☆第106話 幹部たちの重要会議
――――魔都ネロスフィア。
新生魔王軍の本拠地である魔王城がそびえるこの都は、かつて地の底で眠っていて最近復活したばかりである。
その中心部に建つ城のある一室、魔王軍の重鎮とも呼べる者たちが会議を開いていた。
「っというわけで、華麗なる俺の王都奇襲作戦は大成功しました。やはり脳筋のギラン第1級将軍はこの上ない無能であったことが知られましたな」
上機嫌そうに笑っているのは飾り気たっぷりの鎧を着た男、新生魔王軍第2級将軍アークだった。
80センチ列車砲の直撃で『移動要塞スカー』ごとギラン第1級将軍が戦死したために、指揮はこの男に移されていたのだ。
「しかしアーク将軍、これで連中を完全に怒らせてしまったのではないか? おまけにスイスラスト共和国の教会まで襲ったそうじゃないか」
口を挟んだのは三十路手前あたりに見える女魔導師。
彼女は魔王軍の魔導師部隊を統括する、ミリア第4級将軍。
開戦初期から黒魔導師の消耗があまりに早いので、焦っている者の1人だ。
「ミリア第4級将軍、ここは王国に打撃を与えられたと喜ぶべき場面でしょう。第2軍団は亜人だけで構成された軍ですがその働きはもっと褒めてくれても良いくらいですよ?」
「......しかし、もし王国がこれを機に攻勢を開始したら防げるのか? 我が第3軍団は消耗が激しい。お前たちを掩護はできんぞ」
第3軍団は当初、ギラン将軍の第1軍団を支援するために部隊を大幅に割いた。
だが結果はみなの知るそれ、黒魔導師の大半が155ミリ榴弾砲により魔法を発動することなく砕け散ったのだ。
「まずは【旧エルフの森】に籠もる第4梯団を助けます、我が第2軍団をもってすれば王国軍や勇者など雑兵に過ぎません。アルミナ様はなにか意見などありますか?」
鎧で覆われた好青年が、後ろを振り向く。
そこには水色のショートヘアを下げた小さな少女、ロンドニアの戦いで負けて以降しばらく役職なしだったものの、最近再び最高幹部になった吸血鬼アルミナがいた。
「......特にない」
彼女の無表情はなにも悟らせない。
「ありがとうございます、あとアルミナ様――――最近こちらの秘匿情報が敵に傍受されているとも聞きます。部下に探らせてもよろしいですか?」
「......問題ない」
「わかりました、どうせ属国の亜人国がウッカリ漏らしただけだと思いますがね」
アルミナは顔色を変えない。
だからこそ気が付かせなかった、アルミナ自身が情報を元勇者へ流し続けていることを。
魔王軍の未来ではなく、妹であるエルミナだけを常に考えていることを。
ちなみに「亜人はテロの標的を教会に定めている」。
「ついでに市民の無差別殺人も狙ってるぞ」とラインメタル少佐に伝えたのも彼女である。
だからこそレーヴァテイン大隊は迅速に対応できたのだ。
もちろんそれをアルミナ本人とラインメタル少佐以外、知る由はない。
「とにかくだ、我が第2軍団は【旧エルフの森】へと進軍し、取り残されている第1梯団と合流する! さすれば勝機は見えるだろう! そして再び王国領土へと踏み入る――――――」
かっこよく決めようとしたアーク将軍のセリフは、無情にも突然開かれた扉によって遮られた。
「何事だ!! 今は重要会議中であるぞ!!」
当然怒るアーク将軍。
だが、伝令の言葉を聞いてその激昂は一気に冷めた。
「報告! さきほど【旧エルフの森】付近に大規模な敵航空部隊を発見! ガルム・ワイバーンおよそ100騎以上! さらに爆撃型飛行船7隻が接近中とのことです!!」
「なっ......!?」
思わず戦慄する。
【旧エルフの森】を守るこちらのワイバーンはたった30騎未満。
それもそのはず、彼らの保有するワイバーン兵舎は魔王軍が光の矢と呼んでいたそれ――――多連装ロケット砲によって完膚なきまでに破壊されていたからだ。
「近隣のワイバーン部隊へ応援要請! 第2軍団へ至急警報を出せッ!!!」
「間に合いません!! 敵は既に魔王領へ侵攻!! 大規模な攻撃を開始しています!!」