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第128話 国家が脳震盪を起こす一撃

久しぶりに筆が乗ったので2日連続更新です

 

 ――――王国軍参謀本部。


 王国軍の頭脳たる参謀将校たちは、長机の地図を前にただひたすら待っていた。


 中央より奥に座る参謀次長が葉巻の紫煙を吐き出す。


「どうかね鉄道課長、輸送の方はもう終わったか?」

「はっ! 既に全戦車部隊の輸送は完了、攻撃部隊用の弾薬各種と糧食りょうしょくも運び終わりました」

「うむ、ご苦労......」


 参謀次長は有能と呼ぶにふさわしい鉄道オタクから、時計へ目を移す。


「そろそろ......だな」


 それに答えたのは、すぐ近くにいた西方軍司令官だった。


「元勇者の率いるレーヴァテイン部隊でもって、スパイによる召喚魔法を使い敵司令部要塞へ侵入。障壁を破壊するという大胆な作戦の成否......だな?」

「そうだ、精鋭とはいえ100名ちょっとで敵陣をかきまわすなど我ながら博打だよ」

「外部からの破壊では時間が掛かりすぎる、王都防衛を考えてもこれ以上は望めんさ」

「......だと信じたい」


 参謀本部は亜人によるテロを一層警戒しており、残ったレーヴァテイン2個中隊を即応体勢にさせている。

 ウォストブレイド司令部要塞攻略にもっと人員を送りたかったが、もし王城でテロが起きればどうなるか想像に難くない。


 人間の姿をできるというのは、それだけで敵にとってアドバンテージなのだ。


「もし、レーヴァテイン大隊が障壁の破壊に失敗したら......どうする?」

「ウォストブレイドを無視はできん、外部から......そうだな、1ヶ月ほど榴弾砲を撃ち続けて壊すほかあるまい」

「それは気の長い話ですな......」

「弾代もバカにならんよ、レーヴァテインが内側から破壊してくれればこれ以上の経済的、軍事的成功はない」

「待つというのは......、何度経験しても葉巻がいくらあっても慣れんな」


 この作戦には、参謀本部のメンツも掛かっている。

 失敗すれば、貴重な即応部隊を消耗した"無能"と言われるだろう。

 それでも、参謀次長はこの作戦に賭けた。


 王国を救った元勇者と、魔力無限で蒼玉候補の魔導士。

 これらレーヴァテインの精鋭をもってすれば、最小限のリソースでウォストピアの防衛の要を粉砕できると信じて。


 だがもし失敗すれば.....?

 至って簡単である、前述のとおり貴重な即応戦力を溶かした無能と後世に伝えられ、ウォストブレイド前面に集めた部隊も一気に遊兵と化すだろう。


 刻一刻と時計が針を進め、いよいよ灰皿の葉巻が山をなした頃に――――


 コンコンコン!


 ドアが叩かれ、若い兵士が飛び込んできた。

 それはこの場全ての参謀官が待ちわびていたもの。

 全ての成否を明かす者――――――


「......符号を言いたまえ」

「ハッ! "蒼空は開かれた"! 繰り返します! 蒼空は開かれた! 我、魔甲障壁の完全破壊に成功す!!!」

「よぉくやったぁッ!!!!」


 参謀次長は机を叩いて大きく立ち上がった。

 蒼空は開かれた。つまり、レーヴァテイン部隊が障壁をぶっ壊して王都に再び召喚魔法で戻ったという成功の符号なのだ。


「遮るものはなくなったぞ諸君! これより! ウォールブレイク作戦は第2段階へ移行する。西方軍司令!」

「うむ!」

「第7機甲師団を前進させる! 後衛部隊の随伴と近接航空支援も忘れるなよ!」


 熱気に包まれる参謀本部。

 遂にやった、忌まわしき障壁が消えたのだと全員が狂喜した。


 王国軍は戦車150両からなる機甲師団を第1防壁へ向かわせ、同時にワイバーン航空師団による敵陣地への空爆を開始。

 後衛には3個戦闘団と、12個歩兵師団が詰めている。


 それだけではない、王国軍はこの大要塞を叩き潰すための切り札も用意していた。


「38センチ自走臼砲を全車投入せよ!! 人類文明の鉄槌を食らわし、ウォストピアに脳震盪を起こしてやれ!!」

「了解!!」

「砲兵軍団に連絡! 毒ガス攻撃を準備! 黃十字マスタードガス、青十字ガスを混合でお見舞いしてやれ!!!」


黃十字マスタードガス】

糜爛びらん性の猛毒で、主に皮膚や肺などに被爆する。

遅効性のため気づくのが遅く、皮膚が焼けただれたようになる他、呼吸困難になるなど非人道も甚だしい兵器。

また、通常の防護服やマスクは意味をなさない。


【青十字ガス】

こちらも確か糜爛性。

咳やくしゃみ他諸々を引き起こす猛毒で、前述のマスタードガスと組み合わせると為す術はほぼない

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