第136話 VS???
戦闘が始まって5分......。
森の木々は様々な方向に薙ぎ倒され、あちこちが炎上していた。
「吹き荒れろ――――『ウインド・インパクト』!!」
攻撃を放つオオミナト。
数歩踏み出した彼女はパンチと共に魔法を具現化、生身の人間がくらえばひとたまりもない魔法攻撃を繰り出した。
風の塊は白色のモンスターへ襲い掛かり、皮膚の薄皮を切り刻んだ。
「キュギュアアァアアァァァァアアアアアアアッッ!!!!」
この世のものとは思えない叫び声を上げるモンスター。
悪魔のような顔は相変わらず無表情で、時たまニヤついている。
なんとも不気味極まりなかった。
「ダメね、全然効いてない......。だったら」
『ウインド・インパクト』の効果がないとわかったオオミナトは、風の剣を作り出し大地を蹴った。
「フィオーレ! 掩護!」
「了解!!」
突っ込むオオミナトを支援すべく、フィオーレは纏っていた炎を1つに収束させた。
それはやがて弓の形となり、1つの武器として創造された。
「敵を屠る聖矢となれ!『イグニス・ストラトスアロー』!!」
レベル60で習得できる、炎属性最強の遠距離攻撃魔法をフィオーレが発射。
熱波が森を走り、音速に近い速さで炎の矢はモンスターを貫いた。
「今ッ!」
「はああっ!!」
すかさずオオミナトが肉薄。
風の剣を舞うように振り、嵐のような連撃を浴びせた。
幼いながらもその連携は完璧で、息を合わせたプレイは統率力の高い軍隊に匹敵していた。
オオミナトとフィオーレは持っている力をほぼ100%引き出し合い、この未知のモンスターをまるで産業機械が作業するかの如く冷静に攻撃する。
「ギュギュアアァッ!!」
「ちっ!」
振り下ろされた豪腕を避け、一旦下がるオオミナト。
強くなってきた雨がこの場にいる2人と1体を濡らした。
「こいつ......、魔法耐性持ち!?」
「みたいね、わたしたちの攻撃が全然効いてない」
この数分の攻撃で、2人は敵の特性を見抜いていた。
本来即死していてもおかしくない攻撃のオンパレードを、目の前のモンスターはいずれも耐えきっている。
相手の能力を知るにはそれで十分過ぎた。
「個々の技じゃダメそうね......、フィオーレ」
泥だらけのスニーカーで踏み出すオオミナト。
「了解、雨のせいでわたしの火炎魔法がイマイチなのは勘弁ね」
「わかってるわよ、だから最大限よろしく」
前に駆けるオオミナト。
その後ろで、フィオーレは豪雨にも負けない炎を全身から溢れさせた。
「いくわよミサキ! ちゃんと合わせてよね!」
右手に集めた炎をフィオーレは撃ち放った。
「『ヘルファイア』!!」
爆炎は上空へ飛んだオオミナトへ向かう。
「ナイス!!」
オオミナトは剣を消失させると、両手に風の渦を発現。
追いついてきた炎を絡め取った。
「これで決める!『ツイン・ファイアトルネードランス』!!」
炎を巻き付けた竜巻が2本、オオミナトからモンスターへ叩きつけられた。
地面がえぐられ、飛び散った炎が雨にも関わらず周囲の木々へ一瞬だが燃え移った。
「ふふん! どうよ!!」
着地し、ドヤ顔を決めるオオミナト。
だが、霧の中から現れたのは虚しくも無傷のモンスターだった。
「やっぱり、あんな付け焼き刃の合体技じゃダメね......」
「っと言っても、もう他に技なんてないわよ? どうするフィオーレ?」
「まだ1つ......、前に試した"あの魔法"なら......」
「まさか"アレ"......? 一度も成功しなかったじゃん」
モンスターを睨める。
「そうね......、やっぱり既存の魔法で――――――ッ!?」
2人がどうするか会議していた時、いきなりモンスターが宙へジャンプしたのだ。
思わず身構えるが、それが攻撃ではないことに気づく。
「なにを!?」
フィオーレが叫んだのと、雷光が瞬くのはほぼ同時だった。
――――ビシャアンッ――――!!!
「なっ!?」
信じられなかった。
上空へ跳んだモンスターが、自ら雷に打たれたのだ。
「じ、自滅!?」
オオミナトも動揺を隠せない。
しかし、その認識は誤りだとすぐさま気づく。
雷の直撃したモンスターは一向に降りてこず、空中に居続けていた。
「なに......!? あの姿」
さっきまで何もなかったモンスターの背中に、大きな翼が開いていたのだ。
悪魔にも似た顔と突如生えた翼を見て、フィオーレが声を漏らす。
「まるで......堕天使みたいね」
こいつは一筋縄ではいかない、2人の冒険者は再び魔力を高めた。
「敵の魔力はさっきまでのおよそ10倍! 本気で行くわよ!!!」
轟く雷鳴が、第2ラウンドの開始を告げた