第133話 良いニュースと悪いニュース
――――王都 王国軍コローナ広報本部。
ウォールブレイク作戦から数日――――王国軍は、ウォストブレイドにある全ての防壁を破ることに成功していた。
噂では、新鋭の380ミリ自走臼砲が活躍したとかなんとか。
俺も詳しくは知らないがとんでもない威力だったらしく、兵器大好き人間としては是非1度お目にかかりたい。
まぁどっちにしろ、これで我々はウォストピア国内への全面侵攻が可能となったわけだ。
ただ、やはり気がかりはある......。
「やあエルドくんにセリカくん! 先日は任務ご苦労さま! 今日は良い報せと悪い報せを持ってきたんだがどっちから聞きたい?」
リビングの扉を開けて、意気揚々としたラインメタル少佐が入室。
ソファーでくつろいでいたセリカが思わずといった様子で尋ねる。
「良い報せと悪い報せ?」
「あぁそうだ、正確に言えば良い報せはエルドくんにだが、もう1つ我々にとって悪い報せもある。さあどっちから聞きたい?」
「ん〜......じゃあ良い方から!」
おい待て、俺が関わってるんだろう? 勝手に決めないでくれません?
そんな心中の文句など届くはずもなく、ラインメタル少佐はセリカの横に座った。
ちょうど対面に少佐が来る。
「じゃあ良い方からだ。喜べエルドくん、君に今しがた勲章の授与が決まった!」
「ほっ、ホントですか!?」
「あぁ、勲章の名は【蒼玉銀剣章】。魔王軍最高幹部級を単独で撃破した者にのみ贈られるものだ、旧勇者パーティーしか持ってない激レアだぞ」
「栄誉極まりないですね......」
冷静に返事。
いいか! 絶対に表情に出すな! 表情に出すな!
今ニヤければ少佐やセリカにからかわれかねない! 真顔だ、真顔を貫くのだ!!
「あれ、思ったよりリアクション薄いッスね。嬉しくないんですか?」
「嬉しいよ、でもデスウィングやエルミナを倒せたのは大隊の皆がいたからこそだ。俺1人の成果とは思ってないし、正直運が良かっただけだよ」
っと、口では謙虚という鉄仮面をかぶり平静をよそおっているように見せているが実際は違う。
おおよそ人前ではできないほど気持ち悪い笑みを必死で堪え、隠した左手で足をつねりまくって出血しているくらいだ!
蒼玉銀剣章! あの伝説の勇者パーティーしか貰えなかった幻の勲章をこの俺が!?
あああああああああ! 生きてて良かったあぁぁぁ!! 散々外れスキルだとかカス魔導士とか言ってくれやがった魔法学院の連中よざまあみたか!
遂にやったぞやってやったぞぉ!!
「謙虚ッスね〜エルドさん」
「セリカにも随分助けられたからな、そのおかげだよ」
この俺が勲章授与とかホントにあるんだ! 素晴らしき天職! 素晴らしきかな国営パーティー!!!
っと、俺はメガネの奥――――無表情の深淵で7.92ミリ汎用機関銃を両手でトリガーハッピーするほど喜んでいた。
「そういえば話変わりますが、留守番だったオオミナトさん......。怪我してたみたいですけどなにかあったんスかね?」
「なに、本当か?」
胸中の祝宴を一旦中止し、セリカに尋ねる。
「えぇ、宿屋にいるってんで訪ねたら体のあちこちに包帯巻いてて......」
「それについては僕から話そう」
ラインメタル少佐が1枚の紙を机に置いた。
「これは......冒険者ギルドの依頼書? クエスト内容は......ゴブリンロード30体の討伐?」
「あぁ、どうやらオオミナトくんはペアの子と留守番中このクエストに行ってたらしい」
よく見れば、その依頼書にクリアのハンコは押されていない。
「今のオオミナトならこれくらい余裕そうだが.....、失敗したんですかね?」
「それについても本人から聞いた、なんでもクエスト中に"変なモンスター"と遭遇して戦闘になったらしい」
「変なモンスター?」
「あぁ、全身白くて体調は4メートルほど。人型でとても自然界のモンスターとは思えないものだったらしい。なんとか倒しはしたらしいが」
あいつだってもう立派な高レベル冒険者だ、それがクエスト続行不能になるほどのモンスター......。
「なにか情報はあるんですか?」
「残念ながら詳しくはわからない、今度また本人から聞いてみるよ。僕もとりあえず報告を受けただけだからね」
妙なモヤモヤが残る中、セリカが話の路線を戻した。
「ねえ少佐、悪い報せってなんだったんですか?」
そういえばそんな話をしてたなと、ラインメタル少佐は机の依頼書をしまった。
「悪い報せはね......、あの金眼の亜人についてだ」
金眼の亜人。
ウォストブレイドで出会った、異常な強さを誇る亜人。
少佐いわく勇者の力を持っていたとか。
「単刀直入に言おう。アイツと同じ力を持ったヤツが、また出てくるかもしれない」
「冗談キツいですね......」
「あぁ、とびっきりだろう? 勇者の力は本当に脅威だからね。どこで手に入れたか知らんが」
嘆息する少佐に、俺は確認せずにいられなかった。
「つまり......今後、新たな勇者が我々の前に立ちはだかることも......」
「可能性としてはゼロではない、まぁ......そうそう滅多に無いだろうがね」