第110話 突き進むウォストピア軍は、総力戦の洗礼を受ける
「第4梯団の様子はどうだ?」
新生魔王軍第2軍団。亜人を中心としたこの部隊は元々が亜人国の軍隊である。
その第2軍団の中でもっとも先行していた第1亜人連隊は、さきほどから旧エルフの森にいるはずの第4梯団と交信を試みていた。
「ダメです、司令部――――とりわけグルー厶様とは連絡が一向に取れません」
「むぅ......、やはりここは軍団司令部に直接聞いた方が良さそうだな。第4梯団の身になにかあったのやもしれぬ」
第1亜人連隊を率いるロッド連隊長は、旗をなびかせ戦列を築く部下たちを一望した。
その中に、ポツリポツリと真っ黒な4足歩行の異形がある。
それはウォストピアが国力の粋を集めて造った『魔導歩行兵器グレイプニル』。
それぞれの中隊ごとに1機ずつ配備されており、対空用の魔導砲や炸裂魔法発射装置までついた万能な兵器であった。
「これは憶測ですがロッド様......、もしや第4梯団は既に壊滅したのでは?」
部下の不安が混じった声に、ロッドは怒声で返す。
「ありえん! つい先日まで防衛体制は万全だと聞いている! 戦うにしても王国軍相手にそれなりには粘るはずだ」
「しかし、現に連絡が取れません! 最悪【旧エルフの森】はとっくに陥落していて、もう我々目掛けて敵が向かってきている可能性も視野に入れるべきかと!」
この部下の進言に、ロッドはさらに激昂した。
「敗北主義だぞ貴様! 我々は人間よりも上位の存在である!! その証拠に我がウォストピアの奇襲部隊が王都を襲撃して損害を出したではないか!」
「だからこそです! 連中はきっと怒り狂っています、我々もただちに防衛体制を整えるべきかと!」
譲らない部下にロッドは1つため息をつく。
「その可能性はないに等しい、連中の『鉄の魔導兵器』は確かに脅威だが我々には新兵器のグレイプニルがある。あれを使えば簡単に打ち砕けるだろう。それにだ――――もし敵が進んでくるとすれば川沿いしかありえぬ、深い森を一瞬で突破するなど不可能だからな」
現にこの『魔導歩行兵器グレイプニル』も、平原での運用を視野に入れた物で森を突破するなど非現実的すぎるのだ。
「万一敵が来たとしても川沿いの爆裂魔法陣地に引っ掛かる、そうなれば連中の接近にも気付けるだろう。わかったか?」
ロッドの言葉に、部下も押し黙る。
王国軍の『鉄の魔導兵器』は強いと聞く、だがさしもの連中でも深い森へはそうそう突っ込めないだろう。
部下も川沿いルートがもっとも現実的だと悟った。
「わかりました、ではこのまま進みましょう。もし爆裂魔法陣地に引っかかったら迎え撃ちます」
「それでいい、まぁひとまずは司令部に第4梯団の有無を聞いてからにしよう」
ロッドは通信用の水晶を持ってこさせると、第2軍団司令部へ繋ごうとした。
――――――すぐ近くの森からジッと見つめる"王国軍軽戦車"の存在に気づかないまま。
そもそも彼らは知らない、爆裂魔法陣地の場所などとっくにバレてしまっていることを。
上空に無数の影が浮かび上がったことも......。
「――――おい、ありゃなんだ?」
亜人の1人が空を見上げる。
それは鳥などではない、編隊を組んだ無数のワイバーンであった。
黒点は青空をバックに次々と急降下を開始――――――爆弾でも落とすように火球を発射した。
「うわあああぁぁッ!!?」
第1亜人連隊のド真ん中に火柱が連発した。
戦列歩兵を爆発が次々に巻き込んだのだ。
「どうした! なにが起こっている!!」
「空襲! 空襲ですッ!! あのワイバーン部隊は魔王軍のものではありません! 敵の航空部隊です!!」
「王国軍のヤツら、とうとうワイバーンまで実用化してやが――――――ぐああぁッ!!」
戦列歩兵とは非常に密集した隊形である。
その中心部に火球が炸裂したのだから、どうなるかは言うまでもない。
「防空戦闘!! グレイプニルは敵ワイバーンを撃墜せよ!!」
4足歩行兵器グレイプニルが、高速魔法弾を矢継ぎ早に連射。
濃密な弾幕を展開するがなかなか当たらない。
対空砲火はほとんど意味をなさなかった。
「全ての戦列に被害甚大!! 敵ワイバーンの数は圧倒的! すぐに救援要請を!!」
断末魔が飛び交う。
ただちに司令部へ通信しようとしたロッドだが、その異変に思わず手を止めてしまう。
彼はふと森の方を見た――――――いや、見てしまったのだ。
「......あれは?」
敵など絶対来ないと思っていた場所、木々の隙間に数えるのもバカバカしい『鉄の魔導兵器』がこちらをジッと見つめていたのだ。
突き出た砲塔で、じっくり照準を定めながら。