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第123話 障壁粉砕

 

 大広間の亜人部隊はほぼ制圧された。

 周囲には倒された亜人が転がり、まだ意識のあった負傷者は突入したレーヴァティン部隊によって部屋の隅へ1箇所に集められていた。


 彼らは例外なく銃を突き付けられている。


「これがルナクリスタルか......、トロイメライで盗まれた物がこんなところで面倒事として立ちふさがるとはな」


 少し呆れた様子で、ヘッケラー大尉は愚痴とも取れるそれを漏らした。


「仕方ありません大尉、あのとき阻止しきれなかった我々の責任でもあります。苦渋は素直に舐めましょう」


 それがたとえ中級以下の冒険者ギルドに依頼をした運営のバカさ加減であれ、お決まりのように失敗した冒険者が原因であれ、こうして尻は拭わねばなるまい。

 俺はミスをミスじゃないと叫ぶ無能にはなりたくなかった。


「フォルティス2士の言う通りだな、これは我が王国の怠惰でもあった。ならば尻ぬぐいも王国軍われわれの仕事だ、これを破壊できれば障壁は消え失せる」

「はい、後方の本隊がこの要塞へ突入できるでしょう。セリカ、準備はできたか?」


 視線を横に向けると、背負っていた対戦車無反動砲を構えようとする茶髪の少女。セリカの姿があった。


「いつでもオッケーですよ、このくらいの魔甲障壁ならぶち抜いてやります!」


 自信満々の応答。

 部屋の中心部には相変わらずルナクリスタルが据えられており、不気味な輝きを放っていた。


「いいか......、絶対に外すなよ!」

「そういうのやめて! 緊張しますから! 余計緊張するッスから!!」


 珍しくテンパるセリカ。

 まぁたしかに外したらもうおしまいなわけで、彼女の肩に掛かる重圧は相当なものだろう。


 装填できるなら予備弾頭もあったのだろうが、あいにくこれは1発限りの使い捨て兵器。

 工場に持っていけば再使用も可能だが、どちらにしろこの場では1発勝負だ。


 砲手であるセリカを残して、全員が待避。

 忌々しそうな目でこちらを見つめる亜人へ、俺もとりあえず銃を向けておく。

 今逆襲されたらたまらんし。


「後方の安全確認!」

「後方の安全よし!」

「発射用意――――っ!!!」

「発射ッ!!!」


 弾頭が高速で発射されると、すぐさま至近距離にあった魔甲障壁へ着弾。

 対戦車榴弾の噴流は障壁をいとも簡単に貫通し、中で輝いていたルナクリスタルもろとも消し飛ばした。


「やった! 破壊確認ッ!!」


 嬉しそうに声を上げるセリカ。

 直後、床が大きく振動――――しばらくしてから揺れは収まった。


「これで終わりッスかね......、障壁が消えてたらいいんですけど」

「そうだな、あとは外に脱出して確認しよう。そして少佐と合流だな」


 思いの外アッサリいって良かった、これで何事もなく任務は終了。

 ピクニックを終えてお家に帰るだけだ。


「よし、全員脱出ようい――――――」


 言おうとしたヘッケラー大尉の言葉は、だがそこで中断させられた。


「ヘッケラー大尉!! こっちへ来てください!!」


 叫んだのは他のレーヴァティン隊員。

 すぐさま何人かで向かうと、そこにはさらに下へ続く階段が伸びていた。

 気のせいか妙な臭いが漂ってくる。


「なんだ、探索をしている時間などないぞ」

「いえ、とにかく来てください!」


 曲がりなりにもレーヴァティン大隊は、主に少佐が選んだ猛者のみで構成されていると聞く。

 彼も選ばれた古強者であろうに、ひどく動転していた。


「......わかった、だが長居は禁物だ。すぐに脱出して少佐殿に連絡しないといけない」

「わっ、わかりました!」

「セリカ・スチュアート1士、エルド・フォルティス2士。君たちも来い」

「「了解」」


 隊員について階段を降りる。

 だんだんと強くなっていく臭いが鼻をつくが、それよりも彼を焦らせる原因の方が気になった。


「ここです......!」

「なッ......!?」


 声が詰まった。

 ありえない、こんなことがあっていいのかと脳がパニックに陥りかけた。


「誰......か......」


 檻がいくつもある空間、その内の1つから弱々しい声が聞こえてきた。

 すぐさま覗くと、あってはならない......そこにいてはいけない者がボロボロの姿で座り込んでいた。


「人......間......? あっ、あなたたちは!? なんで人がこんなところに!!」


 セリカが青ざめながら叫んだ。

 今ならわかる、あの隊員がここまで焦ったわけも。

 おそらく制圧後に軽い気持ちで探索し、見つけてしまったのだろう。


 牢獄の中で座り込んでいたのは、全身傷だらけの女の子とその母親だった。


「半年前に始まりの町ソフィアで散歩をしていたら......、黒いローブの男に意識を奪われて。気がついたら......ここに......」

「ッ!!!」


身体能力強化オリオン』を発動、おれは鉄格子を無理矢理こじ開けた。

 クソッタレ......! 確かに王国では行方不明事件はたまにある、だがここに来てまさか"拉致被害者"がいるとは......!!


 衰弱しきった親子を隊員とヘッケラー大尉が背負うと、俺たちは階段を駆け上がった。


「ウォストピアの野郎......! 子連れの民間人を拉致して拷問とは......いい度胸だッ!!!」


 大広間のレーヴァティン部隊と合流した俺たちは、親子を守りながらの脱出戦へ移行した。


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