第119話 セリカの昔話
今回はセリカのちょっとした思い出話回です
要塞地下にあるというルナクリスタルを破壊するため、少佐と第4小隊の30名を除いた俺たちは地下へと続く通路を下っていた。
「敵の主力は少佐殿が抑えてくれている! 今のうちに進めぇッ!!!」
中距離スコープ搭載のアサルトライフルを持ったヘッケラー大尉が、先頭を走りながら意気軒昂に叫ぶ。
確かに中庭でラインメタル少佐が引き付けてるおかげで敵は少ないが、それにしたって......。
「なあセリカ、本当に少佐1人で大丈夫なのか?」
いくら元勇者、化け物のような強さを持つ少佐とてあの数の亜人を相手するのは難しいんじゃないだろうか。
いたって普通の心配をする俺へ、なぜかセリカは疑問符を浮かべながら応答する。
「それ......、なんかの冗談ッスかエルドさん?」
「冗談じゃねーよ! あの人数はさすがの少佐でもキツいんじゃないかってことだ」
「たかが500体ちょっとですよ? もしかしてエルドさん......あの人のエグさをご存知ないので?」
「ご存知ないが?」
地下階段へ続く扉を見つける。
第2小隊の30名が出入り口を制圧し続けるため残り、59名で先へ進む。
「これはわたしがレンジャー教育課程の真っ最中だった時期です――――」
ひたすら長く、地の底まで続くんじゃないかという階段を降りながらセリカは昔話を始めた。
「たしかハイポート走が終わった直後でしたかね〜、汗だくで死んだ目をしたわたしたちの前にいきなり見学へ来た尉官がいたんですよ」
「それが少佐だったと?」
「はい、当時はまだ"大尉"でしたが......今とあんまり変わりませんでしたね」
そういえばこいつレンジャー騎士だったな。
普段は徽章つけてないから忘れてた。
「で、わたしたちレンジャー候補生と当時のラインメタル大尉とで特別演習をすることになったんです」
「ほぉ、演習内容は?」
「大尉を見事撃ち殺せたら、レンジャー候補生の勝ちっていう内容でしたね」
「ふーん撃ち殺......、おい待てなんつった」
撃ち殺すってなんだよ、そこは組み手とかじゃないのか?
「文字通りライフルを持って、さらに実弾で50人がラインメタル大尉を仕留めたら勝ちっていうマジヤバイ演習だったんですよ」
「演習っつーかもう実戦じゃねぇか、......どうなったんだよ? ――――――まさか」
「はい、ピンピンしてる今の少佐を見たらわかる通り、わたしたちが負けました」
いや待てちょっと待て、ライフル持った50人のレンジャー候補生を相手になにがどうなった!?
候補生っつったって基礎教育を終えた兵士だぞ。
「ボルトアクション式ということもあったんですが、まぁ恥ずかしながら1発も当たりませんでしたね......。1秒に1人のペースで殴り倒されました」
「ぜっ、全員倒すのに1分掛からなかったと......?」
「そうなりますね、だから銃も持たない亜人が500人集まろうが少佐には勝てないでしょう。銃を持った50人の兵士が1分未満で全滅したんですから」
なんつー恐ろしい昔話だ。
ってか、この国のレンジャー教育ってそんな恐ろしい演習まですんのかよ......。
階段を降りながら、俺は心に固く誓った。
「......レンジャーだけはやりたくねえな、勲章だってありえないだろうし」
俺はやっぱり、一般モブ兵士らしく生きるのが一番だと改めて実感した。