第105話 圧倒的な航空戦力
――――王国軍統合参謀本部。
開戦当初から圧倒的な戦力差で新生魔王軍を圧倒してきた王国軍、その頭脳たる参謀官たちがここにはいた。
バカのように突っ込んできた魔王軍をアンブッシュ(待ち伏せ)していた榴弾砲で指揮官ごと吹っ飛ばし、小賢しい小型モンスターは機関銃で引き裂き、パワーで押してくるオーガの頭部を対戦車ライフルで粉砕するよう指示していたのが彼らだ。
もっと言えば戦略的なお仕事もたくさんあるのだが、そんな参謀連中は危惧していた事態に頭を痛めていた。
「参謀次長のおっしゃられた通り、都市部での召喚魔法は厄介極まりないですな......」
今回の王都無差別虐殺事件の被害を集めていた参謀官が、イスに座る参謀次長へ振り返った。
「まったくだ、これでは防衛線をいくら引こうが意味をなさない......。召喚魔法を使った連中は判明しているのか?」
「混乱がひどく、警務隊も突き止めきれてないようです」
「まぁ仕方あるまい。ところでアルナ教会も襲われたと聞くが本当か? だとしたら連中の本国が面倒だ」
「"スイスラスト共和国"のことですか? あそこは永世中立国でアルナ教会の総本山がある国でしたね。彼らは戦争資金も提供してくれている味方では?」
永世中立国のくせに資金を提供しているのはなにかの冗談だろうと言いたくなるが、この資金提供は正直かなり助かっているので参謀次長はスルー。
「教会の安全は我が国が保証していたのだ、それが今回の襲撃でプリーストに重傷者が出てしまった......。文句の1つは覚悟せねばなるまい」
「ではそちらは政治屋連中に任せてはどうです? 無能な外務省にはこういう時こそ活躍してもらいましょう。我々には早急なる課題があります」
地図を叩く参謀官。
「亜人国侵攻作戦は、やはりかねてより立案されていたもので?」
今日の午後、アルト・ストラトス王国は蛮行を働いたウォストピアへ宣戦布告を行った。
同時に、軍はかの国を標的として指向したのだ。
「あぁ、まずは旧エルフの森に立て籠もっている魔王軍を叩き潰す! 例の部隊はどうなっている?」
「例の部隊......第1航空師団ですね? 彼らならもう飛び立ってますよ」
『第1航空師団』。
それは、開戦から持て余していた魔導師部隊の新たな有効活用を目的として作られた新部隊だ。
その中核戦力こそ、以前王都で冒険者ギルド【アルナソード】がエルドに繰り出した召喚獣だった。
「ガルム・ワイバーンを400騎集めるのは苦労したが、間に合ってよかった」
「敵が召喚魔法を使うならこちらも召喚獣を使ってやろうというのは有効だと思います。なにより新戦術を試す絶好の機会です!」
そう、王国軍は召喚獣であるガルム・ワイバーンを大量に召喚して次々に部隊を作ったのだ。
前々から敵のワイバーンがうっとうしくてしょうがなかったが、これでこちらもマトモな航空戦力が使えるようになったと言える。
「第1ガルム・ワイバーン連隊はさきほど始まりの町ソフィアの臨時航空基地を離陸、第6ワイバーン大隊、および第11爆撃航空艦隊と合流後に旧エルフの森へ侵攻します」
地図では無数の矢印が旧エルフの森を走り回り、50以上の空襲ポイントに印が付けられていた。
「そういえば参謀次長、元々あそこに住んでいたエルフの生き残りたちが『森の環境に配慮してほしい』と言ってましたが」
「適当に誤魔化せ、どうせもうあそこは枯葉剤の影響で今後数十年立ち入り禁止だ。もっとも――――枯葉剤抜きにしてもナパームで焼き尽くされた森にエルフ共が住み着けるとは思えんがね」
結局、森に関しては"新生魔王軍が毒を放った"と言い訳することが決まった。
「では始めようか! ガルム・ワイバーンに飛行船、そして戦車を使った圧倒的な機動戦術を!!!」
参謀次長は立ち上がり、意気軒昂に叫んだ。
航空戦力と戦車の組み合わせ、それはかつて"ドイツ"と呼ばれる国から来た者に聞いた世界初の電撃戦であった。
【電撃戦】
言わずと知れた機動戦術。
戦車と航空機の連携で戦略要衝を手早く潰し包囲、機動力に物を言わせて相手国を蹂躪する。
ベネルクス三国とおフランスさんはこれにぶっ殺された。
【永世中立国】
名の通り戦争が起きても自分たちは一切関わりませんよという国。
有名なところでは平和的イメージでスイス等がよく挙げられるが、あそこはマジモンの軍事国家である。