☆第135話 2人の少女冒険者
――――それは、エルドたち王国軍がウォストブレイド司令部要塞を攻略中、ウォールブレイク作戦第1段階を実行している時であった。
時間的に言えば、ちょうどラインメタル少佐が中庭で1人大暴れしていた頃である。
「もう季節も変わるってのに、ミサキの格好は相変わらずよね」
視線を向けるフィオーレ。
横を歩く少女は上半身が体操着のシャツに紺色の長袖ジャージ。
下は同じく紺色のクオーターパンツという極めてラフな格好だった。
「ほら、わたしってステータスをスピードに振ってるじゃない? だから動きやすい体操着との相性は最高ってわけよ!」
「全っ然冒険者らしくないわ......、もうちょっとオシャレしてよ」
金髪の冒険者フィオーレと、同じく冒険者オオミナト ミサキ。
彼女たちは今日、レーヴァテイン大隊がいないので久しぶりにギルドのクエストを受けていた。
場所は王都からほど近い森、ここはエルドが入隊試験でゴブリンロードと戦った場所だ。
森は紅葉が進み、モンスターの気配など全く感じさせない。
ちなみに、今回の彼女たちの目的もゴブリンロードの討伐だ。
「ミサキ〜、アンタ他に服ないの?」
「だってこれ着ないと魔法使えないし......、文句ならこんな変な転生特典にした神様に言ってよ」
「毎度言ってる神様ってアルナ様のこと......? いい加減罰当たるわよアンタ。あと長ズボンとかないの?」
「えぇ〜あれ動きにくいし履きたくない......、こっちの方が動きやすくて戦えるし、別に長袖着てるから平気だって」
サラサラの黒髪を振って答えるオオミナト。
「いや絶対寒いでしょ! これを機に厚着してついでに防具も買おうよ、お金あるでしょ?」
「やだ、防具とか絶対動きにくくなる。雪降ったらマフラーだってするしいらない」
「いや下の防寒対策ガバガバじゃん! アンタいつもズボン短いんだからちゃんと着込もうよ!」
「ハイソックスで十分」
謎のドヤ顔を決めるオオミナトに、いつも親のような心配をしているフィオーレはため息を吐いた。
「ほんっと変わんないわねアンタ.....、防御なんてロクに対策しないからいつもハラハラしてんのに」
「フィオーレも心配性ね〜......イージス艦みたいなもんよ、当たらなければ平気なんだから」
「その割にはよく攻撃貰って帰ってくるわよね?」というフィオーレのツッコミを無視し、オオミナトは続けた。
「とっ、とにかく! わたしは現代艦のように回避しまくって、魔法の大火力で敵を葬るスタイルなの! だから厚着も防具も邪魔なだけ」
っとは言いつつ、さすがに寒風が嫌だったのか両手を上着のポケットに入れるオオミナト。
それでも、当然ながらハイソックスより上にある膝や細いふとももは風を受け続けた。
「......ねぇフィオーレ、なんか今日寒くない?」
「アンタ......バカよね? いやほんとバカよね」
「2回も言わないで傷つくから! とりあえずお詫びに火属性の魔法で温めて〜!」
歩きながらいきなりハグされ、思わずフィオーレはこけそうになった。
「ちょっ、わかったから離れて! 歩きにくい!」
「へへ〜やったー!」
手のひらに炎を灯すフィオーレ。
これこそ彼女の紋章が示す属性、火炎魔法だった。
「ところでミサキ」
「ん、なーにー?」
魔法で暖を取るオオミナトが力の抜けた声で返す。
「ゴブリンロードが繁殖してるって聞いたから来たのに、なんでこんな静かなのかしら.....」
「みんな冬眠したんじゃな〜い?」
「まだ早いわよ、そもそもゴブリンロードは冬眠しない。そろそろ1体くらい出くわしても不思議じゃないのに......」
森を見渡しても鳥のさえずり1つ聞こえてこない。
最初こそ気にしていなかったが、段々とそれが異常であることに気がつく。
「ごめん、炎の魔法解くわよ。周囲警戒して」
「......了解、背後を見張る」
2人は、一瞬にして頭を戦闘モードに切り替える。
冒険者としてこういう時はお決まりのパターンがあることを知っているのだ。
「なにかヤバいのが近くにいる......、多分ゴブリンロードがいないのもそいつのせいね」
「ギルドから警報出てたっけ?」
オオミナトが警戒のため、背を向きながら聞く。
「いや、出てない」
「うわ......1番危ないやつじゃん」
そうこうしているうちに、朝から真上に居座っていた曇天がさらにドス黒くなっていた。
ポツリポツリと、雨粒が2人の肩に落ち始める。
「やっぱ降ったか〜......どうするフィオーレ、一旦王都に戻る?」
「そうね、空気も気持ち悪い......。ここはとりあえず――――ッ!?」
撤退を判断した時、雷がビシャリと光った。
だが、オオミナトが驚いたのはその閃光ではない。
「回避ッ!!!」
本気で叫んだフィオーレに合わせて、その場から全力で飛び退く。
直後、ついさっきまで立っていた場所になにかが落ちたのだ。
オオミナトは雷かと思ったが、すぐにそれが間違いであると確信した。
「なに......こいつ......!?」
落ちてきたのは、全身真っ白の体長4メートルはあろう人型の生物。
雷光に映るその顔はおぞましく、おおよそ自然界のものとは思えなかった。
あまりに恐ろしい外見に怯むも、すぐさま魔力を高めた。
「フィオーレ!!」
全身に風を纏うオオミナト。
本気モード、戦闘態勢に入ったのだ。
「違和感の正体はこいつね......! しょうがないか、ここでやるわよ!!」
同じく炎を纏うフィオーレ。
「今わたしたちレベル69だっけ? じゃあこいつ倒して、さっさと70レベ特典スキル貰ってやろうじゃない!」
全身が雪のように白い異形を前に、2人の冒険者は戦闘を開始した。