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第131話 蛙鳴蝉噪

 

 ――――魔都ネロスフィア 魔王城内。


 手入れの行き届き、そこかしこに装飾品が並べられた将軍会議室は、今までにないほど彼らにとって惨めなものに映っていた。

 それもそのはず、現在進行系でここに集まった将軍各位は全員が悲観的な表情をしていたからだ。


「ありえない、ありえないありえない!! 亜人連中のなんと役立たずなことか.....!! まさかこうもあっさりルナクリスタルを破壊され、国境突破を許すとは......!!」


 集まった各階級の将軍の前で、アーク第2級将軍は震えていた。

 彼の纏う飾り気たっぷりの鎧も、今見ればなんとも虚しい気持ちにさせられる。


 今回の議題は他でもない、"ウォストブレイド陥落について"であった。


「第2軍団の体たらくぶりが露呈したな、亜人共を信用するからこうなるのだ。ギランが死に貴様が序列ではトップになったが、俺は最初からアーク第2級将軍では不足と考えている」


 口を開いたのは、こちらで言う海軍担当の将軍――――水竜部隊を率いるジェラルド第3級将軍であった。

 魔王軍の水竜部隊は、制海権の確保や海上輸送などを任されている。


 もっとも、彼ら自身はまだ王国軍と交戦していないのだが。


「黙れ海坊主!! いつまでも水竜軍港に引きこもっている臆病者が、1国クラスの軍を率いる我を侮辱するというのか!!」

「ヤツらの陸戦兵力がどれほどかは知らんが、ギランも貴様も人間の軍隊ごときにやられすぎだ。本来ならばもう王都を落とし、『ニューゲート作戦』を行うはずだっただろう」

「ギラン将軍が移動要塞スカーを無駄にしたからこうなっているんだ! ルナクリスタルの件も、亜人どもが独断で行動した結果に過ぎん!!」


 なんとも醜い責任の押し付け合い、自らの保身しかない議論にようやく1人が水を差した。


「あの〜、私からも意見をよろしいでしょうか?」


 手を上げたのは、少し恰幅かっぷくの良い男。

 どこか自信なさげで、この挙手も恐る恐るといったところだろう。


「......なんだね? ブレスト第7級将軍」


 ひとまず議論という名の口喧嘩を置き、アークとジェラルドは乗り出していた身を引いた。


「非常に難しいというのは理解しているんですが、ここは1つ......」

「なんだね、早く言いたまえ」

「はい、ここは1つ......王国や連邦との講和の道を模索されてはいかがでしょうかと――――――」


 ブレスト第7級将軍が言い終わる前に、机が叩き割られた。


「貴様ぁッ!! 畏れ多くも魔王様が主導する戦争を、人間相手に講和だと!? 敗北主義も甚だしいぞ!!!」

「議論の余地すらない! 後方防衛で脳みそまでお花畑になったか!! ブレスト第7級将軍はこれが魔王様や最高幹部たちの耳に入った場合責任を取れるのかね!」


 アーク第2級将軍、ジェラルド第3級将軍が揃って吠える。

 陸のトップと海のトップに迫られ引け腰になるが、ブレスト将軍は続けた。


「ぜっ、全体を見据えください......現状我が軍は大敗北の連続です。既に物資は枯渇状態に陥り、魔都ですら食料不足により配給すらままなっておりません」

「ならばパンにジャガイモ粉を混ぜれば良かろう! 質こそ最悪だが食えんこともないだろうて」

「もっ、もうやっております! これ以上比率を上げればとても食べれたものではありません!」


 ブレスト第7級将軍は、兵站や魔都における食糧事情についても関わっている。

 彼の言うとおり、既に配給用のパンには10%もジャガイモ粉が混ざっており、魔都での不満は上がる一方だった。


※パンに穀物以外を混ぜたこれを、通称Kパンと呼ぶ。

10%もこんなものを混ぜればパンの味は最悪とも言われるのだ。


 そんなことなどつゆ知らず、アーク将軍はさらなる無茶を突き付けた。


「10%では生ぬるい、20%だ!! パンにはその比率でジャガイモ粉を混ぜ込み、牛乳の量は水を入れることで誤魔化せ!!」

「民の不満が爆発します! これ以上国民から食を奪って何になると言うのですか!」

「だったら第7軍団の兵糧を崩せば良かろう、さすれば少しの間は民も食事を楽しめるだろうて」


 蛙鳴蝉噪あめいせんそうである。

 戦争継続のためにさらなる制限を行おうとするアーク将軍と、食糧事情をうれいて講和を探ろうとするブレスト将軍。


 そして、そのどっちもを批判するジェラルド将軍。


 もはや平行線もいいところの議論を、三十路手前あたりの女性魔導士が止めに入った。


「ブレスト将軍、つまり物資さえあればまだ戦争は続けられるということだな?」


 落ち着いた声の主は、ミリア第4級将軍。

 魔王軍の黒魔導士部隊を率いる、魔法分野のトップだ。


「はっ、はい。せめて食料さえあれば......」

「では属国のウォストピアから巻き上げよう、亜人共の持つ小麦を全て巻き上げるのだ。そしてジェラルド将軍」

「はっ」

「水竜部隊に王国の輸送船を襲わせるのだ、食料を敵から奪えればこちらが潤い、向こうが飢えに苦しむだろう」


 この意見に、ジェラルド将軍は諸手を挙げて賛成。

 ブレスト将軍も渋々賛同する。


「決まりだな、アーク将軍は?」

「亜人連中がいくら飢えようと、軍が無事なら構わん。引きこもりの海軍が敵船を襲ってくるのであれば少しは物資もマシになろうて」

「よし、では数日後に第3軍団である水竜部隊は無制限通商略奪作戦を開始せよ。物資が潤った後に魔都での配給も質を上げようではないか」


 こうして、最初のウォストブレイド陥落というテーマはどこへやら。

 王国から物資を略奪することが決まった。


 なお、ブレスト将軍の意に反して『物資拡充までは比率として20%パンにジャガイモ粉を混ぜること』が決定した。


ひでぇ末期国家だ......(白目)

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