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第129話 ウォールブレイク

 

 ――――ウォストブレイド第1防壁。


「魔導砲発射準備! 急げ急げ!!」

「全戦闘員配置につけ! 繰り返す! 全戦闘員はただちに配置につけ! 迎撃戦用意!!」


 ここ、ウォストピアと現アルト・ストラトス国境にあたる第1防壁は、蜂の巣を突いたような騒がしさだった。


「司令部要塞との通信はどうだ!?」


 第1防壁司令官を務めるロッドは、部下に叫んでいた。

 つい数時間前に司令部要塞が何者かに襲われ、連絡を断ってしまったからだ。


「ダメです......! いまだ繋がらず、応答ありません」

「クソ、つまり我々が独自に判断しなければならんということか」


 ただでさえ混乱極まりしこの状況で、畳み掛けるように王国軍が攻勢を開始。

 この第1防壁へ万単位の敵が押し寄せようとしていたのだ。


「魔導砲陣地、発射開始しました!」


 まだ遠くに見える砂煙目掛けて、壁上から魔導砲が次々に撃ち出された。

 これで敵の数を少しでも減らせれば御の字......、そう思っていたロッド司令官は壁内の指揮所から双眼鏡を覗く。


「ん......?」


 魔導砲の着弾と同時に、なにかがピカピカと光ったのだ。

 一瞬魔法攻撃かと身構えたが、まだ距離があるので射程外のはず。

 なれば防御魔法か? と、ひとまず安堵したのもつかの間に壁が大きく揺れた。


「敵砲弾着弾! 防壁の損害軽微! 魔導砲が1門破壊されました!!」

「バッ、バカな!!?」


 うろたえるロッド司令官。

 そうだった、連中は鉄の車とやらに大砲を積んで撃ってくる。

 魔法よりもずっと射程の長いそれは、40メートルはある防壁上から撃ち下ろす魔導砲と大差ないのだと気づく。


 実際そのとおりであり、この壁を叩いた第1撃の犯人は王国軍の7型戦車中隊であった。

 強力な88ミリ砲が、分厚い壁にヒビを入れたのだ。


 だが悲しきかな、そこまでわかったロッド司令官は双眼鏡に映った"異形"を見ることとなった。

 少数の民家が立ち並ぶ平原を、他とは明らかに違う戦車が前進してきていた。


 直後、壁の前に配置していた塹壕線が大爆発を起こした。

 空気が振動し、防壁まで揺さぶられる。


「なんだ今のは!?」

「司令! 前線の塹壕陣地が"消滅"! 明らかに他の大砲とは違います!」


 動揺を隠せない指揮所。

 そこへ、さらに伝令が飛び込んできた。


「司令! 敵は380ミリクラスの自走砲を有している模様! 凄まじい破壊力で前線の兵士が全滅しました!!」

「380ミリだと!? 大砲にしても大きいなんてレベルじゃないぞ!! いったい何両いる!?」

「目視による確認なので多少の誤差はありますが......、少なくとも10両以上が前面に出てきていると......」


 そう、王国軍はウォストブレイド攻略のため、38センチ自走臼砲を12両投入していた。

 もちろんそれだけではなく、取り巻きには100両を超える戦車が随伴している。


「全ての魔導砲で化け物戦車を狙い撃て! あんなのに撃たれたらいくら防護魔法付きの壁とて粉砕されかねん!!」


 あんなものをどうやって自走させているのかはわからないが、ひとまずロッドは迎撃を命令。

 ウォストブレイドと王国軍戦車部隊との間で砲戦が始まった。


「ロッド司令官! 第2防壁より通信! 現在我々は敵の毒ガス攻撃を受けている! 至急救援求むとのことです!」

「毒ガスだと!? どうやってここを飛び越えて第2防壁の内側に攻撃を!?」


 ロッドもこれには気づかなかった。

 だが当然である、王国軍は長射程の大砲に通常の榴弾ではなく、黄十字マスタードガスと青十字ガスを装填し、壁の内側目掛けて撃ちまくっていたのだ。


 曲射弾道なので壁を飛び越え、内側で待機していた軍団へ直撃したのである。


「魔導士が毒ガスのせいで魔法が使えず、治癒もままならないとのこと!」

「こっちは化け物戦車との戦いで精一杯だ! 救援は送れんと伝えろ!!」


 既に防壁はかなり叩かれており、この上に380ミリ級大砲の直撃を受ければここは完全に崩壊してしまう。

 なんとしても死守しようとするロッドの下へ、さらに伝令兵が追加された。


「見張り台より報告! 第3防壁に敵ワイバーンおよび飛行船部隊襲来とのこと! 空爆によって大規模な火災を起こしているようです!」


 敵との戦闘のため、ウォストピアは第2防壁と第3防壁内側に部隊を集めていた。

 少なくとも第1防壁が陥落するまで安全だと思われた場所だったが、目論見は外れたらしい。


「後方に毒ガス攻撃と空爆......、正面には無数の大砲......」

「司令! ここはもうダメです!! 撤退を!!」


 ロッドは脱力していた両手をゆっくり合わせ、胸の前に持ってきた。


「あぁ......神よ、これは天罰なのですか......?」

「司令! 司令ッ!!!」


 ロッド司令官が祈ったのとほぼ同時、射程へ入った12両の38センチ自走臼砲は巨大な発砲炎を上げた。


 撃ち出された380ミリ砲弾は、搭載されたロケットブースターで加速しながらウォストブレイド第1防壁へ直撃。

 ――――爆音と爆炎が壁を瓦礫に変え、反対側まで吹き飛ばした。


 ウォストピアの栄華を誇り、なんとしても屈しないという民族の証は木っ端微塵に粉砕されたのだ。


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