試作品を作りました <C206>
全手作業での練炭作りですが、実際は違うのではないかと思っています。が、まあ、試行錯誤しているということでご理解ください。
試作品製造の1日目、大工の息子である助太郎のところへ行き計画を説明するところから始めた。
全部で50人程度しかいない村の中で、同じ歳の子供がいるというのは珍しいほうで、義兵衛と助太郎は小さいころから何をするのも一緒だった。
ほんの小さい頃から村で一緒に遊び、寺子屋でも一緒に学んだ助太郎の性格を、義兵衛は実に良く知っている。
いつしか助太郎は寺子屋通いを止め、それ以来助太郎と一緒に何かをするということは久しく無かっただけに、今回の試みを義兵衛は楽しみにしていた。
昨夜、この話を聞かされた助太郎も同様に楽しみにしていたようだ。
父・百太郎もこのあたりを心配したのだろうか「これは遊びじゃないということはきちんと判るように取り組んでもらいたい」と釘をさしたのだろう。
そして、助太郎は大工としての家を継ぐ覚悟を早々と固め、父・彦左衛門の下で下働きの修行をもう5年もしている。
このあたりの覚悟が義兵衛とは違っているせいか、久しぶりに話しをすると、主導権を握る義兵衛のほうがどこかまだ幼なさを感じられるくらいだ。
それはさておき、助太郎に与えられた工作机の上で、今回の成型木炭作りの作り方だけでなく、作ることによって村にもたらされるであろう恩恵をまずは説いた。
すると助太郎はこのアイデアに夢中になった。
作らなければならないものは、練炭と七輪である。
まずは、練炭の原料となる売り物にしない木炭を集めることから始めることとなった。
助太郎の家は木炭を作る家だけに切れ端は至る所にあり、あっという間に8貫=2俵分=30kg程度の量をそろえることができた。
これを細かく砕いて粉にしていく。
とりあえず木炭を固定し、粗目の鉄鑢でガリガリと削っていき、粉炭を作る。
作業を始めた時に、粉塵爆発というキーワードが頭を掠めるが、空中を満遍なく舞うような状況ではないのでこれは無視した。
盥一杯分、約2キロ程度の炭粉ができたところで、少量の水と麩糊を混ぜこね合わせる。
ここまでは順調にできたが、型に押し込んで抜くというところで問題にぶちあたった。
成型のため、粉を固めた後型から抜けないという状況に陥ったのだ。
高さ4寸=12cm、直径4寸=12cmの円柱に蓮根状の穴が開くように棒を立てた型を造っている。
そこに、細かく砕かれた木炭に麩糊を混ぜたものを流し込み、それを固めた後に型から抜こうとすると抜くことができない。
どうやら、型に蓮根穴を開けるために立てた棒が邪魔をして抜けないようだ。
燃焼の効果有無はともかく形だけでも似せるため、成型時に直径約3分の1寸=1cmの穴を16個開けるというのが無謀だったようだ。
しかたがないので、穴は成型後にくり貫くことにして型から蓮根穴の棒を引き抜き、まずは円柱形の炭を1本作り上げた。
この円柱に直径直径約3分の1寸=1cmの16個の穴を開ける。
中心に1個、それを囲んで5個、外側に10個である。
穴を開け終えたら、これを風通しの良いところに置き、乾燥させる。
乾燥するまでにはまだ1~2日かかると思われるが、出来栄えはともかく、これで練炭もどきを1個作成できた。
乾燥の手間を考えると、円柱の中まで捏ねた炭で満たす必要はないことに気づいた。
その結果、型に接する所だけ捏ねた炭を使い、中は粗目の粉炭をそのまま流し込むことで固めることとした。
もっとも、穴を開けるときに粉のままではこぼれることから、流し込む粉炭も多少の麩糊を混ぜ、捏ねた炭の水分で固形化することを図った。
また、型についても円柱形にくり貫いた木を半分にし、成型後に抜くのではなく、型を割って取り出すほうが簡単なことに気づいた。
炭を粗く挽いたり、また薬研を使って細かく挽いたり、詰め方を工夫したりといったことを繰り返し試しているうちに、初日だけで全部で16個の練炭らしきものを作りあげることができた。
試作品製造の2日目、練炭を乾燥させている間に七輪作りである。
確か軽い耐火レンガのような仕上がりだったと覚えている。
珪藻土を焼き固めた作りで、下に空洞と調節できる空気穴があり、そこには練炭が入り込まないようになっていて、その上の所に練炭がスッポリ入る中空構造だった。
上面は練炭表面より縁が半寸=1.5cm盛り上がっていて、金網を上から被せ、その上で魚なんかの焼き物が出来たんだよな。
基本的な構造図を示すと、工作に器用な助太郎は粘土でそのものを作成し始めた。
寸法は乾燥と焼き上げで多少縮むことを見越しておく必要がある。
そして、この乾燥・焼き上げにある程度日数が必要となる。
しかし、見本として仕上げる程度であれば、焼き上げまではしなくてもいいかも知れないと考えていた。
また、七輪が間に合わなさそうなことも考え、助太郎が粘土の七輪を作る傍ら、義兵衛には大きさが手ごろな火鉢を探しまわってもらうことにした。
手ごろな火鉢が見つかれば、内側に粘土を貼り付け、下側側面に調節可能な空気穴を開け、金網を加工して中空構造を作るといった加工をして即席の七輪を作ることができる。
助太郎が七輪を粘土で4個作っている間に義兵衛が村中を探し回ると、どうにか3個ほど格好の大きさの火鉢を見つけることができた。
そこで、助太郎の七輪は乾燥・焼き上げが必要なので、試作品にはまだちょっと早いということで、作成は4個で留め、出来上がった分は乾燥に廻して手を空かせ、火鉢の改造を手伝ってもらうことにした。
この段階でもう夕方になってしまったため、火鉢改造の実際の作業は翌日になってしまうことになった。
試作品製造の3日目、火鉢の加工を行う。
まずは七輪代わりの火鉢を1個仕上げてから、試しに一番良く乾いている練炭を入れて火を付けてみることにした。
仮七輪に練炭を入れて隙間の具合、下側の空間の開き具合を確かめる。
練炭の上に枯葉を数枚置き、大工棟梁の部屋の囲炉裏から火を借りてきた。
縄の先にポッと着いた火を練炭の上の枯葉に移す。
枯葉が白煙を上げ始めると間もなく、火は枯葉に移った。
そして枯葉が燃え尽きる前に練炭の穴の縁に火が移ったようで、赤い炎が上がる。
仮七輪の側面下側の空気穴は全開になっていて、空気が流れ込んでいるようだ。
「どうやら、上手く火がついたようだ。
しかも、枯葉数枚程度で済むなんて、結構素晴らしいじゃないか。
まあ、着火については文句なしだよな。
思った通りになるのは感動ものだよ」
義兵衛は感心したように声を上げる。
助太郎も練炭の上面に広がる炎をうっとりしたように見つめている。
「あとは、この練炭が燃え尽きるまで、どの程度時間がかかるかだな。
空気穴を閉めると長持ちすると聞いているが、開けた状態でどの程度燃焼時間が続くのかを調べておきたい。
まあ、一応半日は持つと聞いてはいるのだが」
「これは大したもんだ。
ひょっとすると、この練炭と七輪は村の救世主になるかも知れない。
安く買い叩かれていた木炭や、卸すこともできなかった炭さえも金に化かすことができるなんて、義兵衛さんは凄いことを考え出したもんだ。
これは、きっと上手くいくよ」
助太郎は静かに熱を発する七輪を前に感嘆の声を上げていた。
誤記も含め、コメントなどいただけると大変嬉しいです。