第139話 休暇入れど戦争中、王国は今日も戦闘中です
――――王都 王国軍広報協力本部のリビング。
ウォストブレイド国境大要塞の障壁を破壊し、無事王都に戻ってきた俺たちレーヴァテインは、その功労者である銃器の分解清掃に勤しんでいた。
「魔法耐性持ちの未知のモンスターか......、仮に魔導士殺しとでも名付けようか。また厄介なのが出てきたね」
9ミリ拳銃のスライドを外し、薬室内の汚れを取りながら少佐が呟く。
今ここには机を使っている俺と少佐、床に布を敷いてアサルトライフルの分解清掃を行うセリカがいた。
「魔導士殺し......、オオミナトさんとフィオーレさんであそこまで手こずったなら、やはり冒険者ギルド単体だと手に余りそうッスね〜」
ファイアリングピンを組み込みながら、汚れだらけの手で額を拭うセリカ。
ちなみにこの中で分解結合が最速で行えるのは少佐で、次にセリカ。最後に俺である。
なので、清掃の速度も若干少佐がリードしている。
とはいえ競争ではないので、皆各々のペースで作業中。
「攻撃魔法がほとんど使えないエルドさんなら、魔導士殺しなんて全然関係なさそうですよね」
「だな、それに物理耐性はあんまりと聞く。だったら話は早い――――――」
汎用機関銃のバレルを磨き、銃身交換口から差し込む。
「物理攻撃で解決だ、古今東西あらゆるものは銃で壊せるし殺すことができる。魔法が効かないなら7.92ミリ弾をお見舞いしてやればいい」
「至極理にかなっているね、エルドくんに賛成だ。そのために僕は王国軍をここまで強化したのだから」
薬室周りを完全に分解した少佐が微笑む。
やはり、この人とは美味いコーヒーが飲めそうである。
「え〜、銃もいいけどエンピこそ最強ですって! 銃じゃタコつぼは掘れませんし詰められた時に対応できません」
「このスコップオタクめ......、やっぱ近接職だけあってハンドガンという選択肢はないらしいな」
こと近接戦闘において、ハンドガンの有用性は素晴らしい。
取り回し◎。
火力○。
サイレンサー付きなら静音性も◎。
まさしく閉所戦闘の鉄板だ。
「か〜っ、ミリオタが聞いて呆れますね。トロイメライ騒乱の時のエンピの活躍を見てなかったんですか!? ハンドガンより戦果が多いのは確実ッスよ」
「ほぉ......、やるか?」
「いいでしょう、表に出てください」
議論が一転、俺とセリカは一触即発のムードになる。
互いの推しのため、こうして決裂することはまあよくある。
さあ今にも銃床を使った殴り合いが始まるんじゃないかという雰囲気を、少佐が手を1回叩くことで吹き飛ばした。
「両方使えば良いんじゃないかな? 大事なのは最強決定戦ではなく組み合わせた場合の総合力だ。ハンドガンにナイフかエンピを携えておけばより柔軟に対処できる。違うかい?」
「「ッ......」」
正論であった、武器や兵器は組み合わせることによってその真価を発揮する。
戦車が単体ではなく随伴歩兵を纏うように、ハンドガンとエンピの両方があればめちゃくちゃ柔軟に立ち回れるだろう。
セリカも同じく理解したようで。
「推し武器が好き過ぎるあまり理性を失っていたようですね......、肯定します」
落ち着いた彼女は再び床に座る。
「右に同じです、さすが少佐ですね」
「褒めてもお金は出てこんよ、ここの臨時収入であるとすれば危険手当くらい――――」
少佐が言いかけた時、リビングの扉がノックされた。
入室許可と共に入ってきたのは俺と同じ歳くらいの伝令兵。
なんだろう......、どこか既視感が......。
「何事だい?」
「はっ! 参謀本部より通達! レーヴァテイン大隊第1中隊はこれより行なわれるウォストピア本土攻略作戦、ハイジャンプ作戦へ参加せよとのこと! 準備を整え明日の05:00時に軍用列車へ乗車願います!」
伝令が去ってしばしの沈黙。
分解清掃が終わった少佐は、ニッコリと頬を吊り上げながら9ミリ拳銃のスライドを引いた。
「っということだ、我々には休む暇などなし。各自明日の03:00までに装具点検を終えた後にコローナ中央駅へ向かう。戦争の時間だ! 危険手当を貰いに行くぞ!」
俺は思わず天を仰いだ。