第130話 ウォストブレイド航空戦
――――同刻ウォストブレイド上空。
ウォストブレイドが攻撃されていると聞いた魔王軍は、第2軍団隷下のワイバーン部隊およそ40騎を救援に向かわせていた。
「なんだこのざまは......! 第3防壁まで炎上しているじゃないか!!」
ワイバーン中隊の指揮官を務めるカーンは、上空から見える惨状に思わず汗を流した。
要塞前方の平原には大量の敵戦車部隊がおり、第1、第2防壁に関しては完全に破壊されている。
また、王国軍の飛行船と思しきものが第3防壁を爆撃しているのが伺えた。
「たっ、隊長! これはもう救援など手遅れなのでは......?」
「かもしれん......、だが下では、まだ我々の助けを必要としている者たちがいる。ここで尻尾を巻いて逃げるわけにはいかんだろう」
カーンはどう出るか長く考えた。
っといってもそれは時間にして10秒未満、しばらくして彼は自らの役目を再確認した。
「まず眼下の敵飛行船を叩く! そして亜人連中の撤退支援だ!」
ワイバーンが編隊を組んで、黒煙の立ち昇る第3防壁へと向かう。
たったこれだけの戦力で挽回はもう不可能だろうが、ウォストブレイドの味方部隊を逃がす手伝いくらいはできるだろう。
目の前に迫った敵飛行船に、火炎弾の照準を合わせた時――――部下からの念波による悲鳴が上がった。
「敵騎上方!! 急降下してきます!!!」
「なっ!? 攻撃中止! 退避せよ!!」
カーン隊は素早く編隊を小分けにし、回避機動に移る。
しかし、それでも降ってきた大量の火炎弾によって7騎が撃墜されてしまった。
「ミルド小隊長死亡!!」
「クソがッ! あいつら雲の中に隠れてやがったのか! 第3小隊交戦します!!」
見張りは怠っていなかった。
されどこうして奇襲を受けてしまったのは、彼らの言うとおり王国軍ワイバーン部隊が雲に隠れチャンスを伺い、太陽を背に突っ込んできたからだ。
魔王軍カーン隊を襲ったのは、ウォストブレイド周辺空域の制空を命じられた第2ワイバーン航空師団が2個連隊(240騎)である。
図体が大きい飛行船を囮にし、およそ6倍の数で殴りかかったのだ。
「バカなッ! 性能が違い過ぎるぞ!! 全く追いつけない!!」
「数が多すぎる! 周りは敵だらけだ! ガァアッ!!?」
「背後に付かれた! 5騎が食らいついてくる.....!! 助け――――うわあああああぁぁっ!!?」
魔王軍はここ最近の連敗で深刻な物資と黒魔導士不足に陥っており、ワイバーンの数も質も揃えられないでいた。
一方で王国軍は、物資の拡充や冒険者ギルドから募った魔導士のおかげで良質なワイバーンの大量召喚を行っていた。
近隣には航空基地も新設し、前線への集中投入も可能。
これが、魔王軍ワイバーン部隊との間に決定的な差をつけていたのだ。
「数も質も向こうが上か......! 畜生!!」
また、魔王軍は空爆や長距離砲撃を恐れてワイバーン部隊の大半を後方へ移してしまっていた。
もし全力投入できていれば、ここまでの数的劣勢はなかったはずである。
「我が部隊の残存12騎! カーン隊長! まるで歯が立ちません......! 撤退の許可を!!」
「やむを得ん......か、全騎、ウォストロードのワイバーン基地まで撤退せよ! 決して後ろを見るなよ!!」
カーンは離脱する部下に背を向け、王国軍ワイバーン部隊と対峙した。
「隊長殿!?」
「老兵の最後の仕事だ......! 邪魔は許さん、さっさと行け」
「で、ですが......!」
「ノート小隊長、君は実に優秀だ。俺亡き後のワイバーン部隊は前々から譲ろうと思っていた。――――――さあ行け!! 絶対に振り返るなよ!!」
カーンは単独で上昇、空を黒く埋め尽くすほどの大編隊を相手にたった1騎で突撃した。
その後、後世においてウォストブレイド航空戦と呼ばれたこの戦いは魔王軍中隊長騎の撃墜によって終結。
王国軍側の損害はワイバーン3騎。
対して、魔王軍側の損害はワイバーン29騎であった。
また、王国軍は後の報告書において「敵の指揮官は勇猛果敢に我が軍へ突撃を敢行し、単体で奮戦して残った部下を生存させた武人である」と畏敬の念を込めて称賛した。
結果として王国軍は魔王軍ワイバーン部隊の撃退に成功、同日の19時52分にウォストブレイド国境大要塞の第3防壁が破壊。
最後に残った司令部要塞の攻略が開始された。