第14話 国営パーティーは見逃さない
数多の人間で賑わうトロイメライ祭。そのコロシアムを行う会場のモンスター搬入口に、軍服を着た人間の姿があった。
「レーヴァテインへ、こちらスカウト02。搬入予定のモンスターが到着した模様。ゴブリンにスケルトンメイジを確認、送れ」
男の連絡先は、王国軍の警備本部。
民家に扮したそこに、レーヴァテイン大隊長ラインメタル少佐はいた。
「ご苦労スカウト、引き続き監視を続行せよ」
「了解」
少佐は通信を終えたと思いきや、また次の人物へ通信を繋げた。
「レーヴァテインよりスカウト01、コロシアム内の様子はどうだ?」
熱気に包まれる会場の観客席で、客に偽装した軍人が答える。
「こちらスカウト01、コロシアム内は現在予行プログラム中で小型モンスターと冒険者が戦っています。目立った問題はまだ起きていません」
「そうか、さきほど新たなモンスターが搬入された。我々の予測が正しければ、"連中"は間違いなく動くだろう」
「"連中"ですか……魔法学院へ部下を侵入させた成果とやらですね?」
ラインメタル少佐は頬を吊り上げ答える。
「さすが、偵察のプロは情報が早い。その通りだ」
「仕事柄耳に入るので……檻を護衛している冒険者パーティーは?」
「檻1つに対し15人、おそらく突破されるだろうな」
「悲しい限りです、下級冒険者に護衛を頼んだツケは高いでしょうな」
王国軍は以前より、モンスターを入れる檻の護衛を申し出ていた。
それが、軍服を着るものは信用ならないという感情的な理由で運営に断られたのだ。
そして、代わりに依頼されたのが中堅以下の冒険者ギルドだ。
安いだけで責任を持たない、それこそ真に信用ならない者に仕事を頼むコロシアム運営の姿は、滑稽そのものであった。
「案外強かったり––––という希望的観測をもってはいけませんかね?」
「時代遅れの剣と弓だけで戦えるほど、今の戦いは甘く無いよ。勇者だった僕が言うんだ。間違いない」
「あぁ、勇者殿が言うのであれば間違いありませんな。そういえば新しく入ったという魔導士はどうですか?」
スカウトの問いへ、少佐は愚問とばかりに答えた。
「エルド君は実に最高の人材だ、中堅ギルド5個は軽く超えるような働きを見せてくれるだろう」
「頼もしい限りですな、面白い紋章も持っていると聞いてますが」
「『マナ無限の紋章』か……、彼が軍に理解を示してくれる人間で助かったよ。あれは国家が管理下に置かねばならない最強クラスの紋章だからね」
「冒険者としてフラつかせるより、軍に置いた方が安心というわけですね」
ラインメタル少佐は知っていた。
魔力無限の魔導士が、武器を手に取ればどうなるか。
その恐ろしく強力な紋章と才能は、軍でこそ発揮されるものであるとも。
『スカウト03よりレーヴァテインへ、南の搬入口に黒色のローブを着た不審者を確認しました』
「来たな……、そのまま追跡せよ」
「了解」
トロイメライの祭に、不吉な何かが影を落とし始めた。