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第102話 連邦工作員と極東の島国人

 

「ハァッ! ハァッ! ....クソッ、どうしてこんな!」


 下水道をひたすらに突っ走っていたアルナ教会王都支部長、もといミハイル連邦工作機関マルドー少佐は、息も絶え絶えに愚痴っていた。


「魔王軍のヤツらめ、どこからか情報漏れしやがったな......! 教会に戦車が突っ込んでくるなんて完全に予想外だ。この国の軍はイカれてやがる」


 幽霊の発生源は極秘中の極秘、その秘密を探ろうとしたルシアを消すために亜人を送り込んだまでは良かったのだ。

 彼女を瀕死にまで追い詰めた時、なぜかいきなり王国軍が現れまたたく間に亜人を倒してしまった。


 平和デモ集団を囮に他の亜人部隊を暴れさせておけば、教会での騒ぎに気づくわけがないという算段も今ではとっくに水の泡。

 ルシアの抹殺には失敗、バカな亜人がマルドーの関与をルシアに教えてしまったために今こうして走っている。


「噂のレーヴァテイン大隊とやら、かなり厄介だな......。元勇者が率いているという話も本当だったか。なんとか本国へ伝えねば」


 彼の使命は、アルト・ストラトス王国の情報をミハイル連邦本国へ届けること。

 使えるものなら亜人だろうが魔王軍だろうが平和主義者だろうがなんでも使う、敵国を少しでも弱体化させるために。


「よし、この曲がり角を曲がれば出口だな」


 ようやくこの不快な空間からおさらばできる、そう思っていた彼は目の前の角から突然出てきた者に勢いよくぶつかってしまった。


「あだっ!? 貴様! ちゃんと前を見ろ!!」


 思わず尻もちをついたマルドーは怒鳴ったが、すぐさま黙らされる。


「あなたがマルドー支部長ですね? こんなところをお急ぎでどちらまで?」


 ぶつかったというのに全く動じないそれは、一見スリムだが筋肉質な男だった。

 黒髪黒目で、瞳には軍人の持つ独特の光を宿らせている。


「ッ......!! 貴様、王国軍の追手か!?」

「――――――厳密にはそうではありませんが、そのケースを持っていかれると自分の友人が困るものでして」


 ぶつかった衝撃で転がったケースをすぐさま抱き寄せる。

 これには、今までの諜報活動で得たマルドーの結晶が詰まっているのだ。


 当然、霊が漏れていた場所についても......。


「フンッ、だとしても簡単に渡すと思うか? やはり追手か!」


 マルドーはミハイル連邦製の銃を懐から取り出そうとするが、彼の右腕はすぐさま弾丸によって撃ち抜かれた。


「あっ......! アガアアアァァァァァッ!!??」

「おとなしくしてください、抵抗もなしです。次は頭を狙うのでお気をつけを」


 痛みに悶えながらも、マルドーは男を観察する。

 やはり王国軍の者かと思った彼だったが、どうもおかしい。

 諜報活動をしていた以上、王国軍が使う拳銃は古いものから最新型まで全て把握していた。


 だが自分を撃ったであろう拳銃は、そのどれにも属さないのだ。

 時代にそぐわない異物......そう形容するしかなかった。


「貴様......何者だ!! 王国軍ではないな!」

「さっきからそう言ってるでしょう、さっさとケースを渡してください。でもまぁ......強いて身分を言うなら――――――」


 男は数歩前に出るとケースを踏みつける。


「こちらの世界では"ただのしがないアイス屋"ですよ」


 スライドに桜とWの刻印が施された日本国 陸上自衛隊正式採用拳銃《シグ・ザウエルP220》を向けながら、男はニッコリと微笑んだ。


【シグ・ザウエルP220】

日本国自衛隊の採用する拳銃であり、陸海空問わず幅広く使われている高性能なスイスのSIG社製拳銃。


各自衛隊ごとに刻印が違っており、陸上自衛隊の場合は桜にWが彫られている(海自は桜に錨とW、空自は桜に翼にW)。

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