表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/380

第124話 少佐の司令部散策

 

 ――――ウォストブレイド要塞 司令部区画。


 部屋中に絵画が飾られ、何もかもが上質な素材で構成された司令室に男はいた。


「はいはい、こちらラインメタル少佐だ。......ほぉ、魔甲障壁を破壊できたか――――ご苦労だった」


 通信を繋ぎながら少佐がドッカリと腰を沈めているのは、ウォストブレイド要塞の司令官専用席だった。

 マホガニー製の机には奪った魔法杖が立て掛けられ、9ミリ拳銃が乗せられている。


「ん〜? 拉致被害者......? それはまた厄介な事案だな、ひとまずその親子を守りながら脱出したまえ。わたしも後で砲台陣地へ向かう――――あぁ、頼んだよヘッケラー大尉、エルドくんたちはこき使ってもらって構わない」


 通信を切った少佐は、余計な仕事が増えたとばかりにため息を吐く。


「困ったねぇ、こっちは定時上がりをするつもりだったのに仕事を持ち帰ることになるとは」


 彼は足元に転がるそれを軽く蹴った。


「随分と外道な真似をしてくれるじゃないか、ウォストブレイド要塞司令官殿?」

「う......ぐぅ......」


 ラインメタル少佐が踏みつけているのは紛れもない、この要塞でもっとも偉い人物であった。

 彼だけではない、血に濡れた室内のあちこちに幹部と思われる亜人の死体が転がっていた。


「魔甲障壁も消えたことだ、少し借りるよ」


 立ち上がった少佐は、司令室内の本棚を物色。

 何冊かを取り出して戻ってきた。

 どれもがウォストピア語で『最重要機密』と書かれた書類である。


「やっ、やめろ! その書類は......!!」

「読み物くらいジックリ漁らせてくれたまえ、騒音は読書の邪魔だ」


 9ミリ拳銃が亜人司令官の腕を撃ち抜く。

 上がった叫び声を気にもせず、ラインメタル少佐は再び司令用の椅子に座って王国より質の低い紙に書かれた書類内容を読んだ。


「『世界樹復活計画とニューゲート作戦について』か......、面白そうだ。参謀本部で吉報を待ちながら葉巻を吸う准将閣下への手土産にちょうどいい」

「貴様......なぜ我が国の文字が読める......」

「嗜む程度だよ、翻訳のようにスラスラ読めるわけでもない」


 血まみれの司令室で我が部屋のようにくつろぐ元勇者に、亜人司令官はひどく恐怖した。

 こんなやつに書類が渡ったなら、ウォストピアは魔王軍からも信用を失うだろう。


 完全な失態、あまりにも無慈悲な力に歯が立たぬ自分を司令官は殺したくなった。


「そうだ、ついでに聞いておこう。我が国民を拉致してなにをしていた?」

「くそ......ぉ......、悪魔め......」


 ――――ダァンッ――――!!


「あぐおああぁぁぁッ!!!??」


 再び9ミリ拳銃を撃たれた司令官は悶絶。

 血を流しながら目の前の悪魔に踏みつけられた。


「焦らされるのは嫌いなんだ、単刀直入に言いたまえ。じゃないと――――――」


 少佐は引き出しの中から白黒の写真を取り出し、這いつくばる司令官の前に持ってきた。


「ッ!?」


 亜人司令官の顔が凍りつく。


「これは娘さんかい? 可愛いじゃないか......見たところここからすぐ近くの町の風景みたいだが」

「......やめろ」

「よく聞け、君が喋ってくれなければ我々はこの町ごと娘さんを灰塵かいじんに帰すことも視野に入れると言っておく」

「わかった頼むやめてくれ! 拉致したのはアーク第2級将軍の命あってのことだ! 人間の国の情報を得ようと連れてきて拷問した!!」


 吐き出すように喋る亜人司令官。


「ハッハッハッ!! なんとも属国らしいな! 非武装の民間人から情報が取れると思っているあたりも実に蛮族らしい。どうせ司令部要員以外には知らせてないのだろう? 汚名をかぶるのは若者だというのに」

「頼む......あの町は、ウォストロードは娘の大好きな町なんだ。家族もそこに住んでるんだ......」


 【ウォストロード】は、このウォストブレイドを抜けて街道沿いに進んだ先にある町だ。

 気候が安定していて農業が盛んな穀倉地帯である。


 むせび泣く声を聞きながら、ラインメタル少佐はゆっくりと立ち上がった。


「なるほど、そこまで言うのならウォストロードを見逃すのも"検討"しよう。あそこを焼き払えば飢餓が発生するだろうしね」

「ホントだな! ホントなんだな!」

「あぁ、考えてあげよう」


 亜人司令官はさっきまでこいつが悪魔に見えたが、やはり元勇者だけあって良識は残っていたのかと安堵。

「じゃ、じゃあ......」と言いかけたところで、ラインメタル少佐は手に持っていた写真を――――――


「なッ......!!」


 ビリビリに破き、ブーツで踏みにじった。


「君たちが今までどれだけの民間人、女子供を襲ったと思ってるんだ? 世は常に我々にとって平等でなければならない」

「そんな......! 今さっき襲わないと――――」

「思い出したまえ、いつ僕が襲わないと言った? 検討する、考えるとは言ったが確約なんてしてないぞ」

「がッ......!!!」


 元勇者の瞳は、これまでにないほど輝いていた。


「安心しろ......ウォストロードは元々参謀本部で焦土にすると決められていた町だ。僕のような一介の少佐に端からそんな侵攻計画を決める権限などない」

「貴様ああぁぁぁあああああああッッ!!!!!」


 3回響いた銃声で、断末魔はアッサリ消え失せる。

 魔法杖を持った少佐は、奪った書類を纏めるとそのまま何も言わず退出。

 亜人の倒れる通路を悠々と歩きながら砲台陣地へ向かった。


 ――――ウォストブレイド司令部要員200名は、亜人司令官の死を最後にたった1人の男によって全滅させられた。


ラインメタル少佐はとにかく書いていて楽しいキャラですね、元勇者という肩書きと本性のギャップが個人的に大好きです

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ