第13話 市街警備ってこれ、悪役の噛ませにされそうです
お昼前、トロイメライ中央区の警備に就いた俺たちは、物語のモブよろしくひたすらに立っていた。
「これマジ暇ッスねー……」
「あぁ、暇だな……」
これが小説の主人公だったなら、今頃前座の決闘やモンスター討伐ショーなどにも出ていたのだろう。
だが我々は王国軍、サブマシンガンを抱えて大通りをひたすらに見張っていた。
「わたしこういうシチュエーション知ってますよ、決まって特殊能力持った主人公なり悪役なりの噛ませ犬にされてやられるパターンッス」
「おいやめろ! マジでなったらシャレにならん」
「わたしだって嫌ですよ噛ませ犬なんて、っというか喉乾きました」
「水なんてあちこちに流れてるんだから、それでも飲めばどうだ?」
冗談のつもりで言ったのだが、セリカはおもむろに噴水へ流れ込む水をすくった。
「んっ、んっ......んっ、プハーッ! 結構美味しいじゃないですか。暑いですし顔も洗っちゃお」
水に濡れるセリカは憎たらしいほどに輝いており、軍服とサブマシンガンからくるギャップが彼女をより引き立てていた。
っというか、結構遠慮なくバシャバシャやってるので、軍服やニーハイソックスが濡れて全身のラインが露わになっていた。
「エルドさんは飲むッスか?」
「俺はいいよ、持ち場を維持しておく」
まぁ……この任務も退屈だが悪くないな。
そう感じていた時、ふと通信が入る。
『やあエルド君、聞こえるかい?』
警備本部にいるラインメタル少佐からだった。
陽気な声で、とても軍の通信とは思えない。
『ちょっと悪いんだが、広場の人間を少しばかりどかしてほしい』
「何かあったのですか?」
『デカブツをそのエリアに降ろす手筈になっていてね、まあ見ればわかるよ』
俺とセリカが言われた通り広場の人払いをすると、大通りの向こうより巨大な何かが近づいてくる。
しばらくして、それは運搬車だということに気づく。
積載されていたのは、予想外の装備だった。
「これは第7機甲師団の魔導戦車!? すごい! わたし初めて見ましたよ!!」
運搬車から轟音を鳴らして降り立ったのは、王国陸軍の誇る対ゴーレム用陸戦兵器こと『戦車』だった。
履帯が芝生をエグリ、広場に陣取る。
おぉ……写真で見たよりデケェ、これは確か市街戦用の軽戦車タイプで、搭載してるのは57ミリ砲だったはず。
街中でゴーレムが出てもこれなら粉砕できるだろう。
「すみませんこれ! 魔導戦車ッスよね!?」
降りてきた戦車兵に詰め寄るセリカ。
「ああ、今回のコロシアム警備で使われることになってね」
「触っても良いですか!?」
「別に良いよ、なんなら砲塔も動かしてあげよう」
「ちょ、神ですか!? ぜひお願いします!」
この後しばらく、セリカが戦車に釘付けになったのは言うまでもない。
【戦車】
昔から怪獣映画とかに出てくるやつ。
装甲硬いわ主砲強いわ、機関銃撃ちまくれるわで陸に上がった戦艦のよう。
実際、第一次世界大戦当時のイギリスでは『陸上軍艦委員会』という名前で開発が進められていた。
(発想は、トラクターで牽引中の大砲を見て閃いたらしい)