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試作品で実演しました <C207>

サブタイトルで迷いました。「義兵衛の信頼を得る」でもよかったのですが、こういうのも結構難しいものです。

 初めて目にする七輪・練炭の威力を前に、作業を始める前に聞かされていた木炭での収入増加目標も夢でないと直感的に理解したのか、助太郎は興奮している。

「そうだ、この練炭・成型木炭をどんどん作ろう。

 どうせ今のままでは金にもならない端切れが沢山あるのだから、今のうちに皆粉炭に加工してしまおう」

 俺はあわてて、粉塵爆発の危険性を助太郎に充分注意しておいたほうが良いと義兵衛に伝えた。

「助太郎。頑張ってくれるのは嬉しいが、木炭を削るとき、空中に舞う粉炭には充分気をつけておくれ。

 粉になった炭は火がつきやすいので、本当に危ないんだ。

 狭い部屋の中で作業したり、火のそばでは作業したりしないようにしなければならない。

 やすりと木炭の上に水を軽く絞った手ぬぐいを乗せて、粉になった細かい炭が空中に舞い上がらないように用心する位のことはしておいたほうがいい。

 くれぐれも新鮮な空気が流れこんでくる環境で慎重に作業してくれよ」


 その日の日暮れ頃になって、やっと七輪の練炭が燃え尽きた。

 七輪の中を仔細に調べると、燃えカス=灰は七輪の底にあった空洞部分へ落ちている。

 16個の穴は、空気の供給口というだけでなく、燃えカスを下に落す目的も兼ねているということが判った。

 誠に合理的である。

 今回、火鉢の底に空間を作るため金網で仕切ったが、これも功を奏したようだ。


 昨日、助太郎が作った七輪は練炭の底を支える仕組みがなかったので、多分燃え終わる直前で炭が折れて落ちてしまう感じになるに違いない。

 すると、七輪の底にもう少し支えを多く作るか、金網を敷くことができるように工夫を追加したほうが良さそうだ。


 ともかく今回の試みでは空気穴を全開にして実施した。

 この状態が一番早く燃焼すると聞いていたが、それでもおおよそ半日保つというのは、全く素晴らしい。

 空気穴を絞れば、効能通りの性能を発揮できるだろう。

 この分であれば、明日実物を見せることができる。

 明日の朝、今までに出来上がった練炭15個と火鉢を改造した仮七輪3個を一緒に家に運んでもらいたい旨の依頼をし、義兵衛は意気揚々と帰宅した。


 そしてその夜「明日実物に近いものを見せることができる」と、父・百太郎に報告したのだった。

 多分、助太郎も同じように自分の父・彦左衛門に今日見た成果を、これからの夢を、延々話し続けているに違いない。


「竹森貴広様、自分はあなた様のことをちょっと疑ってしまっていたことを恥じます。

 このような素晴らしいものを生み出すことが出来たのも、竹森貴広様からのお教えがあったからです。

 最初に話しておられたように、この村はうんと豊かになれるような気がしてきました。

 本当に感謝致します」


 翌朝、義兵衛は助太郎のところへ練炭・成型木炭15個と仮七輪3個を取りにいった。

 重量は全部でおおよそ6~7貫=24Kg程度であり、一人でも運べなくはない量であるが、念のため二人での運搬である。

 練炭は何かにぶつかると崩れやすい、ということもあり、背負い籠に入れて充分注意して運ぶ必要があったのだ。

 義兵衛が助太郎の家に着くと、すでに背負い籠に練炭が入れられて運び出す準備は出来ていた。


「この練炭・七輪を名主・百太郎さんの前で披露するのだろう。

 可能であれば、その場に同席させてもらいたい」

 多分、これから起きるであろう驚きと感動の場面を直接見たいのだろう。

 その気持ちは充分判る。

 これは二人で協力しあって作り上げた宝なのだから、一緒に誉れを得たい気持ちはよく判る。

 ウキウキした気分で、名主の家の庭まで荷物を運び、昨日使った仮七輪と練炭各1個を庭先のまん前に並べた。

 残りの火鉢2個と練炭14個は後ろ側に並べた。


 そして準備が終わる頃、名主・百太郎と息子の孝太郎が庭先へ降りてきた。

「こちらが、前説明した練炭と七輪の実物に似た試作品です。

 ただ、3日という限られた時間で作ったため、ここにある七輪は原理に忠実に火鉢を改良しただけの代物です。

 本物の七輪も4個分について形だけは作っていますが、まだ乾燥が足りなく焼き入れまではいたっておりません。

 なお、このような短期間で、とりあえずのものが準備できましたのは、ここにいる助太郎が懸命に手伝ってくれたからです。

 助太郎に手伝うよう手配して頂いたことに大変感謝します」


 口上の中身より実物を見て興味がわいたのか、孝太郎は練炭と仮七輪の前にしゃがみこみ手で触ろうかどうしようかと逡巡している。

「大きさ、形はだいたい判った。では、火をつけてみてくれ」

 百太郎が命じる。


 義兵衛は、練炭を仮七輪の中に入れ、上に枯葉を数枚乗せた。

「火を借ります」

 母屋に入って台所の囲炉裏から手にした縄に火を取り庭に戻ると、縄の先に光る赤い点を枯葉にくっつけた。

 枯葉から白い煙が一瞬立ち上ると、直ぐに火は燃え上がった。

 そして、枯葉の火が消える前に練炭に火が着き、見る間に練炭の上面から炎が燃えあがり、赤色に光り始めた。


「これで火が着きました。

 ご覧になったように、火は簡単に着きます。

 このあと、火力の調整は仮七輪の下側にある空気穴を調整することで行います。

 今は全開にしていますが、ここを閉じても火は消えず、燃え方がゆっくりになります。

 どれだけ長い時間燃焼が続くかを見るために、この空気穴を閉じさせてもらいます」


 百太郎と孝太郎は七輪に近寄り、練炭の燃える様を見つめたり、手をかざしてどの程度熱が出ているのかを感じようとしている。

「この上に金網を置いて鍋を載せると、ちょっとした煮炊きぐらいはできますよ」

 孝太郎は金網と水を一杯に入れた鉄瓶を持ってくると、七輪の縁に金網を渡し鉄瓶を載せた。

 しばらくすると、お湯が沸騰し、鉄瓶の口からシュウシュウと蒸気が吹き出してきた。

「囲炉裏の強火ほどの火力は無いと見たが、これを持っていれば、道傍や野原・田んぼの中で湯を沸かすこともできる。

 なかなかのものだなあ」

 兄・孝太郎は鉄瓶から湯飲みに湯を移し、これを飲みながら感心して見ている。


 父・百太郎は練炭そのものに興味がある感じで、並べてある練炭14個を順に手にとって重さを確かめたり、形・特に開けてある16個の穴を仔細に観察して、聞いてくる。

「この練炭は1個400匁(=1500g)位の重さかな。運ぶ時の注意はあるのかな」

「まあ、それより少し軽い感じでしょうか。350匁(=1300g)位です。

 材料は売り物にならない木炭の切れ端や小枝を使っています。

 物にぶつけると形が壊れますので、運ぶ時には背負い籠に入れるのが良いようです」

 これは助太郎から答えがあがった。


「練炭1個でどれ位の時間、火力が続くのかな」

「昨日試したところ、空気穴を全開にして半日は持ちました。これは最初に献策したときの見積もりとほぼ同じです」

 義兵衛は、自分が考案した訳でもないのに胸を張って答えた。


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― 新着の感想 ―
携帯焜炉!
[一言] どうせ大工を取り込んだらオガ炭や集成薪を作れば江戸が薪材の1大生産地になりお殿様の手柄に成るでしょう! 江戸は普請場ばかりありおが屑木っ端が山ほど有りどうせならロケットストーブを陶器で作るか…
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