第116話 要塞突入戦
「敵は中庭方面へ向けて侵攻中! 至急応援を!!」
「こちら第32亜人大隊!! 中央玄関口が突破された! 損耗甚大! このままじゃルナクリスタルの所まで一気に抜けられちまう!」
要塞内に銃声を鳴り響かせ、迎撃にきた亜人部隊を俺たちは薙ぎ払うように突破していた。
ウォストピアとの開戦から今日までレーヴァテイン大隊はずっと王都で暇していたため、全員やる気は十分。
だがさりとてこの量は......。
「突破前進突破前進ッ!! とにかく前だ! 援軍が来ればこっちの弾がもたん、時間が命だと心得よ!!! コッホ少尉聞こえるか!?」
「はい!! 我々第4小隊はこれより敵武器庫へ向かいます!」
「頼んだぞ! 間取り図によればそこの階段を降りた先だ! ありったけの爆薬で派手に花火を咲かせてやれ!!」
激しい銃撃と少佐の叫び声。
「エルドくん! そこから来るぞ! 掃射しろッ!!」
階段の下から登ってくる敵へ、ダブルドラムマガジン付きの機関銃を斉射。
大量の7.92ミリ弾を受けた敵は、左右が壁のため逃げ切れず階段を転げ落ち、血に濡れた道が完成した。
第4小隊の30名は爆薬を持って地下の武器庫を目指す。
そして、俺たちも目標へたどり着くには避けられないルートへ向かった。
「さっすが大容量のドラムマガジン! 要塞戦にはうってつけッスね!」
「だが長いし重いし取り回しは最悪だ! こんなんなら速攻サブマシンガンに切り替えたいよ」
「しょうがないじゃないですか、亜人相手に9ミリ弾じゃ全然効かないんッスから」
俺と同じ7.92ミリ弾を使うアサルトライフルを持ったセリカが、セミオート射撃しながら口を動かす。
確かにこないだの王都テロでは、サブマシンガンをいくら撃っても教会を襲っていた亜人に効かなかった。
結局少佐が呼んだ戦車でどうにかなったのだが、こと亜人共は生命力が尋常じゃないらしい。
ようはタフなのだ、拳銃弾ではなかなか死んでくれない。
「いたぞ! 王国軍だ!!」
「神聖なるウォストピアの大地にやつらの血を捧げろ!!」
キツいキツいキツいキツい!!
中央廊下へ進出した俺たちへ、猛烈な突進が襲いかかる。
75発装填されたGPMGをあっという間に撃ち尽くし、俺はバックパックから次のドラムマガジンをセット。
コッキングと同時に腰だめで広い廊下目掛けて撃ちまくった。
「熱烈なラブコールが来てるぞ! どうだいエルドくん、いっそ歌でもうたってみたらどうかね?」
「敵の要塞内で王国国歌斉唱ですか! 魅力的ですが騒音と野次が凄まじそうです!!」
「ハッハッハッハッ!! 違いない! ではバッシングしかできないお客様にはご退場願おう!!」
ちょくちょく飛んでくる魔法弾を、左手の魔導盾で見事に弾きながらアサルトライフルを撃ち返す少佐。
あの門を抜ければ中庭だというのに、敵は次々となだれ込んでくる。
しかも、その中には追加の黒魔導士までいた。
「敵大規模魔法! きます!!」
いくら広いとはいえこんな室内で!? 敵もかなり必死らしい、広範囲を焼き払える集団魔法が発動された。
「魔導盾では防ぎきれんな、っというわけでエルドくん――――あとはわかるね?」
それはある意味上官からの命令、過重労働だと叫びたくなるもここは国営パーティ、またの名を国営ブラックなのだ。
選択の自由などなし、俺はもうお馴染みとなった初級防御魔法を発動させた。
「吹っ飛べ王国軍!!『上級集団攻撃魔法』!!!」
凄まじいエネルギー波が直撃、要塞のあちこちから衝撃でガラスの割れる音がした。
「やったぞ!! 初めて成功した!!」
「この土壇場で上級集団魔法を当てれるとは......! 日々の訓練の成果だな、我々は化け物のような勇者一味も倒せたんだ!!」
おや、どうも今の魔法攻撃は初使用だったらしい。
たぶん訓練では失敗しまくって、この本番でとうとう我々相手に成功させたということだろう。
それだけに、2秒後が大変申し訳無くなった。
「これでアーク第2級将軍にも認めてもらえ――――がッ!!??」
遮ったのは、黒煙から飛び出した7.92ミリ弾。
それも1発2発ではない、お返しとばかりにフルオートで浮かれる敵集団へ弾丸がばら撒かれたのだ。
「うぐおあああぁぁッ!!?」
「アガァッ!!」
完全に油断していたのだろう敵は、俺が障壁を解いた瞬間に襲いかかった鋼鉄の暴力を前にひれ伏した。
「健在の敵を前にめでたい連中だ、あの程度の魔法――――魔力無限のエルドくんが防げんわけないだろうに」
死体を踏みつけ門を開け放つ少佐。
「......おっと」
だだっ広い中庭へ出ると、そこにはバカみたいな量の亜人部隊。
なるほど......、連中ここで決める気か。
いかんせん弾がないなと思った矢先、ラインメタル少佐が銃と盾を部下へ渡したのだ。
それは言うなら丸腰、腰の拳銃以外は完全に素手だった。
「ここは僕が引き受けよう、君たちはルナクリスタルの所へ先行してくれ」
「しかし少佐! 敵の数が尋常じゃありません、おまけにそれを素手などいささか無茶では!?」
「これくらいの苦境――――いや、"遊び場"は勇者時代にバカほどくぐった。指揮は一時的に副長のヘッケラー大尉に引き継ぐ。あとで合流するよ」
確かに今ここで戦えば弾も時間も絶大な浪費を強いられるだろう。
今はこの元勇者様を......信じるしかないか。
「行きましょうヘッケラー大尉! 最優先目標はルナクリスタルです!」
「......わかった、では少佐、後ほど集合地点で!」
ヘッケラー大尉に続いて、俺たちは駆け出す。
「行かせると思うか王国軍ッ!! 今ここで死ねぇ!!!」
飛んできたのは城壁上のバリスタ。
直撃コースのそれは、だが俺たちに届かない。
「なっ!!」
バリスタの矢は『勇者モード』となった少佐に蹴り砕かれ、バラバラに飛散したのだ。
「言っただろう、僕1人で十分だとな」
勇者モード発動で瞳を金色に輝かせた少佐は、手をポケットに入れながら悠然と立ちはだかった。