第137話 絶体絶命ってやつ!?
序盤まで優勢に戦闘を進めていたオオミナトとフィオーレは、徐々に覆り始める戦況に焦りを感じていた。
「なんなのよこいつ! さっきと全然動きが違うじゃない!!」
風属性魔法を発動すれば、王国でも屈指のスピードを誇るオオミナト。
その彼女の攻撃はさきほどから全て見切られ、巨体とは裏腹の速度で逆に翻弄されていた。
「こうなったら範囲攻撃で吹っ飛ばしてやる! ウインド――――――ッ!?」
慌てて飛び退く。
直後、彼女が立っていた場所にいくつもの雷撃が降り注いだ。
もしのんびり魔法を撃っていたら直撃していただろう。
「電気属性魔法!? ホントふざけてるわねこいつ!」
泥の地面を転がった彼女は、急いで態勢を立て直した。
「フィオーレ! 掩護!」
「了解! イグニス・ストラトス――――――」
フィオーレが炎の弓を白色のモンスターへ据える。
息を吸い込み、魔力を爆発させた。
「アローッ!!」
放たれたのは、さっきと同じ音速に近い砲弾のような矢。
真っ直ぐ突き進んだそれは、しかし降り注ぐ雨粒を貫くだけで終わった。
「はぁ!? 嘘っ!!」
フィオーレが驚嘆する。
それもそのはず、今まで100%命中していた必中の技をアッサリ避けられたのだから。
おまけに、今の攻撃でモンスターの標的は前衛のオオミナトからフィオーレへ変更された。
「フィオーレ! そっちにヘイトいってる! タゲられてるわ!!」
「ヘイトいってるってどういう意味よ!? ってこっち向かってきてるし〜!」
「横に逃げて!!」
モンスターの正面に割り込んだオオミナトは、突進を食い止めようと立ちはだかる。
だが、もとより彼女はスピード重視のステータス。
底知れないパワーを持つ未知のモンスターに、この行動は悪手だった。
振った剣がかわされると同時に、モンスターの巨木のように太い腕が雷を纏ってオオミナトの脇腹を横から殴りつけたのだ。
「ガハッ......!?」
――――やばっ......モロに......!
あまりの衝撃と痺れに視界が一瞬暗転。
吹っ飛んだオオミナトは、突き出ていた岩に背中から激突した。
「ミサキ!!」
「うあっ......! ぐッ!?」
岩の上半分を粉々に砕くも勢いは止まらず、雨でぬかるんだ泥の上を数メートル以上激しく転がった。
風の剣も消滅し、雨の中泥だらけでオオミナトは仰向けに横たわる。
「ガッハ!?」
転がった拍子に口へ入った泥水を吐き出すオオミナト。
「ゲホッゲホッ......! まっず......泥水飲むとか最悪」
「ちょっと大丈夫!?」
「死ぬほど痛いけど一応生きてる〜......、やっぱタンク紛いのことなんてするもんじゃないな〜」
閉めていた上着のチャックも空いており、中のシャツが泥で土色に染まってしまっていた。
「うわ〜洗うの億劫......、絶対許すマジ」
「そのダメージだとしばらく動けないでしょ、ジッとしてなさい」
「フィオーレを庇ってこうなったんじゃーん、それよりお喋りしてる暇あんの?」
「えっ!?」
倒れているオオミナトから視線を移すフィオーレ。
少し離れて、こちらを睨む悪魔のような顔をしたモンスターが立っていた。
「立つまでの時間くらい稼ぐわ、中距離の撃ち合いなら負けな――――――」
言い終わる前に、フィオーレは言葉を無理矢理中断させられる。
「ギュギュアアァ!!!!」
モンスターの口から吐き出されたのは、高出力の電撃。
魔法の準備をしていたフィオーレはこれを避けきれず、直撃を許してしまった。
「アガッ......あぁッ.....!?」
全身を電撃が走り回った頃、彼女の手から炎の弓が消える。
「んあ......、かはっ!」
崩れ落ちるフィオーレ。
倒れた2人の冒険者をさらに雨が打ちつける。
「これどうするフィオーレ......? 今のわたしたちで倒せる相手じゃないっぽいけど......」
泥の地面に横たわりながらつぶやくオオミナト。
「どうするって、この状況で逃げられないでしょ.....。なんか策とかないわけ? じゃないと今日この場で2人揃って殺されるわよ」
「え〜殺されるのは嫌すぎ......、なんか無かったかな......」
アイテムとか入れてなかったっけと、オオミナトはグショグショになったズボンのポケットへ手を突っ込む。
すると、なにやら感触があったので引っ張り出してみた。
「ねえ......フィオーレ」
「なに、モンスターもうそっちに歩いていってるわよ?」
「ちょっと賭けてみない?」
「......何に?」
オオミナトは持っていたこともすっかり忘れていた『ステータスカード』を掲げた。
「わたしたちの......可能性ってやつ!」
彼女は指を伸ばすと、そこに記された『レベル70習得スキル』の欄をタッチした。