第100話 風魔導士は黒歴史に喘ぐ
なんとか教会へ突入できた俺たちは、自分の身長の2倍はあろう亜人と対峙していた。
ルシアの容態はかなりひどいらしく、急いで処置しないと手遅れになるとのことだった。
「骨折を複数と......、内蔵機能も失ってるかもしれません。いずれにせよマズいですね」
応急キットを開くセリカ。
その前で俺は銃を亜人へ向けて構える。
「セリカは彼女の応急処置を頼む、亜人は俺とオオミナトで食い止める」
「わっ、わたしもですか!? なんか見るからに強そうでめちゃ怖いんですが......」
「当たり前だろ、普段レーヴァテインでズボラに過ごしてる分しっかり働いてもらうからな」
「う〜......! わかったわかりましたやってやりますよ!! 被弾なんて上等! セリカさんの邪魔はさせません!!」
ようやくやる気になったらしいオオミナトが、その身に風を纏う。
「てめえら王国軍か......、それが噂の銃ってやつだな。思ったより効くじゃ......ゴブオアッ!?」
喋ってるところ大変申し訳無いが、俺は残弾16発を全て亜人の体にぶち当てた。
「ガッ......!! 貴様らぁッ!!」
やっぱこれじゃ威力不足か。
サブマシンガンは拳銃の弾を使用するので、正直威力をあまり期待してはならない。
「装填する、カバー!」
「了解!!」
マガジンポーチから次の弾倉を取り出し、サブマシンガンへ押し込む。
銃を使う以上どうしようもないこの隙は、しかしレーヴァテインお抱えの風魔導士がしっかり援護してくれた。
「ハアアッ!!」
恐ろしい速度で肉薄したオオミナトが、勢いのまま亜人へ蹴りを浴びせた。
ステータスを俊敏性に全振りでもしてるのだろうか、動きやすい服装も相まってか疾風のように亜人を四方八方から殴りつけていた。
「このっ......!! ちょこまかと!!」
だが侮れない、亜人の拳はちょくちょくオオミナトをかすめている。
「ちょっ危な! まだですかエルドさん! このパンチ当たったらすっごく痛そうなんですけどぉ!!!」
「お前ならタフだから1発や2発くらい耐えれるだろ? あと安心しろ」
装填の終わったサブマシンガンを構える。
「―――今終わったところだ」
白兵戦を仕掛けるオオミナトに当たらないよう、3〜4発ごとの感覚で小刻みに連射。
亜人の顔面を集中的に狙い、リズミカルな射撃音が教会にこだました。
「きっ......っさまぁッ!!!」
オオミナトを振り切って俺へ突っ込んでくる亜人。
だが、その強靭な拳は俺の寸前で停止した。
「初級防御魔法だと!?」
障壁が俺と亜人を隔てる。
「あいにくオオミナトのように派手なのは使えないんでね、これしかないんだよ!!」
障壁を解除と同時に再び発砲。
今度は"目"に向かって引き金をひいた。
「アガァああああああッ!!?」
やっと急所へ当たったらしい。
出血した右目を押さえながら後ろへ下がる亜人。
すぐさま前衛のオオミナトが立ちはだかる。
「ここまでですよ亜人さん! おとなしく降参してください!」
「その風魔法......てめぇ、以前噂になってた黒髪の魔女か!!」
亜人がかつてのオオミナトの異名を叫んでしまった。
「なっ――――やっ......! やめてぇ!! その名前で呼ばないでぇ!!」
やはり掘り返しちゃいけない黒歴史だったのだろう、半分涙目で頭を抱えた彼女は隙だらけだった。
「バカッ! オオミナト!!」
「遅い遅いッ!! 隙だらけなんだよ!!」
「しまッ......!!」
回し蹴りをモロにくらったオオミナトは盛大に吹っ飛び、長椅子を3つほど蹴散らしながら柱に激突した。
「やろっ!!」
突っ込むと同時にサブマシンガンをフルオート射撃。
『貫通』を施した9ミリ弾は、吸い込まれるように亜人へ命中。
鋼鉄のような筋肉をエグッた。
「うぐおおおあぁぁッ!!?」
悶える亜人。
すぐさま弾倉チェンジするため、ポーチを確認するが......。
「ヤベッ、弾切れた......!?」
迂闊......!
ここまでの連戦で、たっぷり用意したはずの弾はとうに使い切っていたらしい。
仕方ない――――――
「オオミナト! まだ生きてるか!」
「いっつつ......、生きてるに決まってるじゃないですか! 勝手に殺さないでください!!」
瓦礫の山から起き上がった彼女はまだまだ元気そうに応答。
服はボロボロで頭からも血は出てるが、戦闘に支障はなさそうだな。
俺はオオミナトのところへ突っ走る。
「俺を飛ばせ!!」
「えっ?」
「『ウインド・インパクト』で俺をアイツ目掛けて飛ばしてくれ!!」
「はっ、はい!!」
意図を察してくれたオオミナトは、すぐさま魔法を発動。
暴風を踏み台代わりに俺は亜人へ突っ込んだ。
「オラアァァァァァァ――――――――――――――――ッッッ!!!」
銃を捨てて『身体能力強化』を発動。
勢いのまま顔面へ1発、さらに30――――60と猛撃を叩き込んだ。
苦しかったろう、痛かったであろうルシアという女の子の分まできっちりと亜人を殴り倒した。
「グオアッ......!」
仰け反り膝をつく亜人。
「人間の軍が......ゼェッ、これほどまで強いとは......甘く見ていた」
まだ倒れないしつこい亜人から、莫大な魔力が吹き出す。
さらになにかする気か?
「だがこれで終いだ!! 貴様ら全員なぁッ!!!」
直後、亜人の体がさらに膨張。
筋肉がドンドン膨れ上がり、4メートルを超える巨体が俺たちを見下ろしていた。
「あー......めんどくさい」
俺は持っていた魔導通信機を取り出した。
「少佐、後は頼みます」
その一言は、覚悟を決めた亜人の決戦を終わらせるための合図だった。
とうとう100話目ですよ!! まさかここまで続くとは思ってませんでした......まさに同志読者である貴方のおかげです!