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強火力練炭と加登屋さんの反応 <C270>

いよいよ、強火力練炭を使ってもらった感想が出ます。

「ただ今戻りました」

 加登屋の店に入って声をかけると、主人が「こっちへ来てくれ」と奥から声を上げている。

 もう勝手知ったる店の中を奥へ進む。

「義兵衛さん、今2個目の強火力練炭を試していますが、これなら料理に充分使えます。

 必要な時にだけ、パッと火か点くというところが凄く楽です。

 不意の来客に、いちいちかまどに火を点ける、なんて手間が減ります。

 ただ、鍋を直接七輪に着けると火力が弱りますので、少し浮かせておく必要がありますが、素晴らしい。

 店でお客に出す直前に、作り置きした里芋の煮物なんかをこうやって目の前でホカホカに仕上げると、美味さが倍増するし、お客も喜ぶこと間違いなしですよ」

 こう言いながら、主人は薄手の鍋で煮物の仕上げを行っている。

 鍋の中から熱された醤油の匂いがふんわりと立ち上ってくる。


「助太郎さんは、義兵衛さんに教えてもらったと言ってますが、なんでこんなことを思いつけるのか不思議でしょうがない。

 ああ、炭屋さんから戻られたところでしたなぁ。

 それで、どうでした」


 そういえば、強火力練炭を見て興奮している様子が丸判りな加登屋の主人に、言うべきことがあるのだ。

「ご主人、炭屋で色々と聞いてきました。

 重要なことなので、心して聞いてください。

 前回、加登屋さんでも練炭を売っていいということを言いましたが、実は駄目になりそうです。

 練炭も炭と同じ扱いなので、炭の株仲間でないと取り扱いができない、と本店から指示があったようです。

 ただ、加登屋さんで使う分を直接金程村から売ることまでは禁止させないようにするつもりです。

 なので、はっきりするまでは、練炭そのものを店頭では小売しないようにお願いします。

 ただ、何かのおまけで練炭を付けるということは、かまわないように言い含めようと考えています。

 また、七輪は炭製品ではないので、この店でも扱えるように交渉したいと考えています。

 加登屋さんを金程村と縁が深いので、親戚付き合いのように炭を融通している風にしています。

 そして、加登屋さんが直接行商する分には問題ないと考えますが、これもはっきりさせたいです。

 こういった話をまとめるため、近いうちに番頭さんと一緒に江戸の炭屋の本店へ行くことになります」

 主人はオヤッという顔をした。


『七輪のおまけは炭販売でない』なんて詭弁を堂々と言ってのける義兵衛に驚いたのか、江戸に行くということに驚いたのかは読み取れない。

「なんと、江戸の日本橋へ行かれるのですか。

 そこで、練炭の扱いについて交渉されるのですな。

 ならば、そこでの言い分は『この加登屋を金程村の身内』とされるとよろしいでしょう。

 身内なら、炭を卸していることにはなりません。

 対価として銭を渡していることまでは把握されぬと思いますぞ。

 いやぁ、まだ練炭を直接小売はしておらんかったので、助かりました。

 口実ではありましたが、七輪のおまけで練炭を付けたという口上は使えましたなぁ」

 今更のように言う。


「話は前後しますが、番頭さんは江戸本店へ七輪を持ち込んで、ここで起きている騒動を一通り本店の主人に説明したそうです。

 すると、最初は褒められ、途中で叱られ、結局登戸村で勝手に交渉するな、と言い渡されたとのことです。

 番頭さんは意地悪な人かと思っていましたが、こういった話を聞くと意外に正直な人だと思い直しました」

「そうでしょう、確かにちょっと欲張りなところはありますが、根は正直な働き者ですよ。

 お代官様に比べれば、ここに根を張ろうと頑張って信頼を積もうとしている人なのです」

 加登屋の主人から、中田さんを応援するような話を初めて聞いた気がする。


 助太郎も話の中に入ってきた。

「これから炭屋さんへ持って行く練炭・炭団があれば、荷をまとめますが、どうですか」

「いや、どうせ不足ということで、数日のうちにもっと持ち込む必要がある。

 なので、今回はこのままでいいと思う。

 後日、細山組に手伝ってもらって、それなりの数量を持ち込もう。

 余れば、加登屋さんのところに置かせてもらうようお願いしたい。

 もし、加登屋さんで必要なものがあれば、都度引き取ってもらうということをすればいいと考える。

 ご主人、そういうことをさせて頂いてもよろしいですか」

「ああ、判りました。

 金程村から預かっておくものは別なところに置きましょう。

 大量にあるということなら、いよいよこうじ屋さんの蔵を使うということですな。

 今回持ち込まれた品は、また全数買い取りということで良いですか。

 それで、七輪はどういった値段になりましょうか」


「これはまだ試作品なので、小売で800文(=2万円)を予定しています。

 炭屋さんで卸すときと同じ価格、640文(=16000円)でお譲りできますがどうでしょう」

「なるほど、判りました。

 今回は全部、言われる値段で引き取らさせて頂きます。

 小売の9割だとすると、10272文(=約26万円)でしたよね」

「いいえ、少し小売が高いと感じていますので、全部引き取って頂けるのでしたら、お約束した卸と小売の半分ではなく、卸しの値段で良いです。

 なので、9344文(=約23万円)で良いです」

「店としては助かりますが、そんなに安くして良いのですか」

「はい、それでも充分儲けは出ますし、加登屋さんとしては結構な量の練炭を既に抱え込んでいませんか。

 あまり無理は申せません。

 それよりも、強火力練炭は、いかほどの価値があるとお考えでしょうか」

 加登屋の主人は、ウッと考え込んでしまった。


「今回見せて頂いた強火力練炭は、とても素晴らしいと思います。

 薄厚練炭は暖を取ったり保温用途で一刻(=2時間)は保つというのが魅力で100文という値段でしょう。

 料理用で強い火力だが、使える時間が6分の一刻(=20分)位で、一回の煮物では2個使う感じになるのです。

 いちいちかまどで火をつける手間を考えると、パッと火が点いて、直ぐ調理にかかれるのは凄く便利そうです。

 2個で普通1個分位の感覚とすると、1個160文(=4000円)なら買ってもいいかと思う値段かなと考えます。

 少なくとも16個くらいは今欲しいですね」

 何か理屈は全くない。

 しかし、便利だから少々高くても欲しいという気迫だけは伝わってくる。


「そうすると、だいたい160文ですね。

 すると、卸値は128文(=3200円)になりますか。

 ご意見を頂きありがとうございます。

 今回持ち込んだ試作品は、あと6個残っていますが、差し上げましょう。

 どうぞ受け取ってください」

「いやあ、これは申し訳ないです。

 しかし、この強火力練炭は試作品なのでしょう。

 ある程度、安定的に提供してもらえないと、店では使いにくいですね。

 今度はいつ、どれくらいの数をお持ち頂けるのでしょう」

 これは、助太郎の出番だ。


「申し訳ないですが、この強火力練炭を作れるのは俺だけなのです。

 しかも、まだ量産する目処がついていません。

 7日後くらいであれば、14個位は作れるかなあ。

 義兵衛さんが無理難題を言ってこなければ、なんとかなるのですが。

 実はこちらに来る直前にも、1件難題を押し付けられているのです」

 逆襲されてしまった。


 今日中に戻る、ということで布海苔200文分と9144文(=約23万円)を受け取り、加登屋さんのところを出る。

 義兵衛の懐には、なんと19896文(=約50万円)もの大金、おおよそ金5両もの銭があるのだ。

 この練炭取引で大金が現金で手に入ることに、最初助太郎は仰天ぎょうてんしていたが、やっと慣れてきたようだ。

「助太郎、かなりの銭があるので、すきを買っていかないか。

 今、水田を掘っている鋤は結構古いものなのだろう。

 金具の部分がもっと広い、掘り出す量が多い鋤があるに違いない」

「義兵衛さん、売ったお金を勝手に使っていいのか」

「木炭加工に関するお金であれば、事後報告でも良いと言われている。

 もう完全に任されている感じで、そこまで信頼されているからには、絶対裏切ることはできない。

 先にも言ったことがあるように、あと4年後から始まる飢饉で村人を絶対に餓えさせる訳にはいかないのだ」

「なるほど、それでこそ俺たちが信頼する義兵衛だ。

 うんといい鋤を買って帰ろう」

 登戸村は左官職人の多い町ということもあり、道具屋にもかなりの業物が並んでいる。

 義兵衛達は吟味して、1000文の鋤を2本購入し、金程村へ帰ったのであった。


少しもの足りないですよね。筆者も後で読み返してそう思いましたが、一緒にいないのだからしょうがない、ということです。

さて、次回は、義兵衛’sは叱られます。凹みます。


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