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第101話 覚悟を決めた亜人の最期

 

 それは、あっという間の出来事だった。

 覚悟を決めた亜人が俺たちへ咆哮を上げた直後、教会の入口が壁ごとぶち破られたのだ。


「おまたせエルドくん!! 騎兵隊の到着だ!!」


 神聖な祈りの場所へ突っ込んできたのは、突き出た砲身と巨大な鋼鉄の体躯たいくを持った陸軍の兵器。


「戦車っ!!?」


 そう、ロンドニアでは出現したギガント・アイスゴーレムを粉砕し、新生魔王軍を旧エルフの森まで押し込んだあの兵器である。


「よっ、4型戦車じゃないッスか!! 後から来た理由ってまさかそれ取りに行ってたんです!?」

「もちろんだセリカくん! 巨漢が相手ならばこちらも巨漢を出してこそ真の平等というものだろう? 戦いは"我々にとって"フェアでなければならない!」


 短砲身の24口径75ミリ戦車砲がくっついたその上――――キューポラ(砲塔上部の司令塔)から上半身を出したラインメタル少佐は、意気軒昂に叫んだ。

 ご丁寧に乗員用ヘルメットまで付けてノリノリである。


「さて亜人くん、君には今2つの選択肢がある。どちらか選びたまえ」


 戦車に乗った元勇者は、嬉しそうに......そして優しく微笑んだ。


「今この場で轢き殺されてミンチと化すか、体に大穴開けて血をぶちまけるか――――選択の自由をやろう」


 選択もクソも殺す気しか感じられません、本当にありがとうございます。

 そして当然といえば当然だが、体長4メートルを超える亜人は激昂した。


「ふざけるな勇者ッ!! 俺の故郷を見捨てた無責任野郎が英雄呼ばわりされて図でも乗ったか!? そんな選択飲むわけ......アガァッ!?」


 亜人の右足が、飛んできた7.92ミリ弾によって肉をえぐられた。


「選択肢以外の答えは聞いていない、こちとら国民を殺られてちょいとばかし気が立ってるんだ......さっさと言え」


 戦車上部の機関銃を再び操作する少佐。


「剣を捨てた卑怯者め! そんなもので勝ってなにが嬉しい!!!」

「......勝つ? どうやら君はまだ勘違いしているようだ」


 再び発砲炎マズルフラッシュが輝き、亜人の左手が弾け飛ぶ。


「これは戦いじゃない、我々が行う一方的な殺しだ。この戦車は君みたいなヤツに負けるほど甘く作られちゃいない」


 ついさっきまでフェアだなんだと言っといてこれである。

 いや......その前に"我々にとって"と付いていたので、あながち間違ってはいないのだろう。


 平等なんて初めからこの場にはない。

 か弱い少女を一方的に痛めつけていた亜人が、駆けつけた勇者に戦車という圧倒的な存在によってねじ伏せられている。


 ただその現実だけが広がっていた。


亜人国ウォストピアは不滅なり.....、俺を殺したとて同胞が必ずお前らを殺す! 都市部でのテロに脆弱な貴様らではどうあがいたって――――うぐおあぁッ!!?」


 再びの射撃音。

 今度は左足が撃ち抜かれたようだ。


亜人国ウォストピアか......、最後にその言葉を聞けて良かったよ」

「なにっ......!?」


 戦車のエンジン音が吠え、砲塔がゆっくり向けられた。

 それは、もう聞きたいことをきけたという合図。


「都市部でのテロは確かに有効だ、君たちの愛国心もどれほどかよくわかった。でもね名もなき亜人くん......1つ教えてあげよう」


 ガシャンと砲塔が固定、俺とセリカはこの後なにが起こるかなんてとっくにわかっていた。

 俺はオオミナトを担いで柱の影へ、セリカも寝かせていたルシアへ覆いかぶさる。


亜人国ウォストピアは間もなく地上から消滅する! 君たちの愚かなテロ行為は王国の逆鱗に触れた!! その卑劣なる犯罪は国家の死でもって償ってもらおう!!」

「そんなこと―――――――させるかあぁぁぁぁぁッッッ!!!!」


 弾丸のような速度で戦車へ突っ込む亜人。

 同時に、俺たちは衝撃に備えた。


「――――――撃て」


 爆音が広がる。

 発射された高性能榴弾は突撃してきた亜人のド真ん中へ命中。

 吹っ飛んだ巨体は教会のステンドガラスをぶち破り、反対側の大通りへ倒れ込んだ。


 爆風を柱と障壁でガードした俺は、とりあえず周囲を見渡す。

 後に残っていたのは、発射の衝撃で同時に砕け散ったガラスの破片と戦闘終了を告げる火薬の匂いだった。


「神聖な教会で戦車砲をぶっ放す――――前から一度やってみたかったんだ、協力感謝するよ戦車長」

「いえ、元勇者のあなたが言うならばと従いましたが......よく亜人がここに現れるとわかりましたね? 確かに戦車でなければマズい敵でした」

「情報は大事だよ、君も留意すれば長生きできる」


 若干危ない発言を前にルシアを見るが、幸いというかまだ彼女は気を失っていた。


「救護班を呼べ! 負傷者の搬送及び手当てを行う! 状況確認!」


 戦車から降りたラインメタル少佐は、次の瞬間からもう仕事モード。

 テキパキと後処理を始めた。


「さて、あとは地下に逃げたネズミだな......」


 最後にボソリと......少佐はそう呟いていたが、俺にその言葉の意味はわからなかった。


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