第107話 旧エルフの森航空戦
――――旧エルフの森上空。
「敵ワイバーン部隊視認......多いな」
この森を守っている"キーラ隊"は、新生魔王軍第1軍団で最後に残ったワイバーン部隊である。
彼らは空襲に来た王国軍の飛行船部隊に打撃を与え、地上部隊をこれまで何度も救ってきた。
その隊長が、乗っているワイバーンの背の上で大量の黒点を見る。
「王国軍め......、遂に召喚獣まで出してきたか。っとなると飛行船部隊は後方で目の前のこいつらは護衛だな......」
「隊長! 今なら高所を取っている我々が有利です! 一撃離脱で仕留めるべきかと」
念波を使って部下が提案してくる。
彼もまた、これまで実戦を生き抜いた歴戦のワイバーン乗りだが、隊長であるキーラは思慮を巡らす。
こちらは30、向こうは見えるだけで70もいる。
やはりここは部下の言う通り、高空からの奇襲が最敵だろう。
「よし、行くぞっ!!」
翼を振って突撃の合図を出す。
戦術は単純にして明快、急降下しながらの火炎弾攻撃で敵航空部隊を一気に蹴散らす。
数で劣る以上、先手を取るしか勝ち筋はないのだ。
バカなヤツらめ、一方的に撃ち落としてやると狙いを定めた瞬間......左翼の部下が叫んだ。
「てっ、敵発見!! 太陽に紛れて突っ込んできます!!!」
「なんだとっ!?」
すぐさま上を見れば、太陽の眩しさに隠れて複数の影――――
「回避運動ッ!!!」
突撃をやめ、すぐさま急旋回するキーラ隊。
だが、上空から撃ち降ろされた大量の火炎弾がまず7騎を叩き落としてきたのだ。
「ッ! 敵は直上より急降下! 数は50! 交戦します!!」
眼下のヤツらは囮であり、上空に潜んでいた別働隊こそが制空担当。
数を23にまで減らされたキーラ隊は互いに後ろを取り合う空中戦へと突入。
運良く2騎の王国軍ワイバーンを立て続けに落とした。
――――それでも。
「くッ!!」
とにかく数が違いすぎた、どう頑張っても1対2以上になってしまい次々とキーラ隊はその数を減らしていく。
おまけに。
「なんて旋回性能だ.....!! 俺たちと互角以上だと!?」
王国軍ワイバーンは質でも上回っており、最初の2騎から全く落とせなくなっていた。
キーラ隊は魔王軍の中でも精鋭中の精鋭、使うワイバーンも最上級であった。
なのに敵はそれすら超えてきたのだ。
「4番騎撃墜! 16番騎撃墜!! ......マズい! ケツにつかれ――――――があぁッ!?」
共に戦った戦友たちが、まるで雑草でも抜き取るようにアッサリ処理されていく。
敵はおそらく、持て余していた全ての魔導師を使って最上級のワイバーンを召喚していたのだろう。
黒煙を引いて落ちていく部下を見ながら、キーラ隊長は歯ぎしりする。
当初は30いた部隊も残存数はたった7騎、対して敵はまだ48。
これを全て撃墜し、さらに森へ向かった70騎を攻撃するなど到底不可能......、その上飛行船部隊の迎撃などできるはずがなかった。
「クソッタレがああああああぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!」
愛騎の限界まで旋回し、敵ワイバーンのケツを取ろうと試みる。
それでも旋回能力は互角以上のため捉えきれず、部下を落として手の空いたであろう敵がキーラの真後ろへ3騎ほどついた。
「バカな......ッ」
複数の火炎弾の集中攻撃を受け、隊長騎は欠片も残さず灰と化した。
当然、指揮を失った部下たちは統制など取れなくなり、その後の戦いはたった40秒で終結した。
《敵防空部隊殲滅、第11爆撃航空艦隊は前進すべし》
旧エルフの森を、100騎以上のワイバーン部隊が覆い尽くした。