第113話 敵だけ使えるなんてズルいじゃないか
「さて大隊諸君、ピクニックの準備はできたかな?」
王国とウォストピアが開戦して1ヶ月。
当初から有利に戦争は進んでおり、少佐によるとついこないだ新編されたソフィア戦闘団が亜人部隊を撃滅したらしい。
ここまでくれば、あとはウォストピアまで突き進むだけのはずであった。
だが、順調に進んでいた王国は文字通り"壁"にぶち当たったのだ。
「ではこれより作戦概要を説明する、なぁに緊張なんてしなくていい。トロイメライ、ロンドニア、王都テロを全て乗り越えてきた大隊諸氏には簡単すぎてあくびが出る程のものだ」
演習場の中心に集められた俺たちレーヴァテイン大隊は、完全武装で少佐に傾注する。
そして、何故か全員の足元には大きく魔法陣が描かれていた。
「これより我が隊は【ウォストブレイド国境大要塞】へ侵入する! 作戦名は『ウォールブレイク作戦』、なんとも安直なネーミングだが我々の任務は2つ。1つは要塞全体を覆う魔甲障壁の破壊だ!」
やはり国境大要塞の攻略か......。
そして魔甲障壁の破壊だと? 王国軍魔導士によればウォストピア国境にあるらしいそれはバカみたいに強化されてるらしく、戦車砲をもってしても破壊は不可能らしい。
でもどうやって我々で?
「魔甲障壁は司令部要塞の地下、"ある物"から発生しているらしい」
「ある物ってなんスか?」
全員が抱いていた疑問をセリカが少佐へ。
そして待っていたとばかりに説明は繋がる。
「トロイメライ騒乱は覚えているかい?」
「はい、今回の第2次魔王戦争の始まり――――我々は最高幹部デスウイングと交戦しましたよね?」
「そのとおり! ある物とはその際に盗まれたレアアイテムだ」
段々と記憶が蘇る。
そういえば、モンスターコロシアムがどうとか言ってたな。
俺の記念すべき初実戦の任務だ。
「アイテムの名は『ルナクリスタル』。トロイメライコロシアムで優勝賞品として用意されていたものだ」
「つまり、今回の我々の任務は警備を怠ったコロシアム運営の尻ぬぐいですか?」
「まぁ近いね、半分は防ぎきれなかった我々の責任でもあるが」
あぁ思い出した......、コロシアム運営が「軍は信用ならん」とか言って中堅以下の冒険者ギルドに護衛を依頼して、モンスターが大量に逃げ出した事件だ。
あの時のツケが俺らに回ってきたのかよ。
「なんにせよ1つは『ルナクリスタルの破壊による障壁の無力化』、そしてもう1つは『敵司令部機能の喪失』である」
これはまた難易度の高い......。
火力が使えないのならしょうがないが、要塞戦は初めてなのでぶっちゃけ不安しかない。
なるほど今回オオミナトがいないのも、正規の危険なミッションだからか。
「っとまぁここまで簡単に説明したが、なにも我々はミハイル連邦の要塞線に突っ込むのではない。亜人共の造った泥の巨城を踏み潰しにいくのだ。ちなみに戦死は許さん――――遺族への謝罪と申請書類が面倒なんでね」
横にあった布の掛けられた机をバンと叩く少佐。
どうやら色々と中に入れてあるようだ。
「亜人といえど気を抜くな! 我々がやるのは虐殺に近い一方的な戦闘だ! テロで亡くなった王国民と負傷したプリーストの少女、彼らの傷と怒りを鉛弾でもって刻み込め!!」
「「「「「はッ!!!」」」」」
総勢120人が一斉に敬礼する。
「あの、少佐」
「ん? なんだねエルドくん」
俺はずっと気になっていたことを聞いてみた。
「なぜ足元に魔法陣が?」
「エルドくん、君はいつぞや魔王軍がしてきた召喚魔法を覚えているかね?」
「もちろんです、ロンドニアや王都テロでモンスターを召喚してきた魔法ですよね」
「敵だけ使えるなんて卑怯じゃないかと思ってさ、我々も使うことにしたんだ」
「んっ、......え?」
ちょっと待て? 召喚魔法を我々も使う?
っつーかどこへ誰を召喚するんだ?
「敵に障壁があるんだから空挺作戦なんてできないだろう? だったらこれまで敵がしてきたように、我々も懐へお邪魔しようと思ってる」
いやいやいやいやちょっと待て! まさか召喚されるのって――――――
「では行こうか大隊諸君! 我々の召喚は現地の協力者がやってくれる! 薬室に弾を込めろ!!!」
「いや俺たちかよ――――――――ッ!!!」
言った瞬間、視界を魔法陣の光がいっぱいに満たす。
レーヴァテイン大隊の要塞殴り込み部隊120人は、【ウォストブレイド国境大要塞】へ一瞬で転送された。