第125話 猶予は与えられん
――――ウォストブレイド ルナクリスタル地下保管庫。
エルドたち王国軍がルナクリスタルを破壊して数分後、銃弾を受けてしばらく動けなくなっていたモルドはようやく立ち上がった。
どうやら、今の今まで死んだと思われていたのか幸いにも拘束はない。
「おい......、動ける者はいるか......?」
銃弾を3発受けてなお立ち上がろうとしたモルドだが、ぬかるみを踏んだようにズルリと足を滑らせた。
いったいなんなんだと下を見た彼は戦慄した。
「なんだよ......これ」
床に流れていたのは血、その源を辿っていったモルドは見た、見てしまったのだ――――数時間前まで一緒に喋っていた同僚を......。
"同僚だった"ものを。
「ッ......!?」
彼だけではない、自分が権限を逸脱してまで率いた戦士たちはほぼ全員が倒れ伏していた。
壁には弾痕がいくつも残され、ルナクリスタルなど見る影もない。
もはや魔甲障壁は消滅したと考えるべきだろう。
「あぁ.....そうか」
もはや喋ることのない同僚からペンダントを取ると、ため息を吐きながら立ち上がる。
「俺たちは負けたのか......」
障壁が消えた今、すぐにでも敵の大軍が押し寄せてくるだろう。
それでもまだ諦めたわけではない、モルドは戦士として――――守るべき妹のためにも魔力を膨れ上がらせた。
「あぁ......、サーニャ......」
こんなバカな兄の帰りを待つ妹の姿が過ぎる。
またあいつの弁当が食いたかった、教会へ出掛ける姿を見送りたかった。
もっと兄らしく振る舞えば良かった。
「神よ......!」
後悔を振り切り、天へ叫ぶ。
「願わくば......!」
ここであの勇者率いる王国軍を、あいつらを止めなければ必ず首都が戦場になる。
無垢で素直で、平和が大好きな妹を――――上のバカどもが始めた戦争に巻き込むなどできるわけがない。
「この身にあと数分の猶予を......!!」
俺たちで終わらせる......!
そう固く誓い、強い意志でもって立つ。
「――――――与えられん!!」
なにかが響いたのだろう。
なにかが伝わったのだろう。
なにかが与えたのだろう。
モルドの瞳に"薄い金色"が宿った。
それは数分の猶予、彼が求めた"なにか"からの恩寵。
「絶対に逃がさんッ......!! この要塞から、人間は1匹たりともだ!!!」
彼は駆けた。
バカみたいに長い階段をたった数秒で踏み終わる。
信じられない量の魔力を撒き散らし、エルドの身体能力強化に匹敵する速度で砲台陣地へと向かった。
確証はない、だが"なにか"が教えてくれているような気がしたのだ。
『お前の敵はこっちにいるぞ』と。