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第132話 落ち込んだ食生活と亡命計画

 

「はぁ......まっず」


 魔王城内の最高幹部食堂で、吸血鬼アルミナは呆れるほど固く、不味いパンを口に運んでいた。

 彼女に食を楽しむといった様子はなく、機械的にパンを水で流すだけの作業をひたすらに続けている。


 そんなアルミナに、桃色の長い髪を持った吸血鬼が応える。


「ほんっと......、レベルが落ちたなんて話じゃないわねこれ。あ~あ、新鮮な血が飲みたい」


 アルミナの妹であるエルミナもまた、下がりきった生活水準を憂いていた。

 2人共本日は休みであり、こうして久しぶりに魔王城で再会したというわけなのだが......。


「最高幹部食堂でこれだから......、多分城下町はもっと悲惨」

「でしょうね、ったく将軍連中は食の大切さもわからないのかしら」


 ついこないだの将軍会議では、パンに20%もジャガイモ粉を混ぜることが決定したらしい。


魔王軍ここももう末期ね......」


 アルミナは、自らの計画実行が近いことを悟る。


 ――――早く準備を終えて、アルト・ストラトス王国へ亡命しなきゃ。でも.....エルミナをどう説得しよう。


 パンをかじりながら逡巡。

 あの日、80センチ列車砲が移動要塞スカーとギラン将軍を吹き飛ばす光景を見てから、今日までアルミナはずっと亡命の準備を進めてきた。


 魔王軍は負ける、これがわかっているからこそ妹と沈みゆく船から脱出しようとしているのだ。

 無論亡命には手土産などがいる。

 彼女がこれまで王国軍に情報を流していたのは、その亡命を円滑に進めるためであった。


 正直、勇者からはこないだのウォストブレイドでレーヴァテインを召喚した手伝いからもう十分と言われてるのだが、まだ最後の壁があった。


「吸血鬼王の末裔にこんな食生活を送らせるなんて......、絶対、絶対王国をぶっ壊してやる! 勇者とわたしを倒したあの男もろとも!」


 一緒に逃げたい妹が、ロンドニアでの敗北にずっと憤っており、正直言いにくいとかそういう雰囲気ではなかった。

 あわよくば、今日この場で言っても良かったのだが難しそうである。


 妹の怨嗟の声を聞きながら亡命の手順を考えるアルミナ。

 その後ろから、いきなり声が掛けられた。


「おや、姉妹揃ってのお食事とは珍しいですね。お味の方はどうですか?」

「ムグッ!?」


 思考していたものがものだけに、アルミナは喉を詰まらせかけたがすぐに水を流し込んで事なきをえる。


「ゲホッゲホッ! ひゅ......ヒューモラス? いつからいたの?」

「これは失敬、驚かせてしまってすみません。パンで喉を詰まらすなど不幸でしかありません。謝罪しますよ」


 黒いローブを纏った魔王軍最強の魔導士、ヒューモラス。

 亡命計画においてアルミナが最も警戒している男だった。


「パンの味なんて聞くまでもないでしょう、アンタと同じく最悪よ」

「これはまた辛辣でございますね、今日は面白い話を持ってきたというのに」

「おっ、なーに? 早く話してよ!」


 早速エルミナが食いつく。

 ヒューモラスは反応上々とばかりにニヤついた。

 この末期もいい時期になんなんだとアルミナは身構える。


「"ホムンクルス製造工場"、その可動に目処が立ちました。既に数体のサンプルの精製にも成功していますよ」

「なっ!?」


 ホムンクルス。噂には聞いたことがあった。

 人工の肉体に霊体を魂として吹き込み、兵士にするとっくの昔に破棄されたはずの計画。


 そんなものが最高幹部である自分の耳を通さず進んでいたことに、アルミナは憤慨した。


「......なぜそのような計画を? おまけにわたしは全く知らなかった」

「最近、こちらの情報を敵に流しているスパイがいるらしいのですよ。なのでこのホムンクルス計画はわたしと魔王様、それとリーリス様しか知りません」

「最高幹部であるわたしを疑っていると?」

「そうではありません、アルミナさんとエルミナさんは忙しそうだったので伝えるのが遅れただけです」


 平静を保っているように見せているが、アルミナの服の中は汗でびっしょり濡れていた。

 さすがにやり過ぎたらしい、これ以上情報を流せば間違いなくバレる。


 そうなれば亡命どころの話ではないだろう。


「そのホムンクルスって強いの?」


 パンをちぎりながらエルミナが質問する。


「魔法耐性を持っておりますし、肉体も屈強なのでそうですね――――レベル70の冒険者相手でも単独ならまず負けません」

「へぇー、結構やるじゃない」

「まぁ......先日1体無駄にしてしまったんですがね」

「はぁっ!? なんでよ! 今さっき強いって言ったじゃない!」


 身を乗り出すエルミナに、ヒューモラスは落ち着いた様子で答える。


「テストも兼ねて外に出していたんですが、黒髪の魔女と呼ばれる魔導士とそのパートナー、どうもそいつらに負けたようです」

「黒髪の魔女......? 変な名前。で、対応はどうするの?」


 待っていましたと言わんばかりに、ヒューモラスは頬を吊り上げた。


「対抗手段はもう作っています、以前その黒髪の魔女なる者を溺愛した高レベル冒険者をさらい、特殊な細工を施しました。次はそいつをぶつけます」


 王国に、黒い風が吹こうとしていた....。


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