第10話 祭りの始まり
今朝の新聞は、昨夜起きた上級ギルド【アルナソード】が起こした街中での大規模魔法、そして召喚獣使用についてが大々的に報じられていた。
「いやはや物騒な世の中になったものだ、魔王と戦ってた時代を思い出す」
コーヒーを飲みながら、少佐は新聞片手にときどき時計を見ていた。
「元勇者のあなたが言うなら、おそらくその通りなのだと思います」
朝日の差し込む広報本部の食堂で、俺とセリカ、ラインメタル少佐は少々寝不足気味の顔で食事を摂っていた。
昨晩のあれで、書類だの後始末だの武器の手入れだの––––言っちゃえば寝れなかったのである。
「公には警務隊が対処したこととなっている、まあつまり……我々は"そういう部隊"でもあるというわけだ」
「あれだけ派手にやられたら、事件隠すのはもう無理なんで、せめてもの工作はしたそうですよ」
新聞に目を落とす。
酔った魔導士が夜に暴走、魔法放って炎上……最後は警務隊によって逮捕。
なるほど、レーヴァテインの文字はどこにもない。
「あっ、てめーセリカ……俺の砂糖取ったな」
「無防備なのがいけないんッスよ〜、ちゃんと防衛手段は持たないと」
最後の角砂糖をコーヒーに入れるセリカ。
まあブラックも嫌いではないので、このまま頂く。
だが、さきほどからどうも少佐は時間を気にしているようだった。
––––コンコン––––
突然ノックが鳴る。
少佐に入室を許可されて入ってきたのは、俺と同じ歳くらいの伝令兵だ。
駐屯地暮らしの彼からすれば、広報本部でテーブルを囲んで食事している我々はさぞ不思議に見えるだろう。
「君、符号は?」
「はっ! “水の調律を保たれよ"、繰り返します、"水の調律を保たれよ"であります! レーヴァテイン大隊長、ラインメタル少佐宛に参謀本部よりこちらを預かっております」
「ご苦労さま、確かに受け取った」
手紙を渡して速やかに退室する伝令兵。
今の符号はなんだ……? つまりなにかしらあったということか?
手紙に目を通した少佐は、ニヤリと頬を吊り上げた。
「さて2人とも、昨晩やんちゃさんの相手をして疲れているところ悪いが、ここで仕事の時間だ」
「いきなりですね……」
「我々の仕事は大抵そうだよ、これから水の都・トロイメライでモンスターコロシアムが開かれる。我々レーヴァテイン大隊は祭りの間、街の警備を行うこととなった」
トロイメライ祭。
それは今年から始まる大きな祭で、モンスター同士を戦わせるコロシアムが行われる日であった。
【非殺傷弾】
ゴム弾だったりビーンバッグ弾だったり色々あるが、要は殺さない程度に痛めつけるための弾。
ただ、非殺傷とは名ばかりに結構高威力で、当たりどころが悪いと普通に死ぬ