死の亜人と81門の魔導砲のみであった。
◆
3日後――――防衛線を突破してウォストロード郊外に到達した王国軍は、美しい町並みに対して容赦なく攻撃を開始した。
『戦略爆撃』及び『戦略砲撃』である。
カンカンと空襲用の鐘が鳴る中、ウォストロードに300近いワイバーン編隊が現れたのだ。
「逃げろおーッ!!」
「女子供は地下に隠せ! 戦士諸君は敵ワイバーンを撃退せよ!!
繰り返しになるが、ネーデル陸戦条約には本来民間人などの非戦闘員への攻撃を固く禁じる記述も存在する。
だが相手が亜人ならどうか? それは前述のとおりである。
「あいつら......! 町を無差別に爆撃してやがる!」
「あぁっ! 病院に火球が直撃したぞ!! 誰か急いで消火を......ぐああぁぁあああっ!?」
空を埋め尽くした大編隊は、急降下しながら火球を家々や医療施設、公共施設やインフラ設備へ次々に落としていた。
空爆は苛烈そのものであり無差別、動くものは全て火炎放射で焼き払えとの命令が出ていたからだ。
王国軍はウォストピア国民を『戦闘力を有した潜在的なゲリラ兵、および民兵集団である』と定義付けていた。
これは、王都での無差別虐殺の教訓から兵士を守るための定義付けであったが、今回に関しては都市攻撃の正当化に使われている。
無論、避難勧告など王国軍は行っていない。
亜人は民間人の全てが驚異的な戦闘力を持つ上に擬態できるので、その全てを戦闘員とみなしたのだ。
「ゴガアアアアァァァアアアアッ!!!」
4騎のワイバーンが、町から離れようとした列車にいくつもの火球を発射。
線路ごと吹っ飛び、木製の車両はあっという間に炎上した。
無論、ウォストピア国民が乗っていると知っての攻撃だ。
後の報告書では、『列車に戦略物資を積まれている可能性が濃厚であったため、取り急ぎ攻撃した』と書かれている。
もちろん深夜になっても攻撃は続いた。
「......砲撃準備よし」
川を挟んで、火災のなか暗闇で輝くウォストロードへ155ミリ榴弾砲がいくつも指向していた。
「っ......撃て」
「了解......」
町を反扇状に囲み、ウォストロード全域へ砲撃が行われた。
小さな教会は直撃弾を受けて粉々になり、広場はまたたく間に砲弾でえぐられる。
穀倉地帯であるウォストロードの噴水広場には、『この町の作物のように子供が健やかに育つように』という祈りを込めて子亜人の像が飾られていたが、155ミリ榴弾の至近弾によって跡形もなく消滅した。
市街への徹底的な準備砲撃が完了した後、王国軍は1個戦闘団と3個歩兵師団、支援としてレーヴァテイン1個中隊を投入。
ハイジャンプ作戦を成功させるため、ウォストロード制圧に乗り出した。