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佐倉行きの指示 <C2459>

2018年1月に投稿を始めてから3年が経過しました。なのに、小説の中ではやっと8ヶ月経過と相変わらず遅々として進んでおりませんが、ご容赦ください。今日もギリギリ(1時間前)での投稿です。

 椿井家江戸屋敷の長屋で、助太郎と樵家の佐助さん一行が待っていることに義兵衛は驚いた。

 ただ、ここで事情を聞く時間もなく、紳一郎様に急かされるまま御殿様へ報告をしに座敷へ向った。


「驚かせたが、明日は佐倉へ向かえ。明後日になるが木野子村の工房で、佐倉藩勘定奉行の金井殿が待っておるとのことだ。木炭を焼く窯の話ゆえ、里の助太郎と窯作りのできる者を呼び寄せておる。詳細は助太郎に指示しておるので、行き道で聞くが良い。

 それで、今日は御奉行様に何を話した」


 義兵衛は、飢饉対策の米備蓄の話より旗本・御家人の困窮対策を聞きたがったことなど順を追って話した。

 そして、報告を最後に回した『責任者として田沼意知様が丁度良い』と推した話を始めたところで、御殿様は手を突き出して遮った。


「大和守様(田沼意知様)を、若年寄の枠外に同格で独立した責任者とすることに興味を示したのじゃな。

 おおむねの内容は理解した。義兵衛の言う通りにしたら、結局は御公儀が蔵米支給から、その一部を金子の支給に切り替えることになろう。旗本・御家人の格付けを根底から揺るがすことになるゆえ、責任者となった大和守様に怨嗟の声が集中することは否めないな。それに、蔵米支給の者達はともかく、知行地を賜っておる家には、それでは工夫が足りておらぬの。困窮する旗本・御家人をどう細かく指図するのか、人も足りぬな。

 まあ、それを考えるのは義兵衛ではなく別の者ということで良いのかも知れんがな。いずれにせよ、この分では明日にでも田安中将様(元松平定信様)には再度お話をさせて頂くことが必須じゃな。

 後はこちらで引き取ろう。全く余計な話を広げてしまったものじゃ。いや、一応釘は刺しておるようじゃが、きっと何の役にもたたぬ。田沼様から義兵衛を指名して呼び出されても対応できぬ様に、しばらく佐倉へ避難しておれ。

 安兵衛殿、旗本・御家人の救済について義兵衛の発案であることを伏せねばならぬこと、御奉行様には確実に念押ししておいてくだされ。明日からは一緒に佐倉へ行くのであろう。義兵衛のこと、よろしくお願いしますぞ」


 報告は波乱もなく終わったが、長屋へ戻るときに紳一郎様から真意を告げられた。


「殿は家の存続の事を真剣に考えておられ、あえて御三卿の田安中将様側につくことを選択されておる。田沼様側にはすでに甲三郎様がつき、一ツ橋様側には養子に行った弟の壬次郎様をあてる算段で均衡を保とうと苦心されておるのだ。大和守様が若年寄並のお役に引き上げられるにあたり、殿が裏で関与していることがこの均衡を乱すことを心配されておるのだ。とても細い道を進まれておるのに、それを義兵衛が揺さぶってなかなか先に進めぬようにしておるのじゃ。

 殿は決して義兵衛のしてしまったことを責めはせぬが、少しは用心してもらいたい。曲淵様に肩入れして入れ知恵すると御老中様に筒抜けとなり、どうしても田沼様寄りになってしまうのだ。その分、殿は危険を承知で中将様と親しくせねばならぬ。

 それと、これは直接口にはしておらぬが、息子の泰五郎様を西ノ丸様(次期将軍、家基様)の所にご奉仕させることを目論んでおる。こういった心算つもりゆえ、今の時期から微妙な舵取りをせねばならんのじゃ。義兵衛は、泰五郎様を支える重臣となる予定であろう。あるじを間違えるでないぞ。

 それと、これは今回の佐倉行きの旅費じゃ。助太郎分と佐助達分も含めて5日分ある。皆の滞在費は別に渡しておるから心配せずとも良い。江戸の様子によっては滞在を伸ばすよう指図するやも知れぬので、11日位には連絡のつく場所に居れ。

 それから、おそらく義兵衛以外は当分佐倉に居ることになろうが、そこの手当ては佐倉藩が持つことになっておる。当家に負担はないので、そこは心配するな。あとは、佐倉の練炭作りの様子をしっかりと見てこい」


 隣で安兵衛さんが聞いていることを承知で、紳一郎様はこう言い終えると屋敷奥へ戻った殿の後を追った。

 泰五郎様の件、家中で秘すべき話を安兵衛さんが居る場でわざわざ語るということは、何か思惑があるに違いない。

 しかし、今はそういったことを考えている場合ではなく、明日の佐倉行きに備えねばならない。


「安兵衛さん、12日には江戸に戻る予定となっているようだ。

 奉行所に戻る前に、日本橋の萬屋千次郎さんに『明日早朝にこの屋敷に来てくれれば、佐倉へ同行することが出来る』と伝えて欲しい。急な話だが、いつものことなので、準備はできているに違いないと思うが、もし同行できない場合は使いを寄越して貰いたい」


 こう言って安兵衛さんを送り出すと、長屋で助太郎と佐助さんを含め、明日以降の予定を確認した。


「堀田相模守様から木炭窯作成指南の要請があり、今回の佐倉行きの下知となった旨の説明が細江様からあった。明後日から3日間は義兵衛と安兵衛さんを一緒させるが、その間に当面の予定を相談して決めるように、とのことだ。先方の要望にあわせ、期限を決めれば良いとのことなのだが、だいたい1ヶ月位と見て細江様からは樵家の面々に前金を渡されている。

 自分はまた佐倉に長期滞在ですよ。金程村の梅さんが脹れているのが見えるようだ」


 佐助さん達は、すでに前金として一部分を受け取っているようでニコニコしている。

 金額は1人1日1分(1000文=2万5千円)で1ヶ月分の1人7両2分が提示されていた。

 この内約半分の銀200匁を各人に渡し、残りは里の館で預かる格好となっているようだ。

 原資は、指南要請の時に御殿様が掛け合い、佐倉藩から出ているそうで、椿井家が得た前金の総額は教えてもらえなかったそうだ。

 以前、佐倉で樵家の人の給金として1人1日600文を渡したと説明した覚えがあるので、これを切り上げして1人1日1分と佐倉藩に申し入れたに違いない。

 おそらくこれをピンハネする気がない御殿様は、それを丸ごと樵家の者達に還元したものと推測した。

 そして、作業内容の木炭窯作成の技術指導であれば、名内村でも実績がある。

 ただ、今まで聞いていることを勘案すると、一箇所の村で指導するだけではなく、複数の村に指導して回ることが想定される。

 そうであれば、複数の村から習う人を出してもらい、あとはそれらの村を巡って指導していけば効率が良いに違いない。


「里に戻ってから一月もせぬ内に御殿様からの呼び出しと聞いて、なんぞ不具合でもあったかと心配しておりました。しかし、江戸に来て話を聞き安堵しました。おまけに、前よりも多い給金を頂けるとはありがたいことでございます」


 佐助さんは一行4人を代表して義兵衛に頭を下げてくる。


「これだけの銭を頂けるのであれば、年貢を納めるのも訳ありません。今年の里の年貢米は、江戸屋敷と里のお館で使う米の分だけで良いと言われて、皆大喜びでございました。手元に銭もあるので、とても助かります。

 ただ、収穫した米については、『今まで年貢として選り分けていた分は、籾米のまま新しく作った蔵に納めよ』との指示が名主様から出ており、口に入る分が増えた訳ではないところが残念でございます。カカアは『これじゃあ、前と少しも変わってない』と愚痴を言っておりましたけど、気持ちが違います。

 近々大飢饉になるとの噂がございましたでしょう。『これに備え3年分の米を蓄える』と名主様は申しておりましたが、これから毎年年貢米を蓄えたところで、蔵が一杯になるのは随分先のことと皆口にしておりました」


 里の様子をポツポツと教えてくれる。

 どうやら飢饉対策を進めていることは、村人に周知されているようだ。


「これも、今年金程村に出来た木炭加工の工房のおかげですよ。佐助さん達、樵家からも奉公人を出してくれているでしょう。ここで作った練炭なんかを江戸で売って、その利益で米を買い、蔵に米を積み上げて飢饉の年を凌ぐつもりなのです。

 御公儀も本気で対策をするようなので、今に周りの村も様子が変わってきますよ」


 義兵衛の説明に佐助さん達は頷いた。


双葉文庫「おれは一万石・商武の絆」千野隆司著に、松平定信様の棄捐令のことが出ておりました。シリーズ第14弾ということで、かなりの読み応えがありますが面白くて嵌ってしまいました。

そして相変わらず感想に返信できておりませんが、これはしばらくご容赦ください。

皆様、引き続きよろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
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