第120話 死にものぐるいで足掻く者たち
警報が鳴り響く要塞内。
ここに配属されたばかりの亜人モルドは、必死になって小隊をかき集めていた。
「中庭の様子はどうなってる!! 勇者がなぜあんなところにいる!!」
「第7区画までもう敵が来たらしいぞ、すぐに迎え撃たないと!」
「第3防壁からの援軍はまだか!! 司令部要塞の戦力ではとても対応できん!!!」
飛び交う怒号。
ここウォストブレイド司令部要塞は、魔甲障壁と3枚ある防壁の後ろに建てられたいわば脳みその部分。
そんなところに勇者率いる敵の精鋭部隊が突然現れたのだから、混乱は当然だった。
「おいモルド、大丈夫だったか!?」
話しかけてきたのは、先ほどまで談笑していた同僚。
俺は......俺たちは、文字通りあの地獄から逃げてきたのだ。
中庭で行われた殺戮とも言える勇者の攻撃、あの時城壁の上にいた俺たちは撤退することでなんとか死を逃れることができた。
恐ろしい、あんなデタラメな強さを持つ人間が敵にいる......。
それだけで相手をするのが億劫であった。
「あぁ大丈夫だ......、それにしても勇者とやらがあそこまで化け物だとはな。防衛ラインを下げる必要があるだろう」
「っと言うと?」
「敵は3方に別れて進撃しているらしい。まず勇者がたった1人で司令部塔へ、30人弱が武器庫へ。あとの90人は各区画を制圧しながらルナクリスタルのある部屋へ向かっている」
「なッ!!」
聞いていた同僚が明らかに動揺した。
「もし......ルナクリスタルが攻撃されたら!?」
「知らん! だがもしそうなれば障壁が解除されて無数の敵が押し寄せてくるだろうな。王国軍はそれが狙いだ」
そもそも、なぜ敵が要塞内の間取りを知っているのだとモルドは憤った。
完全に情報が漏れている、これで戦争をするなど信じられない怠惰だと叫びたくなった。
「すぐに小隊を集めるぞ、無事なやつらでルナクリスタルの防衛に回る!」
「中隊長の許可はいらないのか!?」
「中隊長殿はさっき中庭で死んだ! 司令部のバカや武器庫はあとでどうにでもなる! だがルナクリスタルは魔王軍から貰った中でもトップクラスで重要だ! 勝手に部隊を動かした責任はあとで俺が取る!」
なんというざまだ。
中央を突破した勇者は、今頃もう司令部塔で好き勝手に暴れているだろう。
武器庫には爆弾が仕掛けられようとしているかもしれない。
まったくもってクソみたいな状況、まさか首刈りの要領でこっちに仕掛けてくるとは完全に想定外。
障壁と防壁をどうやって突破した? 憶測としては召喚魔法を使った可能性が高い。
だが召喚魔法を使うには、使用者が要塞内部にいる必要がある。
だとすればやはりこちら側に裏切り者がいる可能性が濃厚、考えたくはないがどうやったって召喚魔法くらいしか思いつかない。
「アルト・ストラトスめ! どうやらとんだペテン師を抱えているらしいな! 総力をもってルナクリスタルを守り抜くぞ!『四足魔導兵器・グレイプニル』の使用も許可する!」
「了解!」
なんとしても守り切る、妹を――――首都で俺の帰りを待つサーニャのためにも......!!