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登戸村での用事・料理用七輪の発案 <C294>

いつもに比べ、少し長い回となっています。

■安永7年(1778年)3月14日 登戸村


 細山村の樵家からの応援2名を得て、6名で荷を背負い金程村から登戸村へ運ぶ。

 登戸村での銭のやりとりについては黙っていたようだが、泊まったときの食事の話が吹聴されていたようで、これに釣られたというところがあるようだ。

 これは、加登屋で昼食を奢るしかないようだ。


 3里の道のりを歩き、まず炭屋に着く。

 ここで、加登屋向けの分として、焼印七輪1個、卓上焜炉4個、小炭団60個、強火力練炭8個だけを別枠にするため抜き出し、手持ちさせる。

 炭屋では多分交渉の長い話となるため、細山組の4人と助太郎をそのまま加登屋に向わせ、昼食を摂らせよう。

 そして、加登屋で卓上焜炉の実演や改良点などの質疑をすることになるので、場合によっては細山組は帰宅させてもよいことにしよう。

 義兵衛と助太郎でそのような相談を済ませ、炭屋の入り口から声をかける。

 番頭の中田さんが店先に出てきていつもの挨拶をした後、炭屋向けの荷を中に運び込むように丁稚に指示をする。

 そこから、5人は加登屋へ向い、義兵衛だけが炭屋の中に招き入れられた。


「今回も沢山持ち込まれましたな。七輪4個、卓上焜炉4個、普通練炭62個、薄厚練炭336個、炭団1200個、小炭団196個ですか。

 七輪は問合せされるほどなので、助かります。

 卓上焜炉もありますな、これは全部江戸・本店に持っていきましょう。

 さて、前回からの売れ行きですが、普通練炭が4個、炭団が213個売れています。

 まだ売れ行きはそれほど落ち込んでいないように見えますよ。

 売り上げは2824文で、2260文(=5.6万円)が金程村の取り分です」

「七輪のうち1個は秋葉大権現様の焼印入りです。

 こちらは、江戸・本店にお持ちになればと思い持ってきました。

 想定している小売値は、焼印付きなので1000文です。

 卓上焜炉は100文、小炭団は8文を想定しています」


「江戸・本店に、焼印付き七輪・卓上焜炉・小炭団を全部持っていきます。

 なので、別に2374文をお渡しします。

 さて、ここからは卸値の価格交渉ということになります。

 この値段交渉は任されているのですが、今までの経緯から値切られることを含めた価格提示は無いと思っています。

 そこで、希望されるそれぞれの最低卸し価格をお教えください。

 本店には、これが交渉した結果、と報告しましょう」

 義兵衛は希望小売価格と卸値を提示した。


・七輪(焼印有):1000文、卸700文

・卓上焜炉:100文、卸70文

・普通練炭:200文、卸140文

・薄厚練炭:65文、卸45文

・炭団:20文、卸14文

・小炭団:8文、卸6文


「この価格で萬屋さんへは卸しましょう。

 それで、いつ、何を、どれくらい卸せばよいのか、まずはそれをお教えください。

 突然言われても、生産側の都合があるので、きちんと納めることができるかどうか確約できませんよ」

 この質問に中田さんは困ってしまっている。

「秋口に大量に準備しておかねばならない、という話は何度も聞かされているが、具体的に何をどれだけという知恵はない。

 本店からの指示を待つしかない。

 ただ、夏場にも売れる小炭団は、大番頭の忠吉が1日6000個の需要があると言っておったので、3月末には10日分の6万個は納めてもらいたい。

 また、卓上焜炉は200個準備してもらいたい。

 金程村への売掛け金は全部で95両程になるが、その程度なら万一の場合でもなんとかこの登戸で取り扱う範囲で収めることができます」


 中田さんは「本店が料亭用の焜炉をある程度の数量を確保し、これが世に出てから爆発的に需要が発生するか、不発に終わるかは賭けになる」という見込みを説明し、登戸支店で責任が取れる範囲でこの数字を弾き出したことを正直に述べた。

 ただ、爆発的に売れた場合の追加需要に応える期間は10日分しかない。

 この間で、金程村に追加の納入を依頼することになるが、どの程度応じられるかが鍵になる。

 本店の判断を待つしかないが、不発の場合のリスクを金程村もある程度負うしかない。

 少なくとも、中田さんは金95両の売掛金を保証してくれたのだから、年貢分は確保できているし、60両分の米=60石=150俵の米を買うことができる。


「これから、本店に行き、卓上焜炉・小炭団の感触を確認してきます。

 また、秋口からの準備として、いつ、何を、どれくらいという見込みを聞いてきます。

 とりあえずは、それでよろしいでしょうか」

 あのお婆様の言い方に比べると、かなり調子が低いがまあしょうがない。

 江戸市内は炭屋に任せ、その物量については最大限考慮するが、余る場合は金程村で独自に売ることを考えるしかないだろう。

「生産の優先順を決める必要もあるので、ある程度の期間より前に告知して頂かないと、依頼された物量を納められないこともあることを充分説明しておいてください。

 よろしくお願いしますよ。

 それから、村で加工するための木炭が不足しています。

 ザク炭を使っていますので、これを金程村に回してもらいたいので、協力をお願いします。

 今のところ、炭屋さんからの要求量が見えていないので、どの程度回してもらうのかはっきりしませんが、要求と同じ重さの木炭が必要です。

 こちらも忘れないでおいてください」

 念押しをし、4634文を受け取り、加登屋へ向った。


 加登屋で、助太郎は、焜炉と小炭団の実演と説明をしていた。

 細山組の4人は筏流しの船頭たちと同じ昼飯を食べ、そのまま村に帰したとのことだった。

 昼食代として5人分の250文を支払う。

「義兵衛さん、小炭団の実演の時に暖められる側用に小さな鍋か、金属製の皿があるといいですね」

「そのこともあり、鍛冶屋に相談をしたいと考えていたのだ。

 それ以外に、何か要望はあったのか」

「実は、強火力練炭を使ったときに、七輪が熱くなりすぎるという指摘がありました。

 普通の練炭だと、ゆっくり燃えるので熱が程よく抜けているのだけど、強火力練炭は火力が強いだけに側面が熱くなり過ぎて危ない、というのです。

 調理用には別に七輪を作ったほうが良いのかなとかも考えました」

 確かにその通りだ。

 七輪の上に直接鍋をペタリと置くと、火力が弱くなるという指摘もあったのを思い出した。

「今の七輪を囲むように外枠を作ろう。

 最下部は空気が通るように、1寸ほど格子にして、底は3本足をつけて七輪を支える。

 鍋なんか載せる道具は外側の枠が支えて、熱が出ている七輪は触らないようにする。

 この構造だと、七輪の壁面から発する熱も熱い空気となって拡散せずに上に向うので、効率的だ。

 熱で七輪が壊れても、中を交換するだけで済む。

 ちょっと一緒に検討してみよう」

 対案が出せたので、その場は収まった。


 加登屋さんから卓上焜炉と小炭団を1個もらい、鍛冶屋へ向う。

 ここでの相談は、焜炉の上に載せる小型鍋と皿である。

 薄い金属板を叩いて縁を折り曲げ、3寸四方の底に1寸半の袖を付けたものを作ってもらおう。

 持ってきた焜炉を使ってイメージを説明すると、早速トンテンカンと作り始めた。

 結構短い時間だが上手く作れている。

「これは都合がいいものができていますね。

 あと9個作ってもらうことはできますか」

 少し時間がかかるので、何日か後に取りにきて欲しい旨言われた。

 そして、それ以外に、卓上焜炉にも使えそうな小さな鍋を探しあてた。


「ところで、鍬についてですが、股鍬で柄の入る部分から鉄でできている3本爪のものは作れますか」

 そう聞くと「図面と時間さえあれば何でも作ってやる」という返事だった。

 それで、筆と紙を借りると、おおまかなイメージを書き上げた。

「5~6日後にはまた来ますので、1個作っておいてください。

 先ほどの皿と鍋の分も含めて、前金として3000文払っておきます」

 それから、皿1個と小型鍋2個を持ち、加登屋さんへ戻る。


「卓上焜炉に丁度良い皿と小鍋を探してきました。

 これで試してみませんか。

 そうですね、湯豆腐なんてどうでしょうか」

 加登屋の主人は義兵衛の提案に驚きながらも、言われるままに豆腐と出汁昆布片、若干の野菜を用意してくれた。

 素材を最初から皿の中に入れ、小炭団に火をつける。

 この瞬間は期待と不安がいつも混ざり合う。

 燃えていることを示す赤い色が表面一杯に広がると、その熱を顔に受けほっとする。

 焜炉の中を覗き込んでいる主人も、安堵の表情を見せる。

「いつ見ても、この火は心が騒ぎますなぁ」

 などと言っている。


 何ほどもなく、作ったばかりの皿の中から湯気が立ち昇ってくる。

 あと少しで火が消えるという段になって、皿の中の豆腐を取り出し、醤油を少し垂らして試食する。

「義兵衛さん、これは美味いです。

 皿も丁度いいですし、このまま店で料理として出してしまいますよ。

 ところでこの皿はどうしましたか」

 先ほどの鍛冶屋で村として9枚追加で作ってもらう約束をしていることを話すと、早速同じように作ってもらうよう依頼するつもりと聞いた。

 とりあえず登戸村での用が終わったので、金程村での研究用に皿と小鍋を持ち、また買っておいてもらった布海苔を手にした。


「この布海苔ですが、今の4倍を準備してもらうようにできないでしょうか。

 これから、増産しなければならないので、必須なのです。

 あと、明日お殿様へこの卓上練炭の披露を考えているのですが、その時使う具材として同じものを用意して頂けませんか」

 加登屋の主人はあっさりと準備してくれた。

「布海苔のことは了解しました。

 多分、この小炭団が沢山出るのでしょうね。

 こちらにも回してくださいよ」

 念押しされてしまったのは、言うまでもない。

 それから、二人で料理用の七輪をどう作るのかを話しながら金程村に戻っていったのであった。


この回は結構沢山の話しを盛り込んでいます。本来なら2話に分割するところですが、加登屋主人の発言をあえて抑えて1話にしています。(進行を早くするためでもあります)

料理用七輪の登場ですが、素焼きの植木鉢と豆炭を使っていろいろ実験した結果、大きさの違う鉢を重ねて間に隙間を作ると外側はあまり熱くなりませんでした。この結果を踏まえ、重くはありますが、4号サイズの外側に6号サイズの鉢を重ねることにします。名称を外殻と付けました。

次回は、甲三郎様への報告です。

感想・コメント・アドバイスなどお寄せ頂ければ、筆者の励みになります。よろしくお願いします。

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